守護者






 谷は憂鬱であった。もちろん、気分が滅入っているのは昨日の昼からずっとであるのだが、ここ数時間でさらに増えた頭痛の種の数は尋常なものではない。
 管理室では、相変わらずの作業が相変わらずのやり方で繰り返されている。
 今現在この島で生き残っている生徒の集団は、僅か三つ。
 夜になり、休息をとる者もでてきているこの状況では、谷は監視自体を意味のない酷く退屈な作業の様に思っていた。そしてその思いは、事実となんら矛盾してはいなかった。
 そもそも最初から、この作業を自分達の手でする必要もないのだ。
 盗聴機の監視は各生徒に一人の兵士らしき人員があたっていて、不穏な動きがあった場合逐一報告されるのだから。
 そう、人員は十分に足りている。自分達教師がこんな殺し合いを運営する必要性すら本当ならないはずなのに。
 何故か教師六人が管理の責任者として任命され、この悪趣味な企画を思いついた黒幕と下っぱ兵士の中継役をおおせつかっている。
 なんでわざわざこんな面倒なことを、と思いつつ谷は大きくため息をついた。
 まるで嫌がらせか何かとしか思えない役回りに、そろそろ嫌気がさしてくる。いや、そうではない。嫌気がさしていたのは、初めてこの殺し合いの開幕を知ったその日からずっとであった。
 単調な作業に集中できるわけもなく、谷は手元の食玩を弄んでいたが、その横で加藤と郡山は何かにとりつかれた様にヘッドフォンからの音に集中している。
 先程、パソコンとメモリを『なんとかする』任務から逃げ出してきた二人。
 刑部と笹倉が無理矢理任務を交換したのだ、と言っていたが戻ってきた時の安堵の表情は彼らの弱さをよく表せていたように思えた。
 ……もっとも、弱さという点では自分も大して変わらないのだけれど。
 そんな自嘲の言葉が頭を過ぎり、谷は自らの力の無さを改めて再確認する。自分が生徒達の為にしてやれることは、何も無い。
 もし何かしてやれることがあったなら、今ここに自分はいないだろう。彼らを救うことなど、自分には不可能だと谷は悟っていた。
 だからこそ、彼は違う道を選ぶことを苦心の末決めたのだ。
 管理室に残る最後の一人--姉ヶ崎の方を、ふと見る。
 彼女は、何かを考えているようだった。ヘッドフォンを外し、島全域の地図からも目を離して。
 その視線はどこへ向かっているのか、谷には判断がつかなかった。
 何も見ず、まるで過去の出来事を思い出そうと虚空を見つめているような、そんな遠くへと向かう視線。
 谷が彼女の意図を掴めずただぼんやりとしていると、姉ヶ崎がゆっくりその口を開いた。
「少し、席を外してよろしいですか?」


 休憩は、先程済んだはずだ。これは先程までは元気に見えた姉ヶ崎が、管理室の空気に再び耐えられなくなったということだろうか。
 無理もないことだった。思えばこの殺し合いについて、最も抵抗を見せたのは姉ヶ崎だろう。
 無論、その他の人も腹に何かを隠し持っているということも考えられなくは無かったが、表に出す行動という点で見ればやはり姉ヶ崎が一番であったと谷は思っていた。
 そんな姉ヶ崎からすれば、残りが十人をきってしまった今の状況は辛いだろう。昨日から気丈に振舞い続けてきたことに、無理が生じてきたのかもしれない。
 しかしそんな個人の気分を考慮してくれるほど、今のこの状況は甘いものではなかった。姉ヶ崎の言葉に一瞬、管理室の中の空気が凍りつく。
「姉ヶ崎先生。勝手な行動は……」
 郡山が立ち上がり、明らかに不満そうな顔をして抗議した。
 彼の主張も分からなくはなかった。ただ、少なくとも現状では各人が勝手な行動をとっても何の支障もない。
 刑部と笹倉が、その最たる例だ。そんな中でいまだ規律ある行動を要求するのは、教師という立場上の悪い性なのだろう。
 姉ヶ崎に助け船をだすため立ち上がろうとした谷だったが、思いもよらぬ声にその行動を抑えられる。
「いいんじゃないですか? フラッシュメモリについては刑部先生と笹倉先生に任せればよいですし、もう生徒の数も残り少ないですから、盗聴機にもあまり人手はいりません」
「加藤先生? アンタまでそんなこと……」
 谷にとっては、郡山に比べよっぽど規律に厳しいと思っていた加藤からそんな言葉が出たことが意外だった。
 目の前で行っている不思議な状況を、ただただ黙って見つめる。
 姉ヶ崎は座ったまま顔だけを加藤へ向けていた。
「ただし、次の放送までには戻ってきてくださいよ。今度はアナタの番なんですから」
 加藤はモニターを見つめたまま、淡々とした口調でそう言い放つ。
「ありがとうございます。それじゃ、ちょっとだけ失礼しますね」
 対する姉ヶ崎も、全く表情を変えぬままただ事務的な返答をする。そしてそのまま立ち上がり、ゆっくりと歩いて部屋の外へと消えていった。
 遠ざかっていく足音が段々と聞こえなくなり、管理室にはまた奇妙な静寂が戻った。
 しかしそれもすぐにまた崩れることになる。今度それを崩したのは、他でもない谷自身であった。


