決意






「はっ…はっ…烏丸くーん!…か・ら・す・ま・くーん!」

私は今走って烏丸君の後を追いかけています。
……烏丸君独りで行っちゃダメ……じゃないと…烏丸君はきっと…
走りながら烏丸君の名前を呼んでいても悪いイメージばかり浮かんできます
……ダメ!ダメ!そうならないように私が一緒にいると決めたんだから! 
でもくじけそうです…こっちに歩いていったはずの烏丸君は見つけられません
もしかしてもう高野さん達と出会ってしまったのでしょうか?
だとしたら……もう……
駄目だなぁ、私……決心したのに。
烏丸君と播磨君を止めたのは塚本さんじゃなくて私なんだ、って
あなたに伝えたいことがある、って


「あ!」
一つだけ烏丸君と会える方法が思い浮かびました
塚本さんには悪いけど、今一番烏丸君を理解しているのは私だと思いますから……多分
そしてなぜか烏丸君ならきっとこれで会える気がします
だから、立ち止まって息を大きく吸い込んで私は力の限り叫びます


「烏丸くーん!カレーパン見つけたよぉー!」

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……ダメです。聞こえるのは風で木々がざわめく音と鳥の鳴き声だけです
もしかして私って馬鹿?
そうですよね、いくら烏丸君でもこんな時にカレーパンなんて言ってる場合じゃないですよね
お父さんお母さん馬鹿な娘でごめんなさい。でもプリンはあげません。



……でも本当にどうしよう、疲労と不安で私は立っていられず座り込んでしまいます
涙が出そうになりますが、代わりに私は声を出します。それが呟きでも届いてほしいから
「……烏丸君……」
がさっ「なに?」
「?!ひゃあ!」
いきなり烏丸君が目の前に現れて私は驚きの余り変な声をあげて引っくり返ってしまいました
「か、か、烏丸君!」
やっぱりカレーパンのおかげなんでしょうか?それとも私が呼んだから……?
でもカレーと私のどっちが好きか聞いたらきっと烏丸君はカレーと即答しそうなのでとても聞けません

ああ……でも……烏丸君が目の前にいる……本当に烏丸君にまた会えて良かった……本当に……
でもその感激も烏丸君の目を見ると急に冷めて不安が生まれます
烏丸君が時折見ているのは、おそらく高野さん達が通った道の先
その方向を見る烏丸君の目を見ると烏丸君がそのまま消えてしまいそうに思えて、とても不安になります
「烏丸君……どうしてここに?」
「砺波さんの声が聞こえたから。砺波さんこそどうして?播磨君は?大きな声を出すのも危険だよ」
そうだけど、分かっているけど、それでも私は……
思わず泣きそうになってしまいますが、今は伝えないといけない事があるから泣きません
「播磨君のことはちゃんとしてきたから」
メモを書いて落ち葉とかかけてきただけだから、ちゃんとじゃないかもしれませんけど
「だから私も一緒に……ううん、私が先に行って美奈達を説得する」
烏丸君は首をゆっくり横に振って危険だから、と言いますが私も負けません

「私がまず美奈や岡君を説得する。高野さんが二人を騙しているならきっと効果はあるはずだよ」
「そうなればきっと高野さんは、砺波さんが僕に協力していると言うと思う」
「でもいきなり攻撃まではしてこないよ。それに武器も薙刀ぐらいしか・・」
「高野さんは多分拳銃も持ってると思う」
「え?!……でもそんな事一言も……」
「それらしきものを見たし、高野さんの口からも聞いたんだ」
「じゃ、じゃあ、拳銃が当たらない距離から私が呼びかけるから!」

烏丸君はそれでも危険だと首を振ります。
今までの私だったらきっとここで折れたでしょうけど、今の私は違います
ここは絶対に引けません。烏丸君が傷つくのも傷つけるのも見たくありませんから
何度も何度も烏丸君を説得しようと言葉をぶつけた後、
じっ、と烏丸君と視線を絡め合う…じゃなかった、見つめていると
やがて烏丸君はゆっくりと頷いてくれました


