人殺し達の共演
「なんでよ……城戸さん」
眼下に横たわる城戸だったモノを見つめながら、沢近は問いかけた。
返事なんか返ってくるはずもなく、聞こえるのは風の音だけで鼻につくのは硝煙の匂い。
自分の手についたそれは消えることなく、これからしばらくの間つきまとうのだということを沢近はわかっていた。
洗い流すつもりはない。洗い流したからといって、ハリーと城戸を自分が殺した事実は揺ぎ無いのだから。
城戸の顔は、もう原型を留めていない。それは自分が撃った銃弾によってなされた結果なのだ。
文化祭で仲良くなったはずの、友達。こんなことなら、ずっと仲が悪いままの方がよかったかもしれないと思ったところで、それは叶わないこと。
「アナタ、馬鹿よ。なんでこんな道を選んだの? なんでわざわざ……」
城戸が選んだ道は、最も忌まわしく、最も汚らわしく、そして最も苦しい道。
愛しい人の死を生きる糧にするという、絶対必敗の修羅の道。
それは沢近が一番よくわかっていた。なぜならその道は、かつて自分が播磨を殺すことで進もうとしていた道そのものに違いないのだから。
「貴女の事、私は許せない。嵯峨野さんを、梅津君を殺したのは貴女。……でも」
気付くと、沢近は泣いていた。悲しいわけではなく、苦しいわけではない。
その感情は、恐怖だった。もしかしたら自分が、城戸になっていたかもしれないという恐怖。
播磨を殺してしまっていたら、自分はどうなっていたのだろうという仮定への恐怖。
「……私達の違いは、引き金を引いたか引かなかったかだけなのかもね」
愛しい人を自分の手で葬った後に何を思うのか、引き金を引かなかった沢近にはわからない。だがそれは幸運なことに違いない。わからないことがこれほど嬉しいことなど、ほかには存在しえないだろう。
それを知ってしまった城戸を、しかし可哀想だとは思わない。彼女は自らそれを望んだのだから、彼女自身もそう思われたくはないのだろう。
変にプライドの高かった、城戸。沢近はそんなところも自分と城戸は似ていると思った。文化祭まで仲が悪かったのはきっと同属嫌悪の一種に違いないだろう。そう思うことで、自然と納得がいく気がした。
でも、だからといって、城戸と自分は同じではない。
とった行動は同じでも、結果が違うのだから。城戸には止めてくれる人がいなかった。でも、自分にはそれがいる。
頭に浮かんだサングラスでヒゲの男の姿が、沢近の心を落ち着かせた。
「……私は、貴女と同じ道は歩まない。二度と、あんな思いはしたくないから」
城戸のもっていた銃を持ち上げ、彼女のリュックの中から役に立ちそうなものを取り出して自分のリュックにつめる。
播磨や西本、それに高野や他の友人達の為に、今は立ち止まらずに進むしかない。
もちろん、人を殺すということが悪いこと、許されないことだとは理解している。
でも、そんな教科書どおりの道徳観念なんて今は役に立たないのだ。自分が殺されれば、他の皆を助けることは出来ない。
人殺しを野放しにしては、自分と自分の大切な人が危ない。それは嫌だった。
自分が、そういったエゴのもとに動いているという事実を沢近は理解していた。だから、城戸の死からは目を逸らさない。供養はしないと決めていたが、それでももう一度だけ彼女の死体を一瞥する。
あの世というものがあるのなら梅津君と再開できればいいね、と思っている自分の甘さは偽善のようにも思えたけれど。
そんな部分も含めて、沢近は今の状況を受け入れていた。後悔するのは、全てが終ってからでいい。その後なら、どんな罵倒をも甘んじて受けよう。
そう決心して、沢近は立ち上がる。
「さて、と。随分、時間かかっちゃったわね。……H-03はどうなっているのかな」
放送を聞く限りは、ホテル跡前を出発した時からもう何人かが死んでしまっている。
