第五回放送






夕焼け空も程々に、五度目となるチャイムが鳴り響いた。

「こんばんわ、谷だ。これから二日目の夜を迎えるが、まあ何とかしてくれ。では、死亡者と禁止エリアの発表をしておこう。

 女子16番 結城 つむぎ
 男子 7番 斉藤 末男
 男子22番 ハリー・マッケンジー
 女子 5番 鬼怒川 綾乃
 女子19番 サラ・アディエマス
 男子 1番 麻生 広義
 男子13番 花井 春樹

 これで残りは13人だ。ここに来てこのスパートは素晴らしいと思う。今後も気を抜かずに頑張って欲しい。

 続いて禁止エリアの発表と行こうか。19時にI-09、21時にF-05、23時にE-02が対象になる。

 じゃあ放送は以上だ。今後も頑張ってくれ」

続けば続く物である。放送はまたしてもあっという間に終わっていった。


「お疲れ様です、谷先生!」
「ああ、どうも」
放送を終えた谷を表立って出迎えたのは姉ヶ崎だけだった。郡山を含め、他の教師達はただ視線を向けるだけだというのに。
予備の食料としてあらかじめ用意されていたカップラーメンやパンのゴミが散在した机を見下ろしながら、谷は自分の椅子に腰掛ける。
「ああ、次はいよいよ私の放送ですね! 仮眠も取ったし、今から楽しみですよ!」
「はは……姉ヶ崎先生なら生徒達も喜びますよ」
随分と眩しい笑顔を見せる姉ヶ崎とどこか照れ気味の谷。この二人だけに限れば、まるでいつもの職員室そのものだ。
……と、そんな谷の横で、今まで机に伏せて寝ていた加藤が目を覚ました。こちらは極めて貴重な光景だと言えるかもしれない。
「姉ヶ崎先生、随分元気になられたようですね。私も一安心ですよ」
二人を見ながら加藤は呟く。一瞬姉ヶ崎の笑顔が冷めたのだが、その瞬間を捉えた者は郡山以外に果たして何人いる事だろうか。

ついに、五度目の放送が流れた。次に姉ヶ崎が放送を行えば、六人いた教師達が全て放送に参加した事になる。
そんな管理室だが、谷と姉ヶ崎を除く他の教師達は、特に話をしようとはしていなかった。
姉ヶ崎と途中で交代した加藤が仮眠を取り、次は誰かが代わりに取っていい筈なのだが、特に名乗り出ようとする者すらいない。
随分前から郡山は気付いていたのだが、管理室の居心地は恐ろしく悪い物になってしまっていた。
もともとそこまで親密な付き合いのない他人同士が長時間同じ仕事をしたせいか、それとも仕事そのものへの感情のせいか……
誰が裏切り者か、誰が主催者の犬か……そういった疑念の積み重ねもまた、このような環境を形成するのに役立ったのだろう。
皆黙々とモニターを眺め、必要に応じて各自が用意されていた食料を取りに行くようになっていていた。
小話など、せいぜい刑部と笹倉がたまに行う程度の事だ。
「すみません、加藤先生。次は私が休みたいのですが……よろしいでしょうか?」
沈黙に耐えかねた郡山は加藤に顔を向けると、彼もどこか救われたかのような視線を返してきた。
「ええ、どうぞどうぞ。谷先生も、刑部先生も笹倉先生もまだまだ大丈夫なようですし……郡山先生の分は私が引き継ぎましょう」
「ありがとうございます。……先生、私の担当分でも特に……城戸には注意して下さい」
「分かっていますよ」
敢えて盗聴器の事は口にしない。未だに主催側からの連絡が何らないとはいえ、盗聴器の存在がバレた問題を蒸し返したくなかったのだ。
主催側が今も何も言ってこない以上、もしかしたら盗聴器の存在の露見などは想定の範囲内の出来事なのかもしれない。
だが、それが事実かも分からない以上はこの件に触れないのが得策だ。郡山は溜息を一つつくと、ゆっくりと両目を閉じた。



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