「……いいんですか?」
 加藤を咎めるわけではなく、加藤の真意を確認する為の谷の言葉。
 それには答えずに、加藤は手元のキーボードを操作しモニターの画面を監視用のそれから別のものに切り替える。
 そのモニターを覗き込みながら、郡山が加藤に尋ねた。
「それは?」
「パソコン追加機能毎に流れる例の映像です。もしかしたら、何か情報が隠されているのではないかと思いましてね」
 加藤はやはり郡山の顔を見ることは無く画面を見据えたまま返事をする。
 谷も立ち上がり、加藤の正面にあるモニターを覗きこむ。
 映っているのは、やはり姉ヶ崎だった。
 盗聴器の存在が城戸にバレた一件で教師全員で確認した映像とは、微妙な立ち位置やアングルが変わっているところを見る限り違う映像のようだな、と谷は姉ヶ崎の魅力的な胸元を見つめながらふと思ったが、
 すぐに頭から雑念を振り払い、加藤を睨み付けながら一言だけ口にした。
「それで……そんな理由で、姉ヶ崎先生を追い出したんですか」
 しかし加藤は動じない。谷の顔に視線を向けることなく、冷ややかな口調のまま簡潔に事実のみを応える。
「追い出したとは人聞きの悪い。席を外したいと言ったのは姉ヶ崎先生ですよ」
 間違ってはいない。むしろ谷の言い分よりも加藤の台詞の方がより事実に近いものであることは明白であった。
 そうだとわかってはいても、谷の腹の中で渦巻く何かは簡単には治まらない。
 隠れてコソコソと、姉ヶ崎を貶めるようなマネをして。そんなことは卑怯者がすることだ。
 彼女が何か情報を漏らした何てことはあるはずが無いのだ。
 パソコンの映像での台詞にしろ、データにしろ、すべては用意されたものを使っている。以前、姉ヶ崎に台本を見せてもらったことのある谷にはそれはわかっていた。
 もちろん、加藤だってそれは知っているはずである。
 それなのにまだ映像にこだわるということは、どういうことなのか。小さなミスを見つけ出し、そのことでまたネチネチと意地の悪い追求でもしようというのだろうか。
 想像して、谷は加藤という人物がますます嫌な者に思えた。もともとそんなに好きではなかった人だが、この一日でさらに嫌悪感が増したような気がしていた。
「……僕も、席を外させてもらいます」
 これ以上、同じ空間にいること自体が耐え難い。そうして、谷は加藤とは逆の方へと身体をむけ、そして姉ヶ崎が出て行ったのと同じ方向へと進んでいった。
「なんじゃあ、谷先生っ……!」
 郡山が慌てて自分を呼び止めようとしているのが聞こえたが、谷は足を止めなかった。
 谷は郡山のことも嫌になっていた。なぜだろうか。彼の自分のことしか考えていないような人だからだろうか。


そんなことをぼんやりと考えながら進む谷の背後から、冷たい加藤の声が響く。
「構いませんよ。こんな作業、一人でもできますから」
 これから加藤がおそらく自己満足の為に行うであろう作業が、何時終るのか。
 谷はとにかくそれの終わりが早く訪れればいいと思いながら、後ろ手で管理室のドアを閉めた。