その内の何人かはきっと、H-03で新たに出た死者なのだろう。そうだとしたら、このままノコノコとその場に顔を出すのは間抜けな行為なのかもしれない。
銃を二つ持っていたとしても、身体は一つだ。集団との戦いは、どう考えてもこちら側が不利。
だからこそ情報が欲しい。沢近はその旨と、そして自分が城戸を殺したという事実。さらには城戸の首輪の番号を打ち込んで、パソコンへとメールを送信した。
隠していても仕方がない。パソコンがあれば、その事実は一目瞭然なのだから。
しかし放送での情報を地図に書き込みながら五分待っても、返信は来ない。
バッテリー節約の為に一時的に閉じているという可能性も考えられる。そしてもう一つの可能性として、今はパソコンを見られない事態になっているということだってある。
考えたくはなかった。しかしもしその可能性を考慮したなら相手はH-03にいた集団か、もしくは、烏丸ということになる。
高野は無事なのだろうか? 西本は、一条は? そして播磨は--。
「アイツがっ! ……あの殺しても死にそうにないヒゲが、そう簡単にやられるわけないじゃない」
嫌な考えを頭から追い出し、沢近は携帯をもう一度見つめた。
とりあえず、まずはこのままH-03に進もう。首輪の番号を調べるためには、それが一番の選択だ。
歩いているうちに連絡があるかもしれないし、もしなかったとしても見つからないようにゆっくりと進めば危険性は少ないだろう。
播磨のことは、信じるしかない。
つい数時間前までは彼を疑って止まなかった自分が、今度は彼を信じようとしている。
呆れるほど、どうしようもない。けれども、そんな今が決して嫌ではない自分がいる。
無事にこの島から逃げ出すことができれば、ちゃんと播磨に謝ろう。
謝って謝って、そして言いたいことを言ってすっきりしたら今度は紛らわしいマネをしたことをしっかりと謝罪させよう。
そう決めて、沢近はH-03を目指して歩き出した。
信じるものをもつ彼女の歩みは歪むことなく、ただ真っ直ぐと目的地へと。
※ ※ ※ ※ ※
軽い供養を終え、荷物のある場所へと戻った一条はリアカーの横に腰を下ろしていた。
これからの行動としては、まず播磨と連絡を取ること。そして、パソコンの機能を確かめること。
しかしまずその前に栄養補給が先。そう提案した高野に従い、一条は食事を取っている。
死者のリュックからすぐに食料を漁る気にはならない。雪野は自分のリュックからクロワッサンを取り出していたが、一条は高野から貰ったコロッケパンをほおばっていた。
高野は、メロンパンを食べながらなにやら考え事をしているようである。一条の頭の中は、様々な思考が入り混じってもうわけのわからない状態になっていた。
いや、一つだけわかっていることがある。それは、自分が烏丸と西本を殺したという事実。
過去は覆らない、やり直せない、元に戻らない。自分は人殺しだ。西本と、そして烏丸と同じく、さらには--今鳥を殺した、あの二人と同じように。
生きると約束した。嵯峨野がしたかったことをすると、今鳥の分も生きると。夢の中の話かもしれない。それでも、確かに約束したのだ。
彼らを裏切ってはない。自分は、まだ生きている。生き続けている。生きるために、もがき苦しんでいる。
だから人を殺した。穢れてしまった。
人殺しを放っておいては、自分が殺されてしまう。殺意を持って人を殺したものは、罰せられるべきなのだ。
……しかし、自分だけは例外なのだと、一条はそう言い聞かせる。
自分はそうしたいのではなく、そうしなければならないから人を殺すのだ。
約束を果たすため、人殺しは排除する必要がある。だから自分は人を殺したって、穢れたって構わない。一条は、そう思い始めていた。
