いつか選んだ道をもう一度






 夢であって夢ではない。八雲はそんな感覚にとらわれていた。夢とは自分の意思が介入できないもの。
どれだけ理不尽な内容でも覚めるまでそれを受け入れているしかない。
来月発売の時代小説を何故か手に入れることができたり、蛇のような怖い何かに追いかけられたり。
夢という名の物語を淡々と読み終え、後になってどうすべきだったか試行錯誤を繰り返す。楽しい夢でも、嫌な夢でも。
その最中に手を出すことはできない。自分はただそこにいる『だけ』。

 それが八雲の知る夢だった。だが今、塚本八雲の体は今彼女の意思で動いていた。
口は開くし発声も問題ない。立ったり座ったりを繰り返し、歩みをとめることもできる。
--何も映らない、目が見えなくなったのかと麹覚するほどの深遠の闇の中で。

 不思議と落ち着きのある心。涙の止まった瞳。疲れを感じない体。非現実性を含んだ奇妙な世界。
現実と違い、自然と悲しみが沸いてこない。夢と違い、自動で紡がれる物語がそこにない。
手を伸ばしても触ることができるものは自分の体と制服のみ。血の汚れすら見当たらない。
上下左右の感覚すらはっきりとしなかった。

「ここは、どこ……」
 きっと夢。けれど自由に動ける夢。そして無力な夢。
姉の天満や親友のサラに会えることを願っても、突然登場したりしない。声が聞こえたりしない。手を差し伸べてくれなどしない。
できるのは考えること。悲しみを呼び覚ますこと。止まっていた涙を流すこと。その程度のものに過ぎない。
八雲は歩くことをやめ、うずくまり、膝を抱える。そして夢から覚めるまでをこの場で待つことにした。



----ひとごろし----

 無限に続くと思われる闇の世界で初めて聞こえた誰かの声。けれどどこか聞いた覚えのある声。
もう何が起こっても驚かないのか、八雲はゆっくりと声のした方向に顔を向ける。

「私……?」
 誰かの声どころではない。それは自分--ただし、姿形は今と違う。
手を伸ばせば届くような距離に、幼い自分がいた。まだ天満とよく喧嘩していた頃の自分が。

『しんじゃえ。ひとごろし』
「知ってるんだ……ごめんね。でも……皆が私に生きろって言うの」
 今鳥・一条・花井・サラ、もしかすると三原も。どこか諦めたような表情で八雲は目の前の自分に答える。
けれど彼女は満足しなかったのか、更に頬を膨らませた。
『わるいことをしたやばちがあたるって、おとうさんが!』
「……でも、姉さんは何も悪いことをしなかった」
 自分自身との会話に驚く様子もなく、淡々と幼い子供を相手に静かに反論する。
むしろ対象が自分の姿だからこそ思ったとおりのことを話せる気がした。

『おねーちゃんなんていらない!かんけーない!』
「そんなこと、言っちゃだめ。……いつか、姉さんがいてよかったと思う日が来るから」
 自分はそれを知っているから。絵本をきっかけにした、遠い日の忘れえぬ思い出を。
少しずつ変わる二人の関係。やがて能力に目覚め、ますます姉に依存していく自分。
ふと、そこである違和感を八雲は覚える。おかしい。何かがおかしくないだろうか。思わず口に出す。

「……私は姉さんの仇を討たなくていいの?」
『そんなのいらない!はやくしね!』
 違和感が膨れ上がる。八雲は会話を続けるうちに、幼い自分の正体に見当がついていた。それは悪魔。
今鳥が死んでから幾度となく自分に囁き続けていた声。自分を惑わす恐ろしい……そう思っていた存在。
最後に声を聞いたのは気絶する前。先輩達が望むなら生きるべきと考えた自分に、

(-お前は人を殺したんだ死ぬべき人間だ死ね死ね死ね………-)

 確かに聞こえた。そして今は幼い自分の姿を使い、夢の世界で話しかけているのだと思っていた。

「本当に……私は死んでいいの?それを望むの?」
『なんべんもゆわせないで!ひとごろし!』
 変化している。サラが死んだとき悪魔は自分の体を奪った。そしてサラの先輩を手にかけた後、
『次は姉さんの仇を』と言った。けれど今はそれをせず、死ねという。
「サラの……後で、次は姉さんの仇って言ったのは…………あなたじゃないの?」
『……』





