信頼の呼ぶ声
――カチン。カチ……カチ……
カチン。無機質な何かを叩くような音は、一条の耳には届かなかった。
彼女は腹の底から沸きあがってくる悲しみを吐き出すために、体に残った全てを浪費している。
血を流し体力を限界以上に削った体と砕けた精神に、その音を聞き取る程の注意力は残されていない。
周りで誰が何をしているかなど理解できるはずもない。
「げほっ!がほっ!……かは……ぁ」
呼吸困難に陥る寸前にまで陥って激しく咳き込む。体育館に響く声はまだ途切れない。
四つんばいで地に伏す体に生暖かい何かが付着する。床にこすりつけた額や頬を傾け、少しだけ目を泳がせる。
塚本八雲の体から流れ出ているそれを認めると、一条は再び縮こまりイヤイヤと左右に振った。
もう死んでしまいたい気分だった。だがその気力すら起きてこない。
何も感じない人形のような体になってしまえばどれだけ楽なことか。
精神に異常をきたし笑うことができればどれだけ幸せだろう。
力の限り抱きしめたことをはっきり覚えている。それだけではない。
あの瞬間の彼女の全てを覚えている。体はとても温かく柔らかく、何よりあの太陽のような笑顔が忘れられない。
初めて見るはずなのに自分はそれを前から知っている気がした。
今だからわかる。彼女が再会のときに見せた表情。それは彼女の姉、天満が持っていたものなのだ。
塚本姉妹は学校でも色々な意味で有名だったが、二人を知った者は決まってこう言う。
『本当に姉妹?え、こっちが姉じゃないの?だって』
『え、ひどーい。私がお姉さんだよ〜』
『そんなこと言わないでください。姉さんは私よりずっと立派な人です』
幼い口調で怒る姉と丁寧だがきっぱり否定する妹。
そして大勢の人が姉妹のことをこう記憶する。『出来た妹とダメな姉』と。
だが最初から評価の高い八雲に対し、天満は恐るべき猛追を見せる。
二年生に進級し嵯峨野と同じクラスと知った時、彼女がクラスの中心になるのではないかと思っていた。
彼女は誰にでも気軽に話しかけることができるし、人付き合いもいい。
だがそんな嵯峨野すら霞んでしまうほどのものを持っているのが天満だった。
全ては彼女の天真爛漫な性格と、何もかも包み込むような笑顔によるもの。
クラスの皆に記憶され、天満を知ればまず忘れられないその表情。
しかし彼女は死んでしまった。その瞬間に2-Cの中心が失われてしまったはずだった。
「八雲……ちゃん……」
だが二度と見ることができないと思っていたそれを今度は妹の八雲が為してくれた。
二人は間違いなく姉妹なのだ。烏丸や西本を殺してしまい、雪野を助けることができなくても。
友人達が死に、もはや誰にも自分を求めてくれる人はいないといくら責めても。
人を憎み自らの歩みが正義で正しき道と、独善的な考えに凝り固まったとしても。
それでもなお自分は誰かに認められ、許され、愛されている。全てが洗い流され、悪いものが全て消えた瞬間だった。
「何で……八雲ちゃんが…………」
自分が生きて、何故彼女が死ななくてはならないのか。どうして救われたまま自分を死なせてくれなかったのか。
一条は呻き、今度は小さく長く泣いた。
* * * * * * * *
「今の、ナシ……やりなおし……ねえそうして。ねえ誰か……」
『おめでとう。これであなたは一人の命をこのゲームから救ったのです!』
カチ、カチン。金属製の小さな何かがこすりあうような音は全く気にならなかった。
全てが罠で手の内で踊っていただけにすぎないことを理解しても、沢近は呆然と膝をついたまま動かない。
一条のように倒れ伏さないのが不思議なほど、彼女の体には力が込められていない。
そのまま誰かにすがるように呟き続ける。瞳にはパソコンが映されているが彼女は違うものを求めていた。
「だってそんなのないわよ……皆頑張ってきたんだから……そうでしょう。ねえ中村、何してるの」
『おめでとう。これであなたは一人の命をこのゲームかラ救ったのです!』
「八雲、起きなさいよ……ヒゲを見つけたところからやり直すんだから」
『おめでトう。これであなたハ一人の命をこのゲームかラ救ったのです!』
「今度は違うわよ。フラッシュメモリには首輪の解除方法が入っていてスイッチ一つで皆助かるの」
『おめデトう。これであナタハ一人の命ヲこのゲームかラ救ったノデす!』
「アンタを中心に皆で抱き合って喜ぶ。大人達は大慌て」
『おめデトう。こレであなタハ一人の命ヲこのゲームかラ救ったノでス!』
「晶と合流して説得して、全員で協力して戦うの。そうすればあんな奴ら敵じゃない」