彼女にとって、夢の中の今鳥の言葉は全ての行為の免罪符だ。
「雪野さん。本当に大丈夫ですか?」
先ほどから、雪野はクロワッサンに口をつけていない。
クラスの中でも、雪野と砺波は仲のよい二人だった。だからきっと、砺波が死んだせいで元気がないのだろう。
砺波を殺したのは、高野だ。でも、それは故意ではない。
彼女には砺波を殺す気はなかった。殺そうとして殺したのでないなら、それは罰せられるべきでない。
烏丸を殺そうとはしていたが、実際に彼を殺したのは高野ではない。だからそれも、罰せられることではない。
だから今は高野を罰することはしない。一条は、そう決めていた。自分の考えに矛盾が生じていることにも、論理が歪になっていることにも気付かずに。
「……大丈夫だよ」
顔を上げてそう答えた雪野の目は、一条には向けられていなかった。
その目線は一条のはるか後方。つまり、高野のほうへと向けられている。
雪野の顔色は明らかに悪かった。しかし、瞳だけはギラギラと輝かせて、気味の悪い笑みを顔に張り付かせていた。
一条には、かける言葉が見つからなかった。こんな顔を、以前どこかで体験したような気がする。
それがどこなのか、誰のものなのか。その顔を作った張本人である一条がその場で気付くことはなかった。
戸惑う一条を尻目に雪野はゆっくりと立ち上がり、一歩ずつ高野の下へと進む。
「……確かに、つらい。つらいけど」
高野はもうメロンパンを食べ終えたらしく、播磨に連絡を取るためにとインカムをいじっていた。
しかし近づいてくる雪野の気配を感じ、作業の手を止める。
その顔には、労る様な優しい笑みが浮かんでいた。一条は、それに激しい違和感を覚える。
「悪いのは、全部烏丸君! ねっ、そうなんでしょ? 高野さんは、そう言いたいんでしょ?」
不自然なくらい明るい声色で、雪野はそう言い放った。
高野の顔が、一瞬だけ歪んだ。一条も、雪野の行動の不可思議さに首を捻る。
「それとも順子が悪いのかなぁ? ねぇ、そうなのかなぁ? 『高野さんは、そう言いたいのかなぁ』?」
先程よりも、大きな声だった。高野の笑みに、少しずつほころびが見え始める。
雪野は、人を殺していない。つまりは、穢れのない存在。
多少不可解な行動をしたとしても、それは彼女が悪いのではなく、状況が悪いということに違いない。彼女が何かをしようとしているなら、自分はそれを見届けるべきではないのか。
一条は、そう自分自身に問いかけた。そして答えは、もちろんイエスだった。
「……どうしたの、雪野さん」
高野が、ゆっくりと雪野に尋ねる。
それを聞いた雪野は、低い声でくくっと笑っていた。笑って、そしてさもおかしそうに言い放つ。
「私は何も変わってないよ。だって私は--」
その後に続く言葉を、一条は知っていた。
雪野の生きている意味。雪野が持つ罰せられぬ価値。それはある一点に集約されるから。
そう。自分や、高野とは違う。雪野は--
「--私だけは、誰も殺してないもの」
--彼女だけは、清いままなのだから。
一条はゆっくりと、雪野の横へと並ぶ。
先程と同じ笑みを顔に貼り付けている雪野と、先程までの笑顔が崩れている高野。
この光景があまりにも奇妙で、一条は言葉を発することができなかった。
「そうだよ、高野さん」
雪野はそれでも独り、語り続けた。
「その顔。いつもの高野さんは、そんな顔をしてたよね。さっきみたいな、嘘くさい笑顔じゃなくて」
「……ああ、そうか」
一条は先程の違和感の原因を理解した。そういえば、高野と同じクラスになってこの一年、あんな不自然な笑みを浮かべる姿など見たことがなかった。
嘘くさい笑顔と言われて、妙に納得してしまう。
「……雪野さん。大丈夫だから」
「何が? 何が大丈夫?」
ゆっくりと言葉を選ぶように話す高野と、思いのままに話しているような雪野。