 どうにもつじつまの合わない声に、八雲は一つの答えを出した。
今鳥の死による無力さを感じていれば、あがいても無駄だと囁く。そして姉がいないとほのめかし不安を煽る。
怒りを持てば、それは殺人という手段を選ばせた。最後に人を手にかけた罪悪感に嘆いたところで死ねと言う。
つじつまが合わない点もあるが、それらはいずれも『今の塚本八雲』の心を壊そうとしていた。
そんな悪魔が不思議で仕方なかった。自分で自分の心を砕いてどうするのだろう。


(……ああ、そうか……あなたは、私……昔の私……)
--復讐だったのだ。目の前にいる幼い自分が試揩チていたはずの塚本八雲本来の心。
子供っぽさを嫌い、棘々しく、姉をわずらわしく思っていた自分。
それが少しずつ丸みを帯び、やわらかくなり、いつしか姿を見せることすらできなくなった。
潜んでいたそれが、ここぞとばかりに発芽し猛烈な勢いで侵食していたのだ。心を壊し、成り代わろうと。

「……ごめんね。けれど、私は……姉さんが大事に育ててくれた、今の私が好きだから」
 八雲はもう、悪魔の声に恐れを抱いていなかった。むしろ申し訳なさすら感じていた。
ある意味、ずっと奥底に閉じ込められていたということなのだから。そのことを幼い自分に詫びる。
けれど、塚本天満の愛情を受けて育まれた心の花を捨てることはできない。
それは姉の愛を捨てることなのだから。最期の時までそれは抱き続けるつもりだった。

『ならやっぱりわたしはひとり』
 そんなことない、と八雲は自分に手を差し伸べる。その存在を知った以上、どちらかなどない。
自分本来が持っていた心と、姉の天満が育ててくれた心。両方を選ばなくてはならない。
『悪魔』は何も言わず、手を握り返すこともしないまま口を開く。

『じゃあこれからどうするの?しなないの?こたえはあった?ひとごろし』
「……あったよ。一つだけ」

 その瞬間。答えるより早く、ぱりんと何かが割れるような音がした。闇が裂かれ、周囲に明るさが戻っていく。
はっきりしていた手足の感覚が麻痺し、頭の先からひっぱられるような力を感じる。
この世界で感じたことをそのままに、罪悪感や悲しみといった一時麻痺していた感情が戻る。
けれど壊れたはずの心は、この夢を見る前と比べると少しだけ元の形を取り戻している気がした。
やがて、全てが感じられなくなることでこの世界の終わりが来たことを八雲は悟った。




 こんばんは。左手が痛い、右利きだったのが幸いな三原梢です。
八雲ちゃんを起こそうと頑張りましたが、ちっとも起きてくれません。
どうするか考えているうちにとうとうチャイムが鳴りました。しょうがないので私一人でメモをとることに。
花井君、麻生君、サラちゃん。この三人以外の名前が呼ばれないことを祈ります。
ところが放送が始まったとたん、八雲ちゃんが動いたのです。寝返りかと思いましたが、
なにやらつぶやき、体を起こそうとしています。伊織はすぐさま傍に寄り添ってました。
左手は痛いし、右手はメモをとらないといけないので私は抱き起こしてやれません。
せめて声だけはかけておきます。立ち上がろうとしているものの、意識がはっきりとしていないようでした。

『女子16番 結城 つむぎ、男子 7番……』
 五回目にもなると慣れてしまったのでしょうか。嫌なことです。
私は放送に対する覚悟ができてしまったのかもしれません。だって結城さんの名前を聞いても、取り乱さなかったのですから。
代わりに思いっきり歯を食いしばりましたけど。ハリー君の名前が呼ばれたとき、正直安心してしまったのは秘密です。
「……りま……さ……」
 八雲ちゃんが何やらつぶやいたようですが、今はまだ放送中。私は何もいえませんでした。
祈りは届かず、四人もの人の名があげられました。禁止エリアがここでなかったのが唯一の救いです。
もう一枚同じ内容のメモを書いて、盗聴器のことも付け加えます。それを持って八雲ちゃんの傍にかけよりました。