   ※   ※   ※   ※   ※

 もともとが小学校である建物を使っている手前、空き教室は腐るほどある。
 無論わけのわからない装置やら何やらで埋まっている教室もいくつかあるにはあるが、それでも大量の教室が空き部屋になっているのには変わらない。
 谷は、そんな学校の廊下を独り歩いていた。
 電気は通っているはずなのだが、廊下の電気は消えたままだ。
 まさか節電ではあるまい。そんなエコな精神の持ち主がこの殺し合いを主催しているのなら、それはもう滑稽を通り越して悪趣味な冗談の類だ。
 必要がないということなのだろう。兵士達は各々の作業を各々の部屋で行い、連絡は全てパソコンで行える。
 そんな状況が今の谷にとってはありがたかった。廊下には、一人の兵士の姿も見えない。
 谷は姉ヶ崎を探していた。まさか学校の外には出ないであろうから、空き教室のどこかにいるはずである。
 一階にはいなかった。この建物は二階建てだから、いるとするなら二階の空き教室のどこかであろう。
 階段を上り右に曲がり、突き当りをさらに曲がる。
 目の前に、灯りが漏れる一つの部屋があった。
 管理用の部屋は、機材関係が必須の為に全て一階に設置してある。ということは、この部屋はそういった目的の為に使われているのではない。
 だとしたら、答えは一つである。その部屋に姉ヶ崎がいる。
 谷は思い立つと同時にその手を戸の取手にかけ、「姉ヶ崎先生?」と呼びかけながらその戸を引いた。
 谷の勘は正しかった。目の前には、姉ヶ崎がいた。
 ……ただし、驚きの表情で谷を見つめ、ブラしかしていない上半身を白衣で隠す姉ヶ崎が。


「す、す、す、すみませんっ!」
 慌てて扉を閉めようとしてはずみで指を挟み、痛がっていても戸は閉まらないのでもう一方の手で何とか作業を完遂させる。
 頭の中が真っ白だった。ブラの色は白じゃなく黒だった気がするっていやそうではなくて。
 谷は自らの無実を訴えようと、覗きがバレた中学生級の言い訳をとりあえず思いつく限り口に出した。
「いえあの、わざとではないんです。姉ヶ崎先生を探しに来たってのはそうなんですけど。
 部屋から光が漏れていたのでもしかしたらいるかな、と思って戸を開けた次第でして。
 まさか、その、着替えの最中だとは思ってもみなくて……」
 言っているうちにそのあまりの言い訳くささに自分でも狼狽しつつ、内からの返答を待つ。
 しかし姉ヶ崎の声は無かった。衣擦れの音だけが少しだけ漏れてくる。
「姉ヶ崎先生?」
 耐えられず、もう一度彼女の名を呼びかける。
「……何か、用ですか?」
 その声に含まれているのが怒気ではなく、谷は少しだけ安心した。
「いや、特に用があるというわけでは……」
 安心して、そしてまた僅かだが不安になった。
 姉ヶ崎の声に力が無い。自分が覗いてしまったことがそんなにショックだったわけではないだろう。
 やはり、管理室での態度は単なる空元気だったのだろうか。
 そんなことを考えていると、自然と口が動いた。
「……正直言いますと、ちょっと心配で来てしまったんです。昨日から姉ヶ崎先生、ずっと元気なさそうでしたから」
 加藤と映像のことはふせたままで、素直な気持ちを打ち明ける。
 彼女の表情の硬さに気付いたのは、谷が彼女のことをずっと見ていたからだ。
 この島に向かう途中で彼女が下唇を噛み何かに耐えているところも、パソコンの映像のことで追及された際に笑顔が消えていたところも。
 姉ヶ崎はこの島に来てから明らかに変わってしまった。
 いつもの底抜けの明るさはわざとらしいものに変わり、笑顔の回数も減っている。
 なにより、いつものマイペースさが見られない。これでは、まるで姉ヶ崎ではない誰か別人のようだ。
「まぁこんな状況で、元気でいろというほうが無理な話なのかもしれませんが」