普通なら、雪野を落ち着かせるのが横にいる一条の役目なのだろう。でも、一条には止める気などさらさらなかった。
「こんなことになってしまったけれど……。いえ、こんなことになってしまったから、私が貴女を」
「守ってくれる、とか? あぁ、そう言えばそんな約束もあったっけ……」
もう一度、雪野はくくっと低い笑いを漏らした。
「私を守る? どうやって? また罪もない人を殺して?」
「……砺波さんについては、私も悪いと思っている。でも、あれは」
「仕方がなかった? 防ぎようがなかった? そうやって、高野さんはこれからも殺すの? また人を殺すの? また順子を殺すの?」
「……雪野さん。私だって、そんなこと言われたら怒るよ」
高野の顔が、みるみる険しくなっている。
「怒ってどうするの? 怒って、そして……今度は、私を殺すの?」
高野の目は、驚きで見開かれた。雪野は相変わらず笑っている。
「ほら、殺してみてよ。ほら。ほらっ。ほらっ!?」
「貴女いい加減に……!」
高野が立ち上がり、雪野の胸倉を掴もうとする。
その瞬間、一条は高野を押さえつけていた。
「やめてっ! 高野さんっ!」
「くっ! 離してっ」
雪野に危害を加えることは、許されない。彼女が傷つけられるのも、人を傷つけることも、許してはいけない。
一条はそう考えていた。だからこそ、ここで高野を止めた。
「雪野さんも。もう止めましょう? これ以上こんな話続けたって……」
なるべく穏やかな声で、そう告げる。しかし雪野は、まるで汚物を見るような軽蔑のまなざしで一条を見ていた。
しかし今の一条は、そんな目で見られるだけの理由を持っている。
「西本君を殺したのは、誰でしたっけ?」
そう。西本を殺したのは、他でもない一条自身だ。
「西本君に逃げろって言われて、それでも銃口を彼に向けて、烏丸君もろとも撃った人は一体どこのどなたでしたか?」
吐き捨てるように発せられた雪野の言葉を否定することなど、一条にできるはずもなかった。それは事実。疑いようもない、自分の罪。
でも--その事実は認めるとしても、雪野に一つだけ伝えなくてはならないことがある。
それは、自分が今鳥達と交わした約束のこと。
その約束があるから、自分だけは人を殺しても罰せられないのだという自分なりの論理。
それだけは伝えなくてはいけない。そしてそのことを、この清いままでいる雪野に認めてもらえれば、自分の行為は正当化される。
「雪野さん……」
腕の中で、高野がじたばたともがいている。雪野と話すには、この存在は邪魔でしかない。
だから、一条は高野を後ろに投げ捨てて黙らせた。
そして、真っ直ぐに雪野と向き合って、ゆっくりと口を開いた。
--が、一条の口から言葉が発せられることはなかった。
なぜなら雪野は一条を無視して、高野の方に駆け寄っていったから。
そんな雪野の姿を見て、高野はまたあの不自然な笑みを浮かべた。そうして、放つ言葉は、いかにもわざとらしく、そして。
「痛っ……。あぁ、雪野さん。私は、大丈」
そして、途中で途絶えた。
雪野は高野の下へは行かなかった。高野の下ではなく、彼女の隣へ。そうしてしゃがみこみ、何かを拾い上げた。
雪野の背中に隠れて、一条からはそれが何なのかわからない。わからないが、高野の顔が形容しがたいものへと変貌していくのは見てとれた。
「……あれぇ、高野さん。これ、な、何ぃ?」
心なしか、雪野の声が震えている。
高野の瞳に焦りが浮かんでいた。彼女は視線を雪野から一条へと移し、助け舟を求めるかのように口をパクパクさせやっとのことで一言だけ搾り出す。
「……違うのよ、一条さん」
「何で一条さんに話すんですか高野さん! ……ま、まずは私に何か言うことがあるのでは?」
そこで、はじめて一条は雪野が何を持っているのかわかった。