『オめデトう。こレデあなタハ一リの命ヲコのゲームかラ救ったノデス!』
「ヒゲが大暴れして、でもドジ踏んでピンチになって……私は背中をアンタに預けて……
でも大事なところで晶が助けてくれる。最後にウチの船が来てハッピーエンドよ」
『オめデトう。こレデあなタハ一リの命ヲコのゲームかラ救ったノデス!』
「やめて……やめてよ……ねえ、わかったわ。ワガママ言わない。
フラッシュメモリはヒゲのバカがなくしちゃった。
私はそれを責めるけどアンタはそれを庇うの。そうしましょう。だからやめて!」
『オメデトう。コレデあナタハヒトリのイノチヲコノゲームカラ救ッタノデス!』
「やめて……やめて、やめて……やめてやめてやめて!」
『オメデトウコレデアナタハヒトリノイノチヲコノゲームカラスクッタノデス』
開かれたままの体育館の扉から少しだけ強めの風が吹く。
沢近に残された片方の髪がわずかになびき、体の奇跡的なバランスが崩れる。
たまたま突き出していた腕がフロアを叩き体を支えた。
――ぬるり
目の前にある赤い水たまり。それをノートパソコンの光と月光が相まって、暗い虹色に照らす。
隣にある矢神高校の制服。これはただの服に違いない。そこから突き出た手足はきっとマネキンのものだ。
体の中を浸すような鉄錆の臭いも、微かに残る火薬の香りも、膝や両手についたどろどろも、
一条の叫び声も何もかもが間違っている。自分の見ているものがおかしい。
そう、気のせいに違いない。世界が狂ってるのだ。そう思い視界の端にあった黒くて赤いものに恐る恐る目をやる。
伊織が『それ』のすぐ近くにいた。サッカーボールほどのサイズの、人の顔のようなものの傍に。
「あ……あぁ……」
もうどこにも逃げる道はなかった。正真正銘、先程まで生きていたはずの彼女の一部。
塚本八雲の瞳は閉じられているが、今にも開きはじめて視線が合――った気がした。
「ひっ!」
黒いもやのようなものが一斉に心を覆い喰い尽くす。順調に心に根付いていた闇が開花する。
全ての元凶だと教師を憎み、否定しながらも都合のいいことにフラッシュメモリだけは信じていた。
目の前に甘いお菓子を吊り下げられただけで、それが毒であると疑おうとすらせずにとびついた。
感情に都合のいいものだけを絶対視して、親友を見殺しにしてしまった過去がありながら。
「…………許して、許して……八雲」
カタカタと体全体を震わせて自分の肩を抱く。震える手で何をしたところで意味はない。
魂が抜けたように座り込む。これまで支えとしていたものは失われた。
それらが砕けた今、いつもの表面上の強さは保てない。残っているのは彼女元来の弱さしかない。
八雲の抜け殻に消えゆくほど小さな声で謝罪する。手を伸ばせば届くそれに触れる勇気もない。
泣いている自覚もないままに、ただただ沢近は誰かの許しを求めていた。
「許して天満……ごめんなさい……ごめんなさい……」
誰かのぬくもりが欲しかった。父のような、塚本天満のような、何もかもを許してくれる優しさが。
必死で頭をめぐらせるうちに男と女が一人ずつ思い浮かぶ。まだ……あの二人がいる。
男のほうはすぐ隣だ。今は辛いだろうけど、そのうち立ち直る。その後で甘えよう。
だから今は耐えるしかない。そう思いつめることで沢近はかろうじて叫びだしたい衝動を抑えていた。
* * * * * * * *
播磨拳児には認めたくないことがあった。
メモリが罠だったことなどどうでもいいほどに、認めたくないことがあった。
『塚本八雲を殺した』
それだけは認めたくなかった。周囲の全てがぐにゃりと歪み何一つまともに見ることができない。
世界が溶けて終わりが訪れたと思い、それでいいとすら考える。
雪野を死なせた時は踏みとどまった。従姉に反発する形で立ち上がり、走った。感謝すらしている。
結果的には追跡を受ける前に逃げ切ることに成功したのだから。
だが――たった今起きたことと、雪野の時とはもう次元が違う。爆発は今も耳の奥で鳴り続けている。
頬から首にかけて、生暖かい血が衣服の中に入り込む。一条と沢近の涙声も鬱陶しくてたまらない。
「俺は……天満ちゃんの……ため……に……」
播磨はゆっくりと嗚咽しながら呻く。信じた行為の末に、その妹を殺してしまった。
八雲に何かしようものなら天満は絶対に許さない。彼女の笑顔をいくら思い浮かべようとしても
記憶のそこだけが抜け落ちたかのように思い出せない。彼女の何を考えても、そこに笑顔がない。
死ぬべきは自分だったのに。彼女の笑顔を失うくらいなら死んだほうがいい。