 ……彼女は泣いていました。サラちゃんが殺され、麻生君を殺してしまい、花井君が死んでしまった時と同じでした。
涙がぽろぽろと落ちます。頬を伝うのではなく、そのまま落ちています。それほど大粒の涙でした。
多分ですが、放送を聞いて改めて花井君達の惨劇を悲しんでいるのだと思います。
私はメモに書いた死亡者のうち、三人の名前を読めないくらい黒塗りしました。
知っているであろう死を何度もつきつける必要はないからです。
「と、とにかくここは安全だから安心して!ね!」
「……はり、ま……さん…………」
 聞いちゃいません。漏れてくる声から、どうやら播磨君が原因のようです。
一時期流行っていた噂を思い出します。でも播磨君の本命は沢近さん。
だいたい今の放送と播磨君と何の関係があるのでしょう。そもそも播磨君も確か危険人物です。
とにかく、今悲しんでる八雲ちゃんをなんとか立ち直らせないとお話にならないので
いけないと思いつつも聞くことにしました。それに待ってるだけでは私の左手が痛くてたまりません。
「は、播磨君?……昔つきあってたんだっけ?……話してくれない、かな?話すだけでもきっと……」
 私は八雲ちゃんとはっきり言って縁がないです。でも同じ関係が薄いはずのサラちゃんや麻生君と話すことで、
私は少し救われてそして踏みとどまることができました。だから今度は私が話を聞く番だと思いました。


* * * * * * * *

「……そ……そうなんだ…………」
 衝撃の事実でした。話をまとめると、播磨君が好きなのは天満ちゃんだそうです。
八雲ちゃんは播磨君の漫画のお手伝いをしていただけで、それが誤解されていたとのことです。
『姉さんと播磨さんが…………でももう……全部……』
涙声で八雲ちゃんは最後まで話してくれました。三人の関係と、八雲ちゃんの立場が少し分かった気がします。
……それはそれで驚いたけど、今八雲ちゃんが泣いているのはどういうことなんでしょう。
何か思いっきりずれている気がします。けどとにかく何か話さないと話が進みません。

「じゃ、じゃあさ!とにかく播磨君を探そうよ!お姉さんのこともあって、心配でしょう?」
 八雲ちゃんは呆けたような表情でこちらを見ていました。そしてとんでもないことを言い出します。
「……私は死ぬべき、ということですか?……播磨さんと、姉さんのいるところへ……!」
「な、なんでそうなるの!?播磨君まだ生きてるじゃん!!」

--約5分の問答の末、何故話がかみ合わないかゥ私は理解しました。そうだね、仕方ないよね。寝ぼけてたんだし。
それにしても……ああまぎらわしい……名前に文句いってもしかたないんだろうけど……おのれハリーマッケンジー。
にゃーと言ってるはずの伊織はどこか呆れた様子でしたが気のせいでしょう。

 えっと、三原梢です。仕切りなおします。播磨君のことが誤解だとわかると、八雲ちゃんはある程度落ち着いたみたいでした。
もちろんお姉さんやサラちゃん達のことをきれいさっぱり忘れたわけではないでしょう。表情は暗いままです。
それでも眠る前と比べてどこか雰囲気が違いました。コミュニケーションもちゃんととれます。
もう夕日が沈んでしまって、私達のまわりは真っ暗です。空では星と月が、地上では伊織の眼が光ってます。
本来なら食事の時間なのですが、食欲がありません。八雲ちゃんに聞いてもやはり同じ。
『これからどうする?』という質問の前に、お互いのこれまでを話すことにしました。
播磨君達の話をさっきしてもらったので今度は私の番です。

