合流、そして動揺
「……全く、播磨君も沢近さんも言い出したら聞かないダスな」
沢近の姿が視界から完全に消えると西本はどっかりと腰を落ち着けながら苦笑した。
戦力の分散は避けるべきだとあれ程思っていたのだが結局播磨のみならず沢近までもが別行動を選択した事、
そして二人を留めておけなかった事は西本の意思に反していた。
しかし親友との再会、そしてあれほど望んでいた周防の埋葬よりも不確かな希望探しを採ってくれた沢近の決意を思えば西本も折れざるを得ない。
幸い一条という新たな仲間が加わった事、そして間も無く高野達がやって来る事は大いなるプラスだと西本は思っていた。
その一条だが彼女の方を見た西本はおや、と思った。
虚空を見詰め、何か心ここにあらずといった様子で動揺しているのが見て取れる。
恐らく沢近が行きがけに残した言葉が原因なのだろうと見当は付いた。
文脈からして嵯峨野絡みなのは間違いないが判断材料が少な過ぎる。
---沢近さんは何か事情を知っていたようダスXな
一条の様子を見ただけで沢近が躊躇い無く飛び出したのはその原因に思い当たるものがあったのだろう。
それに西本にとっても沢近が嵯峨野と二人で昨夜神社に居たというのは初耳だった。
良く考えればお互い必要最低限の事を伝えただけで出発してからの詳しい事情は話してないのだ。
「一条さん、今は休んでおくダス。高野さん達が来てから話の続きをするダス」
西本も事情を知りたかったし、一条への状況説明も中断したままではあったがどうせ高野達が到着すれば同じ事を話すのだ。
ならば少しでも落ち着くのを待った方が良いだろう。
「はい……そうさせて下さい」
返ってきたのは力無い返事。
座り込んだまま動かない一条をこの場に残し、西本は自分が出来る事を行おうと動き出す。
高野達との距離も大分縮まっており間も無く接触できるだろうがそれまで多少時間があった。
「ちょっとそこに行って来るダス、すぐ戻るダス」
一条を不安がらせないように声を掛けてその場を後にする。
既に周囲の状況は把握しているもののドグラノフを手放す気にはなれずに持っていく。
目的の場所は言った通り少しだけ離れた場所。
高低差を緩和する為の曲がりくねった道の折り返し。
急カーブを一つ曲がると視界に飛び込むのは道路に敷かれたブルーシート。
そこが西本の目的地だった。
石の重しを退けてシートを剥がすと胸が悪くなるような血の匂いが鼻を突く。
ハリー、冬木、三沢。
先程死んだばかりの三人の死体がそこにあった。
埋葬は出来ない、でもそのままにしてはおけない。
そこで採った方法がリヤカーにあったブルーシートで覆う事だったのだ。
死体に慣れ始めた西本にとっても改めて気持ち悪さがこみ上げる。
これはとても今の一条に見せられなかった。
---ハリー君が『SRBR-7V7R4EW-W』、冬木君『wSRBR-5Z77PCP-3』、三沢君『SRBR-GXH2AN1-O』ダスな
西本の作業、それは三人の死体から首輪番号を確認する事だった。
八雲の番号である可能性は高いとはいえ絶対とは言い難く、知ることができる番号は片っ端から試さねばならない。
手早く番号をメモすると再度ブルーシートを掛けてやり、西本はその場所を後にする。
---全く、厄介ダスな
道路を歩きながら西本は思った。
パソコンで見た死体の位置は島のあちこちに散らばっており、既に禁止エリアとなった場所も含まれる。
高野達と合流できれば手分けして調べに行く事が可能だがインカムも携帯も既に無い。
分校跡に行きたいという当初の予定との板ばさみに悩んでしまう。
---高野さんならいい知恵がだせるかもしれなネいダス
一旦考える事を放棄する。
昨夜から続く精神的重圧は既に西本の大きな負担となっていたのだ。
秘蔵のAVでも有れば癒せるかもしれないが現在ではそれも望めない。
そんな時だった、林の奥の方から自分を呼ぶ声が聞こえて来た。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「本当にこっちでいいのかよ?」
林の中を先頭に立って進む岡は後方の高野に向かって問い掛ける。
南西の方向---道路を進むと遠回りになる場所に西本達が居るらしいが行けども行けども見えるのは草と木だけだ。
「間違いないわ、あと少しで道路に出るはずよ。そして道に沿って歩けば必ず二人に出会えるわ」
コンパスを確認しながら高野が断言する。
播磨の情報とインカムの交信で大体の場所はわかっていた。
このペースなら放送前に余裕を持って合流できるだろうと思っていると次第に視界が開けてくる。
ようやく道路が見えてきたのだ。
すると木々の間から人影が見えた。
まだまだ距離は遠かったがその特徴的な体型から誰なのか理解した岡は早速呼びかける。
「おーい!西本ーっ!」
声が届いたのだろう、呼ばれた人影が立ち止まる。
岡達も足を速めて次々に林を抜けると道路へ姿を現した。