それが永遠に続くくらいならば――いや、永遠に続くだろう。何を持ってしても取り返しがつかないのだから。
――カチン、カチ、カチン。カチン。
いつしか播磨は黙りこくってしまった。一条や沢近のすすり泣きも聞こえなくなっている。
だがそれは閑寂の訪れではなく、これまでずっと察知できなかった存在を暴く。
一瞬の静寂の後に、突然ガチっと何かをはめるような音。すぐさま耳に入ってきたのは甲高い声。
「ねえ皆、いつまでそうやってるの?」
口を開いたのは、大物の機関銃を携えた三原梢。残された三人は呆然喪失のまま顔を上げる。
「辛いのはわかるよ。私は天満ちゃんともこの島で会っていた。八雲ちゃんのことをとても気にしてたのを知ってる。
そして八雲ちゃんと半日以上一緒にいて、お互い支えあって生きていた。
二人ととても仲よかったから皆が辛いのがよくわかる。でもまだ終わりじゃないんだよ」
そんなことはわかっている――と一条は思った。けれどもうどうしようもない。
むしろそんなに明るく振舞えるほうがおかしい。
「返事がないね。播磨君、沢近さん、あの元気はどこいったの?……いいよ、私が皆をひっぱっていくから。
……親友の八雲ちゃんのために私は頑張るよ。これからは私がリーダー。言うことをちゃんと聞いてね。
三人とも、それが八雲ちゃんへの罪滅ぼしだと思ってよ」
言っていることが三人は理解できない。あれだけのことがあり、まだ三十分も経過していないのに。
何故こんなことを言えるのか。正しいかもしれないが……どこか自分達とは温度差がある気がする。
だが塚本八雲への罪滅ぼし、という単語はとてつもなく魅力的だった。
三原はちらりと三人を一瞥し、播磨に近づく。
呆けたような彼の顔を見て、世話が焼けるといわんばかりにため息をついた。
「そういえば播磨君って、私の親友八雲ちゃんのお姉さん、天満ちゃんが好きなんだっけ?」
「っ!?」
播磨が驚きの呻きをあげる傍らで、聞き捨てならないとばかりに沢近も顔を動かす。
「夕方の放送でハリー君の名前が呼ばれたとき、寝ぼけてた八雲ちゃんが播磨君が死んだって誤解してね。
辛くてつい話しちゃったんだろうね。洗いざらい教えてもらったんだ。好きな人も、漫画のアシスタントやってることも」
秘密の共有っていうのも友達の条件だよね、と三原は付け加える。
「……さて続きです。沢近さんと合流してから八雲ちゃんはちょっと様子がおかしかった。
正確には沢近さんが『播磨君は自分のことが好き』だなんて嬉しそうに言ってから」
ビクッと沢近の体が震える。沢近は播磨のほうを横目に見るが彼は三原しか見ていない。
何故三原が今になってそんなことを言い出すのか理解できないが、そんなことを考える余裕はない。
「私のカンだけど……八雲ちゃんは播磨君のことが好きだったんじゃないかなあ?
すごく泣いてたよ。誤解だって知った時は嬉しそうだった。ただのお手伝いじゃこうはならないよね。
でも播磨君はお姉さんのことが好きだった。そこに勘違いしてる沢近さんまで絡んできて辛くなった。
羨ましかったのかもね。知らないっていうのは幸せだなあと思ってたとか」
「……本当なの……?ねえ、ヒゲ……三原さん……」
もちろん。私は八雲ちゃんの大親友だからね、と三原は沢近にとびきりの笑顔を向けた。
播磨は否定せず、口を開いたまま呆然としていた。そして掠れる声を必死にひねり出す。
「俺が……好きなのは……天満ちゃん……だ」
「……………………そう」
沢近はそのまま口元を押さえ、嗚咽を漏らす。拳が握られて床を引っ掻く。
播磨にも衝撃だったのだろう。目を瞬かせ、口をぱくぱくと開き状況を理解するのに必死という様子。
隣の彼女の好意に気付いたかは極めて怪しい。
「さ、『かわいそうな八雲ちゃんのために』私達が頑張らないと。まずは高野さんを何とかしようね」
考える時間を与えない、必要ないといわんばかりに三原は播磨にいくつか質問を投げかける。
上の空の返事であるが、その分内容には主観が混じらず単純明快だった。
「へえ、このインカムで連絡取れるんだ。じゃあ沢近さん、武器とコレ持って高野さんに会いに行ってよ」
「え……」
「高野さんって親友でしょう?八雲ちゃんや天満ちゃんの大事なヒトだよね。二人とも高野さんには
死んで欲しくないって思ってるよ。説得できるなら沢近さん……そうだよね?」
ことあるごとに出てくる八雲や天満の名が、沢近の心を縛り上げる。無謀としか思えない作戦。
けれどもあの姉妹のためになると考えるだけで、それが誰も成し遂げたことのない偉業であると思えてしまう、
それに高野は親友だ。今の自分を慰めてくれるかもしれない最後の人間なのだ。