彼女が握っているのは、銃だ。それも今まで見たことの無い形。誰の支給品の中にも、存在していなかったはずの銃。それが、ここにある。この状況は何を意味するのだろうか。
答えは一つ、高野が銃を隠し持っていたということだ。
「……雪野さ」
「聞きたくない」
必死で弁明しようとしている高野を、雪野は許そうとはしなかった。銃こそ突きつけてはいないもの、その指は引き金にしっかりとかかっている。
一条も、すでに高野を信じることはできなくなってしまっていた。
ふと頭に、死ぬ間際の砺波と烏丸が言っていたことが思い出される。大塚を殺したのは、高野だという彼らの言葉を。
「高野さん。もしかして……」
一条を見て、そしてまた雪野を見て。高野は、ゆっくりと立ち上がった。いつも通りのポーカーフェイスに戻った彼女の顔は、でもどこか恐ろしいものに思えて。
一条は身構える。この間合いなら、もう一歩踏み込んできた瞬間に確実に高野を押さえつけることができるから。
「すみません、高野さん。詳しく、話を聞かせてもらえますか?」
高野は危険。そう、一条は結論付けた。彼女は、もしかしたら罰を受けるべき人間なのかもしれない、と。
まさに絶体絶命といった状況だろう。しかし、それにも関わらず高野は。
「……フッ」
笑っていた。さっきの不自然な笑みではなく、いかにも高野らしい不敵な笑い方で。
一条があっけに取られたその瞬間、高野は右手を思いっきり振り上げる。
「きゃっ!?」
それは、目潰しだった。右手に握られた砂が、一条の顔めがけて投げられたのだ。
一条は人並み外れた反射神経でそれをガードする。ガードの為に目の前に掲げた右腕を避けた時、しかし高野はすでに一条の間合いからはだいぶ遠ざかっていた。
「待ってっ! 高野さんっ!」
このまま、高野を逃がしてはいけない。それでは、新たな被害者が出るかもしれない。
そう思い、一条は追撃の体勢を取る。しかしそれは、か弱い力によって阻止された。
制服の裾を、雪野が掴んでいたからだ。その顔は下を向いていて、表情まではつかめない。
高野と違い彼女を突き飛ばすわけにもいかず、どうしたらよいか一条が悩んでいるところで、雪野が言葉を発した。
「……追いかけてどうするんですか?」
「どうするって……」
「また、殺すんですか?」
嘲るような、そんな感情を含んだ雪野の一言に、一条の心は揺さぶられる。
殺すなんて、自分だってしたくはない。でも、しょうがないことなのだ。それは正しいことなのだと、そう伝えなければいけないと思った。
「雪野さん。違うのよ。私は、私だけは……」
自分だけは、人殺しを殺しても許される。その免罪符を持っている。
そう主張すべく放たれた一条の言葉は、またも雪野に遮られる。
「殺されて、殺して」
いつの間にか、裾からは手が離されていた。いや、離されたというより、もうこれ以上掴んでいることができなかったのかもしれない。
「また殺して、殺されて……」
雪野の声は、やはり震えている。
そして今度は身体全体が揺れている。支えるために手を伸ばすだけで壊れてしまいそうな彼女に触れることができなく、ただ立っていることしかできない一条は、雪野が全てを吐き出すまで待っていることしかできなかった。
「誰かに頼りたくて、でも誰も信用できなくて」
雪野が、顔を上げた。
涙と鼻水とで、ぐちゃぐちゃになってしまっている。その顔には、悲しみや、悔しさや、寂しさや、苦しさ。そういった負の感情が詰まっていて、思わず一条はそこから目を逸らす。
「……ねぇ、一条さん。教えてください」
そんな一条の横で、雪野は崩れ落ちた。
きっと彼女の中で、何かが崩れてしまったのだろう。そう思いながら、一条は目の端で雪野の姿をとらえていた。