「まず、ね……北東のほうだったと思う。そこで最初にあったのがララ。わかる?私みたいに褐色の、2-Dにいる留学生」
「!……あの、すみませんもしかして……三原先輩、その後姉さんに会いましたか?」
 ものすごい気迫で迫られて、私は考えるより早く頷きました。八雲ちゃんは教えてくださいと真剣に聞いてきました。
順番に話します。ララと伊織に会い、倒れた結城さんと出会ったこと。……でも播磨君のことは伏せました。
何故なら少なくとも八雲ちゃんは播磨君のことを悪く思っていないようだったから。
ララが暴走して結城さんとはぐれてしまったこと。やがて天満ちゃんと奈良君に会い、別れ、
冴子と今鳥君が死んでしまい私も暴走し……サラちゃんと麻生君に助けられたこと。
麻生君のことはできれば触れたくなかったけれど、言うしかありませんでした。
あんな形になってしまったけれど、決して麻生君は悪い人じゃなかったとも言いました。
ただし、彼を殺してしまった八雲ちゃんが悪いかどうかは自分で決めてとも言いました。
そしてこの悲劇の舞台はこれがはじめてではないこと。サラちゃんが、前回の参加者であることも言いました。
最後に私の目的を話しました。生きること。夢を見ること。--これで、全部です。

「ごめん、なさい……」
「な、なんで謝るの?」
 私が話を終えて、また八雲ちゃんの番になりました。でもいきなり謝られます。
「私のせいなんです……今鳥先輩が死んだのは……!」
 その言葉の意味を理解したとき、手に力がこもったことは否定できません。思うところがないわけでもありません。
でも私は話を聞くことにしました。八雲ちゃんがお姉さんのことを知りたがっていたことと同じです。



* * * * * * * *

「……あはは…………今鳥君……カッコよすぎじゃん」
 それが私の感想でした。ピンチのところを助けて、自分だけ傷ついて三人を守って。らしくない。
ヒョロヒョロのボディでいつも一条さんに半殺しにされてたのに。
ここぞというときに戦って、傷ついて、男の子っぽく振舞って。ヒーローってやつ?
でもそれなら失格。ヒーローは女の子の涙で生き返らなきゃ駄目だから。

「ありがとう。お墓も作ってくれて。今鳥君のこと、教えてくれて本当に感謝してる」
「私が……平瀬村に行こうと言い出したんです。いいんですか?」
「サラちゃんと会うまでの私だったら……わからないかな。でも、さっきも言ったけど私の目的は
 夢を見ることだから。生き続けることだから。復讐じゃないの」

 ぺこり、と八雲ちゃんは頭を下げました。月明かりのおかげでそれくらいはわかります。
……でも本当はうらやましかった。彼女に限らず、一条さんも花井君も。
何故なら今鳥君は私といたときはちっともそんなそぶり見せなかったから。
だからうらやましかったのです。少しだけ。ほんの少しだけ……

 その後、八雲ちゃんは伊織と出会い花井君達と別れて、死んでしまった天満ちゃんに会ったそうです。
それ以上聞くことはやめました。天満ちゃんの弓を持っていることはだいたい想像がつきます。
ドジビロンストラップを貰いました。これは今鳥君が持っていたそうです。大事にします。
お礼というわけではないですが今あった放送と盗聴器のメモを渡して、花井君達を埋葬したことを話します。
そして最後に言っても仕方のない、けれどどうしても我慢できないことを言いました。

「あのさ……」
「……はい」
「私達、逆だったらよかったね。……お互いの立場、がさ」
 もし私が八雲ちゃんと同じスタートだったら、今鳥君と会うことができた。最後を看取ることもできた。
八雲ちゃんが私と同じスタートだったなら、お姉さんと早めに会えて、別れるなんてことにはならなかった。
友達のサラちゃんにだって会えた!麻生君も止められたかもしれない!!……八雲ちゃんが手を汚すこともなかった!!
過去にもしもはないのだけれど、考えないなんてことはできない。だってそっちのほうが絶対よかった!!

「姉さんと、早く……早く会えていたら……」
 また八雲ちゃんの体が振るえ、彼女の目にうるうるが……おかしいな、顔も景色も、何もかもがよく見えません。
「や、くも……ちゃん。駄目だよぉ、泣いちゃ。わぁ、わたしだって……今、どり君……」
 私達は同じことを考えて、耐えようとしています。でもきっとこらえきれません。駄目だな私。ほら、もう我慢できない。

「「う……あ……うああああぁぁぁっん!!」」

 私達は子供のように思いっきり泣きました。抱きしめあって、頬を寄せて涙をこすり付けあいました。
それは何にもならない行為だけど、私は八雲ちゃんと深い深い絆が生まれた気がしました。