――彼は、自分を見ていないことがわかってしまったのだから。
またも甘い毒にすがりつこうとしていることに気付かぬまま、沢近は次の希望を見出し始める。
殺すつもりだという播磨の言葉も、何かの間違いかもしれない。
「……わかったわ……」
肩を叩いてくれた三原は満面の笑顔だった。穏やかな顔には物柔らかな笑みが浮かんでいる。
励ましてくれているつもりなのだろうと思い込む。
天満のそれとちがい、とてつもなく醜悪に見えたのも気にしないことにした。
沢近が出発するのを三原は体育館入り口のところで見送っていた。
その両手にはそれぞれ機関銃が握られている。一つは出発直前に沢近から無理矢理奪ったものだ。
大げさにふりまわし二人の場所に戻る。
「なあ、いくらなんでも一人じゃ……」
播磨がもっともらしいことを言う。三原には何か考えがあるのかもしれないが、危険すぎる。
全員疲れているのだから誰か見張りを立てて、などとセオリーどおりの事をぼんやりとした頭で考えていた。
「だーいじょうぶだって。二人は親友なんだから。何かあったら携帯使うだろうし。
……それに、あんまり沢近さんのことばっかり気にしちゃ私の親友がかわいそうだよ。
まだわかんないの?あの子は色々話したかったのに播磨君は顔をそむけた。私見てたよ。八雲ちゃんは悲しそうな顔していた!
沢近さんと楽しく話してパスワードを打ち込んでいるのを見てどう思ってたんだろうね?その結果」
「やめろ!わかった!……わかってる……」
その名を出されてはもう反論のしようもなかった。
何か理不尽なものを感じないわけでもないが、自分に非があるのは間違いない。
彼女――八雲には数え切れないほどの恩があるというのに、その命を自分は奪った。
そして天満の笑顔を自分は失ってしまったのだから。うなだれて播磨は呟く。
「じゃあ次。播磨君と一条さんは……そうだね、八雲ちゃんのためのお墓を作ってもらおうかな。
本当はお姉さんの隣がいいんだけど禁止エリアになっちゃったし。
西に静かでゆっくり眠れそうな森があったからそこに埋めてあげて……ね?」
「……そう……ですね……このままじゃダメですよね……」
ふらふらと一条が播磨より先に動き、播磨もそれに続く。開けっ放しの入り口を目指して何も持たないまま。
三原が大声をあげてそれを制した。
「ちょっと!私の親友を置いていってどうするつもり?ちゃんと連れて行ってあげなきゃ。
銃は要らないよね。ここに残して。食料とかナイフはまあいいや」
すたすたと歩き、ノートパソコンの傍にある――塚本八雲の首を三原は躊躇なく拾い上げた。
大事な芸術品を愛でるようにじっと優しくそれを撫でる。
「キレーなもんだね。すごい技術。首だけを体からとりはずしたみたい。
脳みそとか目玉とかがぼろぼろおちると思ったけど。よかったねえ」
播磨も一条も声が出ない。人が死ぬのとはまた別の、何かとてつもない光景が目の前にある。
そんな気がした。三原が近づいてくる。何をするつもりか播磨にも一条にも簡単に予想がついた。
そして思ったとおり、笑顔でその首を二人に差し出す。
「体のほうも忘れずにね。ちゃんと埋めてあげて。……命令違反は銃殺刑だよ」
* * * * * * * *
体育館の中には今度こそ静寂が戻っていた。三原は血に濡れたマットではなく別のものをとりだして、その上にごろりと転がる。
邪魔なすすり泣きはもう聞こえない。全員追い出したのだから。枕元には多数の火気類とノートパソコン。
高野とはまだ距離があり、沢近は順調に北上しているようだ。決戦に備え、自分は体を休め力を温存しなくてはならない。
誰もいない体育館は、最初は心地よかった。だがその空間が、次第にどうしようもなくぶち壊したくなるものに姿を変える。
自分の中ですっきりしないものが渦巻いているのだ。心の奥に溜まったそれを吐き出してしまいたくなった。
ここにはもう誰もいない。伊織もいつの間にか消えてしまった。
「……っく……八雲……ちゃん……」
せき込むようなしぐさで、三原は喉を鳴らす。もうあの子は戻ってこない。その認識が冷たく彼女の胸に落ちる。
間違いなく大事な親友だった。ほんの半日だけれども、確かな絆を感じていた。
彼女が死んだとき、心はどうしようもない力に押しつぶされそうだった。全員がそうだろう。
「っく……くっく……くくくははははははあああああはははははは!」
だから笑った。その事実に感謝した。塚本天満の、塚本八雲の名前の力を。二人の名の下に自分が全ての命令を下す。