「分かった。でも、高野さん達と急に出会った時は下がっていてくれる?」
「分かった。でも、高野さん達を見つけた時は烏丸君が下がっていてね?」
「うん」
良かった。遠くに行きそうだった烏丸君が少し近くに来てくれたような気がします

「じゃあ、行こうか砺波さん」
「ちょ、ちょっと待って烏丸君。播磨君の事もあるし、そろそろ放送だから……
 放送中は高野さん達も動かないだろうし、それに私も少しつかれて……」
「そうだね」
「うん、ごめんね」
ごめんね烏丸君。それも本当だけど、このまま行くと烏丸君が消えてしまいそうだし
それにもう少し二人で……
「ところで砺波さん」
「え?!、何?」
「カレーパンはどこ?」
「あ!え〜っと、それは……」
やっぱりカレーパンは聞き逃して無かったんですね
「え〜っと、さっきそこで見かけたような……」
怒るかな烏丸君、怒るよねきっと
どうしよう……見間違いだったって言えば許してくれるかな
「え〜っと……」
「冗談だよ砺波さん」
「え?」
いきなりそう言った烏丸君の顔を見上げると微笑んでいるように見えました
ああ,本当に良かった。やっと烏丸君が帰ってきてくれたような気がします
塚本さんも烏丸君の笑顔を見た事があるのかな?
あるのかもしれません。もし無かったら……怒るかな塚本さん……ごめんね


それから二人で少し休んで、特に会話もなかったけれど居心地は良くて
いきなり無人島につれてこられて、殺し合いをやらされて
それでもう大勢のクラスメイトが同じクラスメイトに殺されて
そんな中で休憩してて、しかも隣にいるのが烏丸君。
今でもどこか非現実的に思えるそんな現実が
何か遠い世界のように思えてきました



……いつも聞き慣れてた学校のチャイムが、今では一番聞きたくない音が聞こえてくるまでは……



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こんばんわ、谷だ。これから二日目の夜を迎えるが、…………
女子16番……
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「七人も……」
いつもやさしかった谷先生の声がひどく空疎に思えました
結城さん、斉藤君、おキヌちゃん、麻生君、花井君、
みんな良い人達だったのに……
私達が今いるここは現実だって事を今更ながらに思い知らされます
でも今一番不安なのは……
「烏丸君大丈夫?今の放送聞いてた?」
「………………え?……ごめん、聞き逃してたから写させてもらえるかな?」
「……うん」

嫌な予感は当たったかもしれません。禁止エリアを書き写す烏丸君の姿は
別れた時の、また遠くに行ってしまう気がする姿と同じようでした
「播磨君は大丈夫みたいだから行こうか砺波さん」
「……うん」

そう言いながら立ち上がって歩いていく烏丸君を見てると、本当に消えてしまいそうで……
……だめ……ダメ……烏丸君……から……
「烏丸君!私!……私!」
……まだ伝えてないことがあるから
「わた……わた……」
……今言うしかない!
「綿?」
……塚本さん力を貸して、お願い!
「私が前歩くから!!」
……って違う!
「……そうだったね」

うう〜、私って駄目だ……。きっと塚本さんに力を借りようとしたからいけなかったんですね
ごめんね塚本さん。でも、烏丸君を守る時は力を貸してね


だから、もし烏丸君を守れたときは、言っていいよね?

塚本さんごめんね。--本当に、ごめんね。


【午後:18時〜19時】



【烏丸大路】
【現在位置:E-04西部】
[状態]: 健康、服は乾いた返り血まみれ、時折空白、少し熱くなっている
[道具]:支給品一式(食料はカンパン、カレーパン、激辛カレーパン 水1) 日本刀
[行動方針]:1. 高野の悪事を止める(高野を倒す。場合によっては殺す?) 2.播磨との再会
      3.原稿を描く(播磨に手伝って欲しい)
[備考]:高野を許しがたいと思っています。烏丸の中のカレー分がそろそろ不足します。

【砺波順子】
【現在位置:E-04西部】
[状態]:恋の病
[道具]:支給品一式×2(食料はみそパン、カステラ 水1) パーティーガバメント 竹の食器 火打石 竹製包丁
[行動方針]:烏丸を守る。雪野の救出。安全な級友との再会。
[備考]:なるべく穏やかにこの殺し合いを終えたいと思っています。



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