「皆を殺して生き残るのと、黙って殺されることを待つのでは、いったいどっち……が……あ……」
そんな質問に答えることができるはずもなく、一条はただその場に佇む。
これからどうするべきか、何ができるかなど、一条にはわかるはずもなかったから。
※ ※ ※ ※ ※
「・・・・・・ち」
高野は走っていた。
北へ向かい、今はただ一条と雪野の前から姿を隠すことが必要と判断したからだ。
計画は、徐々に狂い始めている。
どれもこれも、放送であの正義馬鹿の死が告げられてからの出来事だ。
「・・・・・・・・・・・・ちっ!」
手駒を失った。武器を失った。食料を失った。
失ったものが多すぎる。何もかもが悪い方向に向かっていた。
これではいけないのだ。自分は、奪う側でなくてはいけない。
だから高野は走った。もう一度体勢を立て直し、そして全てを終らせるために。
九死に一生を得るとは、このことかもしれない。そう思いながら、高野は左手に握られたインカムを見つめた。
コレさえあれば、巻き返しは十分に可能だろう。あの正義馬鹿と同じ位単純なもう一人の馬鹿なら、うまくすれば新たな手駒にできるはずだから。
それしか挽回の手段はない。親友のツインテールが一瞬だけ思い出されたが、高野の心を動かすことはなかった。
もう、高野に後戻りは許されない。
許されたとしても、もう後に戻ることなどできないのだけれども。
【午後:18〜20時】
【一条かれん】
【現在地:E-03】
[状態]:疲労大、極度の精神不安定状態。人殺しに憎悪。
[道具]:支給品一式(食料0、水1)、東郷のメモ
シグ・ザウエルP226(AT拳銃/残弾15発)
[行動方針]:生きる。何があったとしても。
パソコンをチェックしなければと思っているが……。
[備考]:自分なりの正義の下に動く。嵯峨野から逃げ出したのかは未だ不明
【高野晶】
【現在地:E-03】
[状態]:疲労(特に精神面)、どこか虚脱感。警戒態勢。
[道具]:支給品一式(食料0)、薙刀の鞘袋(蛇入り) 、インカム子機
雑誌(ヤングジンガマ)、ブラックジャック(岡の靴下でつくられた鈍器。臭い)
[行動方針] :播磨を言いくるめる。
[最終方針] :全員を殺し、全てを忘れない。パーティー潜伏型。反主催の妨害。
【雪野美奈】
【現在地:E-03】
[状態]:疲労、極度の精神不安定状態。高野への依存と憎悪が入り乱れる
[道具]:支給品一式(食料0)、工具セット(バール、木槌、他数種類の基本的な工具あり)
雑誌(週刊少年ジンガマ)、ブラックジャック(岡の靴下でつくられた鈍器。脳震盪と嗅覚破壊のダブルパンチ)
[行動方針] :なし
【共通:盗聴器に気付いています。】
※薙刀・日本刀・ショットガン(スパス15)/弾数:4発・ドラグノフ狙撃銃/弾数9発・パソコンは食事中はリアカーの横におかれていました。
リアカー(支給品*2(食料11、水2)、雑貨品(スコップ、バケツ、その他使えそうな物))はE-03南部にあります。
【沢近愛理】
【現在地:G-03 分校跡付近の林】
[状態]:疲労。精神的疲労・不安定。返り血にまみれている。
[道具]:支給品一式(水6,食料9)、デザートイーグル/弾数:2発、携帯電話 、vz64スコーピオン/残り弾数20
[行動方針]:1.西本たちと連絡をとる。
2.南方面の人間(死体含む。八雲>他)を捜して首輪を調査、西本に連絡する。一条を心配。
[備考]:播磨を信用しはじめている。フラッシュメモリの可能性を強く信じる。烏丸が大塚を殺したと認識。盗聴器に気付いています。
一条が嵯峨野の死体を見つけたと勘違いしています(一条は死体の顔を確認していません)
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