播磨も沢近も一条もそれには絶対逆らえない。八雲を殺したのはあの三人なのだから。それを許せる存在はもうこの世にいない。
あの姉妹の絆は絶対だ。単なる仲のいい姉妹で収まることではない。
そして彼女らに理解を示している人間ほどそれを知っている。姉妹にとって互いの存在が半身であると理解している。
播磨が特に顕著だ。八雲の死は天満の死と言える。八雲を殺すことは天満を殺すことに等しいと言える。
八雲の名で下された命は天満の名で言ったも同然なのだ。
沢近が高野を殺すことに失敗したら(どうせ失敗するだろうが)次は播磨と一条をぶつければいい。
最後に残った相手には約二百発の銃弾をプレゼント。
呪い続けた運命を今だけは感謝した。塚本姉妹の代弁者のように振舞えることを。この島であの姉妹に会っていたことを。
一日にも満たない時間で天満とも八雲とも絆ができた。そして播磨や沢近と違い、自分はメモリの罠に『巻き込まれた側』なのだ。
もう一度その事実に感謝して三原は笑った。
「私は麻生君みたいに単純じゃない……すぐに殺すなんてバカなことはしない……利用して利用して利用して生きるんだ」
八雲が死んだ瞬間、夢を見続けるなどというあやふやな目標もメモリという希望も砕け散った。
もっとはっきりした希望が必要だった。生きるにはどうすれば。それを考えた瞬間、全てのピースがピタリと一致した衝撃を受けた。
そして自分にはそれができるという確信がこの上ない喜びとなる。だから自分は笑うことができる。まだまだ立ち上がることができる。
キラリと視界の隅で何かが光る。壊れた塚本八雲の首輪の残骸だった。彼女が応援してくれているようで、三原はもう一度笑った。
歓喜の渦に包まれる彼女は、黒猫が己を見つめていたことを知る由も無かった。
* * * * * * * *
「降りよう、葉子。ここからは徒歩のほうが早い」
ようやくG-03に到着し軍用車はその振動を止める。一度道路に出れば道のりは楽なものだった。。
平瀬村を通過するときは緊張したが、禁止エリアに接触しても爆発前に発せられるアラームは無言だった。
姉ヶ崎はどうやらまだ自分達を生かしておくつもりらしい。余裕の証明だろうか。
カーナビを確認するが、何故か生徒達は固まらず分裂している。何があったかはわからないが好機である。
「すぐ近くにいるのは拳児君と一条君か。沢近君も気になるが……」
話し合いの余地があるならまずこの二人だろう。カーナビがアテになるのなら歩いて五分もかからない。
「衛星もあの人の手中にあるはずですからね。でもそれに手を出すのは追い詰められてからです。まだ信用できますよ」
刑部の懸念していたことをいち早く読み取って笹倉が返す。つくづくいい友人を持ったものだと軽く感謝した。
姉ヶ崎の時同様まるで見知ったような言い方だったが問い詰めない。それは杞憂かもしれない。
だが何かを知っているならば、必要だと思ったときに話してくれるだろう。そう刑部は信じていた。
「行きましょう。進むしかありません」
軍用車の扉をロックして、二人はヘッドライトを灯し闇夜の森を疾走する。
幽霊のような風貌をした播磨達を見つけたのは、それから数分もしない後のことだった。
「あ……」
踏み入った森の中で突如として目に入る眩しい光。迫り来る刑部らの姿を確認した瞬間、一条はそこに倒れ伏した。
抱いていた八雲の首をあらかじめ地面に寝かしておいたのが唯一の救いだったのかもしれない。
もはや一条にとって二人は裁きの対象ではない。恐怖こそすれ、歯向かう意思すらない。自分達を殺しにこようがそれでよかった。
八雲のところへ連れて行ってくれるならば――むしろそれを願い、黙って二人が近づくのを待つ。
「……何しにきたんだよ」
数時間前に必死で逃げた二人を、播磨は冷ややかに見る。そしてすぐ隣にある八雲の体を守るように立ちはだかった。
今更何用なのだろう。メモリの回収などといってこちらの危機感を煽った二人が、結末を知らないとはいわせない。
殴りかかっても敵わないのはわかっている。そもそももう力が残されていない。
首を失い血が抜け落ちて、驚くほど軽かった八雲の体を運んで疲弊したわけではない。そういう問題ではないのだ。
自分にとって絶対である塚本天満はもう許してくれないのだから。彼女が望むとしたら教師ではなく自分の死。
だがそのせいか、二人に対する怒りは沈静化していた。
対峙して、一瞬だけ沈黙が訪れる。意識したわけではないが、先手を打つ形で播磨は続ける。
「メモリの回収なんて大嘘だったんだな……知ってたんだろ?」
「いや。私達が知ったのはあの後だ。ついでに言うならもう私達は君と立場は対して変わらん。信じるかい?」