 冗談めかしてそう付け足したが、部屋の中から返事は聞こえない。
 いまだに衣擦れの音は続いているから、それが終るのを待つべきか?
 そんな考えが頭を過ぎるが、熟考する前にすでに口は動いていた。
「余計なお世話でしたか?」
「……いえ、ありがとうございます」
 ようやくの返答。谷はひとまずほっと胸を撫で下ろす。
 衣擦れの音は、それから数秒で止まった。
 谷は戸に背を預ける格好で座っていたが、戸一枚隔てた部屋の中で姉ヶ崎が動いている気配のみは感じられた。
 いけないこととは思いつつ、先程の偶発的御対面を思い出し、そしてちょっとの違和感にその場で気がついた。
 姉ヶ崎の肩にくっきりとついていた、青いアザ。
 綺麗な柔肌に不釣合いな模様の存在を、谷は記憶の中で改めて確認する。
「そのアザ、大丈夫ですか?」
「え? あぁ、これですか。大丈夫ですよ。見た目が派手なだけですから」
「あの時についた傷ですよね」
「……はい。そうです」
 しばらくの沈黙が、お互いの間に流れる。
 姉ヶ崎のアザは、谷ら教師達の前に初めて今回の殺し合いを計画した者からの使者が現れそれに姉ヶ崎が抵抗した時、相手方から突き飛ばされた際にできたアザであった。
 それはきっと、教師としての証なのだろうと谷は思う。
 無傷の自分はやはり教師失格なのだろうかとも思ったが、すぐに思い直し、自らの図々しさに嘲笑がこみあげてきた。
 そもそも傷の有無に関わらず、彼は自分が教師失格なのだということを忘れるところだったのだから。
 谷は改めて、背後に姉ヶ崎を感じる。
 姉ヶ崎とは、一体どのような人物なのか。谷の頭に、ふとそんな問いが浮かんだ。
 思えば彼女はどこか掴めなくて、自分は姉ヶ崎について多くを知ってはいなかった。
 谷は彼女の今を知ってはいたが、過去については何も知らない。
 元来、他人を詮索するのが好きなほうではない谷だったが、今は何となく聞いてみたい気分になっていた。
 そんなことをしても、自分と姉ヶ崎の距離が縮まるわけはないと理解はしているのだが。


「姉ヶ崎先生は、どうして保健室の先生になろうと思ったんですか?」
 すぐには返事はなかった。やはり質問自体が唐突すぎたのかもしれない。
 後悔しても時間は戻らぬもので、谷はただ部屋の中から姉ヶ崎の声が聞こえるのは今か今かと待ち構えていた。
 三十秒ほど待っていただろうか。姉ヶ崎の返事は、答えではなく質問だった。
「谷先生は、どうして高校の教師に?」
「僕、ですか?」
 そういえば、自分が姉ヶ崎のことを知らないのと同じくらい姉ヶ崎も自分の事を知らないのだと、至極当然のことを谷は再確認する。
 確かに、人に尋ねる前に自分のことを話すのが礼儀というものだろう。自分の話など聞いても面白くはないだろうなどと思いつつ、谷は語り始めた。
「僕は、単純な話ですよ。ほら、熱血教師ものドラマって、ちょうど僕らの世代でブームになったでしょう。最初はそんな単純な理由で教師を目指していたんですが、理想が潰えるのは早いもので」
 大学に入り、すぐにドラマみたいな熱血教師なんてどこにもいないのだということに気付いた。
 けれどそこから違う進路を改めて探すわけにもいかなくて。
「熱血はムリでも、普通の教師にはなれますから。それもそれでアリかななんて思いまして。『先生』って呼ばれるのも、夢の一つだったんですよ」
 実際、初めて本当の先生として教壇に立ち、生徒に先生と呼ばれた時の感動は、なかなか言い表し難いほど大きなものだったと谷は記憶している。
 張り切り過ぎて自己紹介の時に自分の名前の綴りを間違えたことも、いい思い出として今でもしっかりと覚えている。
 あの当時は自身に気力が満ちていて、生徒のためにはなんでもできそうな--それこそ、実力は伴わないにせよ気持ちだけはドラマの熱血教師の様に強く保っているつもりだった。
 しかし月日が経ち、歳をくうにつれてだんだんとそんな気概はなりを潜めていった。
 そして極めつけが今の状態だ。
「……でも、もう駄目ですね。僕、矢神に帰ったら教師辞めます。
 僕は教師を続けるには、子供達を裏切り過ぎてしまいましたから」
 良く言えば良心の呵責とでも言えるのだろうが、つまるところそれは逃避だ。
 教え子が理不尽な死をとげる場面を見続けることしかできない谷には、もうこれ以上教師であることは苦痛以外の何物でもない。