 月を見るために首を傾けるのが少しだけ辛くなった頃。八雲は自分の隣で眠る三原と伊織に視線を移した。
伊織はいつものことかもしれないが、三原は限界が近かったのだろう。完全に寝入っている。
その様子を確認し、八雲は再び月を見上げた。

(…………)
 答えはあった。見つかった。今すぐ死ぬのは生きろといったサラ達にも、三原に申し訳がない。
かといって生きることは許されない。自分の手は既に汚れている。
だから、刑の執行を少しだけ先延ばしすることにした。よくて一日。まず二日はない。
その期間でできること--それは、生き残るべき三原のような人間を生かすこと。


(……これが答え)
 生かすために精一杯の努力をすれば、サラ達も許してくれるだろう。
血にまみれ、最後に自分自身の血で幕を下ろすことで『自分』も満足するだろう。
双方の望みを完全に達成することは不可能だから、選んだのはその次に望ましい道。
八雲はそれにどこか既視感を覚える。そしてまもなく合点がいった。

(ああ……私は知ってたんだ。どうすればいいか答えを持っていた。ずっと前から持っていた)
 冬の訪れを感じたあの日。いくら望んでも叶わない願いを知った。届かない存在を知った。思い知らされた。


---そして私が選んだのは---


 八雲はこの瞬間、どこかにあった生きたいという願いを捨てる。そして生きることより死ぬことに価値を見出していた。
どう生きるかよりいつ死ぬのが最も効果的か考えはじめていた。安易な死を求めてはいけないと硬く誓う。
今鳥の、花井の、サラの、麻生の、これから手にかけるかもしれない人の命を背負うのだから。




 サラの遺品の一つである双眼鏡で付近を見渡す。視界は良好とはいえないがとりあえず動くものは見当たらない。
ボウガンから矢を外し、使い物にならない本体を捨てる。食料や水は全て天満のリュックに移し変えた。

 三原から受け取ったメモを取り出し、生き残った人間を頭の中で数える。
自分と三原を除けば、残り11人。そして見知った先輩達は5人。様々な考えが頭を渦巻く。

(……あれ、おかしいな……ああそうだ)
 肝心要のことを忘れていた。このままでは1人しか助からない。
それはよくないと思った。三原以外にも救われるべき人間はいるはずだから。
何より--自分を襲った凶人より。今鳥を殺した斉藤達より。サラや花井を殺した麻生より許せない人間がいる。

「……先生」

 そう呟いて、首に巻きついたそれを軽く小突いた。諸悪の根源に対する無視できない怒りが心に積もる。
サラは『前回』。それはつまり『今回』が『前回』になってしまうかもしれないということ。
全てを終わらせないと、全てが無駄になってしまう。そんな気がした。



 見上げた月は相変わらず静かで、いつものように全てを見ていた。星の光と重なり合い、天空に光の帯を作り出す。
その明るさは八雲に姉の笑顔を彷彿とさせる。

「姉さん、見ていて。……そして……」


----どうか、私を許して……


【午後 20時00分】

【現在位置:H-03】

【三原梢】
[状態]:睡眠中、左掌に銃創(応急処置済み) 精神的疲労はやや回復
[道具]:支給品一式(食料1.5、水2) UZI(サブマシンガン) 9mmパラベラム弾(1発) 救命ボートのオール
ベレッタM92(残弾16発) 9ミリ弾191発 エチケットブラシ(鏡付き) 、ドジビロンストラップ
[行動方針] :生きて夢を見続ける。UZIの弾丸を補充する。
[備考] :播磨が天王寺、吉田山を殺し刃物を所持していると思っています。

【塚本八雲】
[状態]:精神・体力共にある程度回復
[道具]:支給品一式*2(食料3、水6)、(弓矢20本、全てゴム。ただし弓はしっかりしてるので普通の矢があれば凶器)
      ボウガンの矢4本、アクション12×50CF(双眼鏡)
[行動方針]:三原が起きるまで見張り。生きていて欲しい人間を助けるが、自分が最後まで残るつもりはない
[備考]:所持している荷物を天満の形見と認識。弓使用可だが精度に難あり。教師達も狙うという意味では反主催


[共通備考]:盗聴器に気づいています。



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