「……もうそんなことはどうでもいいんだよ」
興味がないとばかりに目を逸らす。だがその先には笹倉がいた。かがみこんで一条に話しかけている。
「何ですか。さっさと殺したらどうですか」
「一条さん、立てる?さっきのことはごめんなさい。でもまずは手当てをさせて。全身真っ赤よ。
着替えとインスタントキットくらいなら用意できるわ。肩を貸してあげるからもう少しだけ頑張って」
「え……」
用件だけを言って笹倉は強引に立ち上がらせる。一条も大した抵抗を見せずにそれに従い、徐々に自分達から離れていく。
何をしたいのかよくわからない。予想外の光景が広がっている。
「葉子!戻ってくるときにスコップを二つほど頼む」
森の奥から返事を受けてから、刑部は播磨の隣を通り過ぎる。地面に指を突き刺して土の柔らかさを確かめるようなそぶりをした。
先程といいまるで彼女の埋葬に手を貸すといわんばかりに。
「ふざけんな……何……今更いい人ぶってんだよ!」
「言ったろう。もう君達と立場は同じだ。都合のいい話だが、私と葉子は管理側を抜けた。……塚本君を救いたかった」
「勝手なこと言ってんじゃねえっ!!」
一瞬で吹き上がった感情が播磨の体を動かした。全てを焼き尽くすような怒りが心の中を荒れ狂う。
背を向けていた刑部の体を突き飛ばし、八雲から離れさせる。そのまま馬乗りになって彼女の首に手をかけた。
金属特有の感触がする。だがそこに力を加えることの危うさはもう彼の頭にない。
「今更……てめえ……っ……!」
命の危機に対して刑部は特に抵抗らしい抵抗をするつもりはなかった。
怒りの合間を縫って見え隠れする深い悲しみを自分にぶつけているのがわかったから。当然だろう。
その表情に魅せられたように見つめる。分かっていたことだ。それを受け入れるのがせめてできること。
彼の涙の粒が少しでも止まりますように。網膜に従弟の顔を映しながら、うっすらとそう思った。
だが首周りの力が弱くなり、締めつける手が震えを帯び始め、自分がまだ死ねないことを感じ取るのだった。
「拳児君……どうした。終いか?」
「…………一つだけ聞くぜ」
一通り叫んだ後に力を抜き、体勢だけはそのままに播磨は眼前の教師に問いただす。
先程までの強気な心はなりを潜め、再び弱々しい姿を露呈した。震える唇と舌を精一杯に使う。
「……俺は……俺はこれからどうしたらいいんだよ……天満ちゃんのためにって誓ったんだ……」
何故視界がとうに曇っていたのか、雫が彼女の顔にかかる音がして初めて泣いていたことを悟る。
ぽた、とまた一つ雫が垂れる音がした。刑部の表情はわからないが、瞬き一つせずこちらを見ているのが想像つく。
それが彼女なりの優しさであることもここにきてようやく理解していた。
「なのに……絶対にやっちゃいけないことを……妹さんを……俺の手で……」
震える声でゆっくりと、すがるように話しかける。
目の前の忌まわしい『教師』ではなく……昔から見知った『刑部絃子』ならば答えてくれるかも知れない。
「もう天満ちゃんは笑ってくれねえ……そんなんじゃ漫画も描けねえ……教えてくれよ……」
答えようのない問いの解答を、一縷の望みを、持てば裏切られると知ったはずの希望を彼女に託す。
このどうしようもない、逃れられない罪悪感をどうすればいいのか。
「そうか……とりあえずどけ。重くてかなわん。あとその情けない顔はやめることだ」
「……」
播磨が離れたのを確認し、刑部は軽く服装を整える。衝撃でとばされたヘッドライトを拾い出力を弱め、軽く咳払いをした。
そしていつものように、静かで諭すような瞳で播磨を見る。播磨はそれを良く知っていた。
彼女がそういう顔をするとき、既に答えは用意されているのだ。
「死者を代弁し、利用するのは非常に危険な行為だと私は思う。だがあえて聞くぞ。
客観的な模範解答はない。傲慢だと思うかもしれんが、君の主観で考えろ……いいな。問題だ。
『塚本八雲がもし自分の死因を知ったら何と言う?』」
――********
彼女の声が聞こえた――気がした。
「…………そんなわけ」
「何か心当たりはあるようだな。それが正しい。エゴが混じっているなどと余計なことは考えるな。
私や葉子が言っただろう。誰かを説得するとか、君には頭を使った作業なんて向かない」
感じたとおりが正解だ。そう言われているのだろうか。今度は従姉の口が先に動く。
「君は単純でバカで、人付き合いに苦労する人間だ。つっぱってるくせに頼れる誰かには思いきり甘える。
あまりいい傾向とはいえないな。まあ簡単に信用しない分、友人を大事にすると言っておこう。