「大丈夫ですよ。たとえ教師を辞めたとしても、男一人ならどうとでも生きていけますから」
 いざとなれば、工事現場で働くでも交通整理のバイトでも何でもやればいい。
 ただ一つ心残りなのは、矢神高校を辞めてしまえばもう姉ヶ崎と会う機会もないということ。
 残念ではあるが、それもしょうがない。元々、例え近くにいたとしても手の届かない高嶺の花だったのだから。
 それはそうと、先程から姉ヶ崎の声が全く聞こえていないことに谷は気付いた。
 自分が話をしてばかりで、姉ヶ崎の相槌さえ谷には聞くことができていなかった。
「先生?」
 返事がない。けれど戸一枚隔てたすぐそこに、彼女の気配だけはしっかりと感じられる。
 妙だなと思い、谷が立ち上がろうとして戸から背中を離した瞬間、ガラッという音とともに今まで寄りかかっていた戸が姉ヶ崎によって開かれた。
 そしてその音に反応した谷は急いで振り返ろうとして--しかし振り返らなかった。
 何故なら谷の背後には姉ヶ崎が、まるで抱きつくように擦り寄っていたのだから。
「あ、あ、姉ヶ崎先生っ!? どうなさったんですかいきなり?」
 姉ヶ崎のよい香りと、柔らかい感触に理性を失いそうになりつつも、谷は必死で平常心を装い紳士的な態度で問いかけようと努力する。
 谷の問いに対し、姉ヶ崎は言葉で答えない。
 彼女の言葉に代わり谷に答えを返したのは、谷の首筋に落ちた彼女の涙の雫であった。
「姉ヶ崎先生……」
「どうして、こんなことになってしまったんでしょうか」
 そんな問いに答えられるはずも無く、谷は黙って彼女の言葉を聞くしかなかった。
「私は、もしも運命というものが神様によって決められるなら、彼を恨みます」
 それは自分も同じ事。谷はそう言いかけて、しかし口を噤んだ。
 姉ヶ崎は確かに、運命のいたずらでこんな辛い思いをしているのだろう。
 彼女は悪いわけではない。彼女は他に選択肢が無かったからこそ、今ここにいるのだ。
 それでは自分はどうなのか? 
 確かに、自分の教え子が殺し合いの参加者に選ばれたというのは自分ではどうしようもできないことだ。その点では自分は一向に悪くない。
 しかし、その後の立場が問題なのだ。
「先生は悪くありません。先生は、決して……」
 姉ヶ崎は悪くない。そう、それは正しい。


 けれども自分は悪なのだろう。
 『黒幕に反抗的な姉ヶ崎を生かしたくば、他の教師を監視する裏切り者となれ』という提案に従い、
 教え子を救おうとしている教師の中の誰かを貶めようとしている自分は、悪以外の何者でもない。
 だが、それでもいいと思った。
 悪でもなんでもいい。今自分の背中で泣いているか弱い女性を護ることができれば、善悪の定義なんか糞喰らえ、といったところだろう。
 谷は改めて決意する。
 教師失格の烙印を押されようと大切な一人を護るために、
 生徒達の殺し合いを順調に行わせるという、非情な使命の全うを。

【午後22〜24時】

【姉ヶ崎妙】
【現在位置:D-06】
[状態]:精神的疲労
[道具]:自動式拳銃(H&K USP)/弾数 16発、9mmパラベラム弾15発入りダブルカラムマガジン1つ
[行動方針]:不明
[備考]:なし

【加藤】
【現在位置:D-06】
[状態]:精神的疲労。パソコンの妙ちゃん悩殺衣装で立つにたてない状態。
[道具]:小型短機関銃(イングラムM10)/弾数 30発、.45ACP弾30発入りマガジン2つ
[行動方針]:生き残りたい
[備考]:なし

【郡山】
【現在位置:D-06】
[状態]:健康。パソコンの妙ちゃん悩殺衣装で立つにたてない状態。
[道具]:アサルトライフル(AK-47)/弾数 27発
[行動方針]:不明
[備考]:なし

【谷速人】
【現在位置:D-06】
[状態]:多少の睡眠不足
[道具]:P90(サブマシンガン)/弾数 50発、5.7x28mm弾50発入りマガジン1つ
[行動方針]:この殺し合いを円滑に運営する。生徒に肩入れしている人物を見つけ出す。
[備考]:なし



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