その信頼故に、相手の伝えたいことを反発せずに正しく理解し受け入れることができる。
一だけで十まで。調子のいい時は言葉も行為も必要ない。それはお互いとても気持ちのいい関係だ。
私と葉子を思い出してくれればいい。……『きっとアイツならこう言う筈だ』。
経験則だが、そういうのは結構当たっていたりする」
「駄目だ……今、俺が考えたことは……とんでもないことなんだぞ……」
『わたしでよかった』
これまでにない何かが心を包む。深く強い力を持っているが、絶望とは違い優しく温かい。
小さい頃母に抱かれたような感触。辛くて苦しくて心が重い時に少しずつそれが和らぐ感覚。
「嘘だ……嘘だ……いくらなんでもそんなことあるわけねえ……身勝手すぎるだろ……
いくら妹さんでも……気がきいて優しくて、文句一つ言わず俺の我侭につきあってくれたからって……」
三原が言っていたことを思い出す。八雲が――自分のことを――だから――
「俺が、俺が好きなのは天満ちゃんで……」
自分は自分のモノではなく、塚本天満のために。彼女の為に全てを捧げる。
塚本天満のためになら何でもできる。命さえもだ。彼女が死ぬくらいなら自分が――
――わたしでよかった。あなたでなくて本当によかった――
「ぞん……な……はず、ね……え……」
彼女に何をしてやれた?贈り物一つ渡したことがあっただろうか。
最後に命までも奪った。殺されたのだ。責めるに決まっている。
その証拠に彼女は――天満はこれまでにないほど怒っている。悲しみに染まった目を吊り上げて、
涙をいっぱいに溜めながら、拳を震わせて自分を責め立てている。
では八雲は?塚本天満で埋められた心の一部だけを許可し、八雲を形作らせる。
二人は抱き合って喜ぶだろう。そして何かを話している。こちらに向けられない声は聞こえない。
やがて天満が困ったような顔つきでこちらを向く。そこには失ったはずの笑顔の欠片。傍に八雲が立っていて口を開き――
――あきらめないで、がんばりなさい
文化祭の日、彼女がかけてくれた言葉と同じことを――
「嘘、だ……そんなはず……!ぅうぅうう…………!あ……あああっ!」
八雲は許してくれる。八雲がそういうなら、と天満も許してくれる。
そんな夢のような話があるはずない。妄想に決まっているのに違うと何かが叫びだす。
利己的な自己防衛のためのうわ言か。それとも従姉が言うように、彼女への信頼があるからこそそう思うのか。
彼女なら、塚本八雲ならばきっと――と。
全身の感覚が鈍くなり、体の中で全てが衝突しはじけて混ざる。目の中が燃えるように熱い。
死してなお彼女の存在に甘えた自分のふがいなさ。二人への謝罪と――感謝。
その二つを胸に抱いて、播磨は次第に深くて広い、静寂の世界に飲み込まれていった。
* * * * * * * *
「眠ったか」
夜明け前の冷えた風が身を刻む。木々を縫って体にまとわりつく感覚はこの島特有の気候だろうか。
播磨はもう死んだように動かなくなった。サングラスが外れた目からは最後の涙が零れ落ちる。
刑部はバタバタとなびくコード襟を少しだけ締めなおして、赤く染まった塚本八雲と立ち会う。
サラと共に拉致したのは自分。そして先ほどまで握っていたのは姉を殺した銃。
「すまない。私は何もできなかった。許してもらえるはずもないが……これだけは言わせてくれ。
拳児君のこと……ありがとう」
播磨の問いに答えられるとしたら塚本八雲しかいない。
姉が許さないというのなら、妹に許してもらうしかない。
天満を基準にしていては辿り着けない解法を、自分は教えただけに過ぎない。
播磨は何を思って眠り、目覚めた後どうするかは知る由もない。だが寝顔は穏やかだった。
少なくとも幽霊のようにさ迷い歩くことはないだろう。
「君や……姉の塚本君は、本当に『特別』なのかもしれないな」
いつ死ぬともわからない状況のせいか。思い出に浸る真似は苦手なはずなのに、
ふと数年前のことを思い出す。播磨の隣には誰もいなかった。孤独を好み一人の道にいたから。
ただの反抗期と思っていたが存外根性はあるようで、そこだけが評価点。
そしてそんな彼が頭を下げて助けを求めた時は気分次第で手を貸すのが自分。
それは不思議と悪い気分ではなかった。
やがて変化が訪れた。彼という存在の傍にいる機会が減っていったのだ。
ペットが主人以外に必要以上になついて、反発を覚えない飼い主はいない。
大人気ないが、一世代違う少女達に思うところがないわけではない。
だが彼が拒否していたはずの学校に自ら行くようになり、そこで見つけたつながりを認めないわけにはいかない。
そういう意味では確かに塚本姉妹は『特別』なのだろう。播磨拳児にとって大事な何かがあるのだ。
大人の視線で彼を一番長くみていた自分でも届かない、価値あるものが。
その世界がどれだけすばらしいものか。一笑に付した姉ヶ崎には到底分かるまい。
--ガサ
「む……君は確か」
何かが地を蹴る音で初めて気付く。先ほどの喧騒で相当周囲への注意を怠っていたらしい。
もう動かない塚本八雲の近くで丸く蹲っている一匹の猫。
元々は黒毛だった気がするが、ライトに照らされ見せる毛並みは赤を帯びている。
死の概念を理解していないのか、理解しているからこそ主人の傍から動こうとしていないのか。
「もうすぐご主人様と本当のお別れになる。君は……その後どうする?」
伊織は鳴き声すら返さない。何かを待ち続けているようにじっとその場から動こうとしない。
刑部はそのまま一歩引いて地に腰をおろし、笹倉が戻ってくるのを待ち続けた。
せめて夜が明けるまでは、これ以上の悲劇が起きないことを祈りながら。
【午前:4〜5時】
【沢近愛理】
【現在位置:G-03北部、F-03との境界線上】
[状態]:かなりの疲労。返り血にまみれている。極度の精神的不安、
[道具]:支給品一式(水4,食料8)、デザートイーグル/弾数:2発、携帯電話(残量約半分)、インカム親機、アクション12×50CF(双眼鏡)
[行動方針]:高野と連絡をとって合流。その後は?
[備考]:教師らを激しく憎悪。一条が嵯峨野の死体を見つけたと勘違いしています(一条は死体の顔を確認していません)
所謂"悪魔の囁き"が聞こえ始めています(本人に強い不安)
高野への願望に近い信頼。播磨に対し……?
【三原梢】
【現在位置:G-03北部、分校跡体育館】
[状態]:身体的疲労、精神面回復。左掌に銃創(応急処置済み)、返り血にまみれている。
[道具]:支給品一式(食料4.5、水6) UZI(サブマシンガン) 9mmパラベラム弾(50発)、ベレッタM92(残弾16発) 、vz64スコーピオン/残り弾数20
9ミリ弾142発 エチケットブラシ(鏡付き)、ドジビロンストラップ、シグ・ザウエルP226(AT拳銃/残弾14発)
ノートパソコン(バッテリー、フラッシュメモリ付き)、弓(ゴム矢20本、ボウガンの矢4本)
[行動方針] :休憩。沢近と高野の結果待ち。播磨らが戻ってくるのを待つ
[最終方針]:天満や八雲の名の下に全員を利用して優勝する
[備考] :自称『塚本八雲の親友』。教師らを激しく憎悪。高野を危険人物と認識
【播磨拳児】
【現在位置:G-03中部】
[状態]:睡眠中。全身血まみれ
[道具]:支給品一式(食料4,水2)、黒曜石のナイフ3本、UCRB1(サバイバルナイフ)、さくらんぼメモ、烏丸のマンガ
[行動方針]:???
[最終方針]:生き残ってマンガを描き続ける。
[備考]:サングラスを外しています。高野を殺人者と認識しています。ゲームの目的を知りたがっています。リュックの一部が破損してます。
【一条かれん】
【現在位置:G-03中部】
[状態]:疲労超大。肩を負傷(止血)、極限の精神不安定状態。全身血まみれ
[道具]:支給品一式(食料5、水1)、東郷のメモ
[行動方針]:笹倉のなすがまま
[最終方針]:???
[備考]:何をすればいいのか完全にわかってません
【笹倉葉子】
【現在位置: G-03中部】
[状態]:疲労、両手の皮が剥けて痛み
[道具]:リボルバー(S&W M686Plus)/弾数 6発、.357マグナム弾20発、暗視ゴーグル、ヘッドライト、セキュリティウェア
[行動方針]:一条の簡単な治療後、八雲の埋葬
[最終方針]:反主催
[備考]:なし
【刑部絃子】
【現在位置: G-03中部】
[状態]:疲労、両手の皮が剥けて痛み
[道具]:自動式拳銃(ワルサーP99)/弾数 16発、9mmパラベラム弾15発入りダブルカラムマガジン1つ
暗視ゴーグル、ヘッドライト、セキュリティウェア
[行動方針]:笹倉を待ってから八雲の埋葬
[最終方針]:反主催
[備考]:なし
軍用車(詳細不明、ロック中、車全体に傷・へこみ)には、二人分の様々な荷物を積んでいます。
突撃ライフル(コルト AR15)/弾数:37発、テーザー銃(使いきり。要カートリッジの交換)、金属探知機2は車内にあります。
笹倉・一条から少し離れたところにおいてあります
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