その人影---西本も歓迎するように腕を振り始める。
早く合流しようと急ぐ三人だったが近付くにつれその服が血塗れであり、肩には大仰な銃が有るのを認めて緊張する。
「だ、大丈夫だよね……」
雪野は不安になってきた。
出発以来、見てきた武器で銃器と呼べるものは無かったし銃声も聞かなかった。
だから本物の銃は支給されてないかも、と楽観的な考えを持っていたがそう甘くないらしい。
ましてや西本は人を殺しましたと言わんばかりの姿である。
その姿が大塚の死体を見下ろす烏丸と一瞬重なる。
---駄目、悪い方に考えないようにしないと
頭から無理矢理不安を振り払い、先を行く岡と高野に付いて行く。
いざという時は高野さんが守ってくれる、そう自分に言い聞かせて。
一方高野であるが返り血よりも西本が持つ銃に注目した。
知識のある分、銃の種類を確認した途端思わず声が出てしまう。
「凄い、ドラグノフ狙撃銃ね」
「何ッ!知っているのか高野!」
大袈裟に驚く岡。
彼もまたもや銃に興味津々のようだ。
「ええ、まさか支給品にそんなものがあるなんて思わなかったわ」
ドラグノフ狙撃銃…
正式名称スナイパースカヤ・ビントブカ・ドラグノフ(Snayperskaya Vintovka Dragunova)
それは旧ソ連によって開発されたセミオートタイプの軍用ライフル。
600mに及ぷ有効射程と強力な7.62mm弾の組み合わせはNATO軍の大いなる脅威であった。
即射性に優れたその性能と信頼性は広く世界に認められており、開発から40年以上経過した現在も各国の軍で現役である。
談講社刊『世界の銃器・火器大全』より
隠す必要の無い銃が手に入ればと思っていたが狙撃銃とは予想以上だ。
順調に信頼を得られれば自分のものにできるだろうとほくそ笑む。
「岡君、無事で何よりダス!高野さん、雪野さんも会えて嬉しいダス」
「お前が生きていてくれて良かったぜ!それに凄げえ銃じゃないか!」
軍団のリーダーとして西本は真っ先に岡を歓迎した。
女子に対する気配りも忘れないが、ここで男の友情を優先させるのは西本らしい行動かもしれない。
手を取り合って再会を喜ぶ二人の後方で高野はいつも通り平然と、雪野は微笑ましいものをみるような表情をしていた。
「西本君、それで愛理は?」
二人の喜びなどお構いなしに高野が聞く。
そういえばこの状況で沢近が真っ先に駆け寄ってこないのは不思議だと雪野も気付いた。
「すまんダス、それが---」「高野さん?それに雪野さんも」
西本の説明は後方からの新たな声によって中断される。
声を聞きつけたのか休んでいたはずの一条がそこに居た。
「「一条さん?」」
沢近が居ると思えば登場したのは一条という意外な展開に高野と雪野は不思議がる。
岡はといえば女子が三人も居るという事実だけで喜んでいた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……という訳で沢近さんは南に居る誰かと会う為にここを離れたダスよ」
道路から離れた茂みの中、合流を果たした五人はパソコンを囲む形で車座になっていた。
積もる話もあるだろうがまずは落ち着ける場所への移動を優先したという訳である。
詳しい話は長くなる、西本は沢近不在の理由と一条と合流した経緯だけをまず簡潔に伝えた。
僅かなタイミングで親友との合流を逃した事にさすがの高野も残念そうな表情を浮かべてしまう。
「沢近さんだって高野さんに会いたがっていたダス、それを先延ばしにしても皆を助けようとする気持ちをわかってあげて欲しいダス」
それを見た西本が慌てて沢近のフォローする。
沢近がどれだけ高野に会いたがっていたのか別れ際の言葉で西本にも十分伝わっていた。
「……ええ、わかっているわ」
親友の気持ちを汲み取り、顔を上げる高野。
だがそれも計算づくの事。
これで西本は一層自分を信頼するだろうという思惑だった。
案の定西本の警戒も緩くなった他、一条も自分の事を気の毒そうに見ている。
それを理解して高野は心の内で舌を出していた。
「その分、愛理が私を信頼しているという事よね。まずは状況を把握させてもらっていいかしら?」
高野にとって聞きたい事はまた山程あった。
烏丸への対処も大事だが未知のマーダーが居れば早目に知っておかなければならない。
西本は大きく頷くと節電の為閉じてあったパソコンの蓋を開く。
途端休止状態から復帰して画面に島のマップが表示された。
高野は表示された瞬間から素早く全ての光点、黒点の位置を読み取っていた。
ざっと見ただけで生存者を示す光点の減少、校舎に有る六つの光点などが気になったものの
やはり一番注目したのはE-05で一箇所に固まっている三つの光点。
そこには岡や雪野も身を乗り出すようにして注目していた。
名前まで表示されないその光点が播磨、烏丸、砺波とその命を表している事は皆が知っている。
「ワスの予想以上に早い接触ダスな」
西本も緊張した表情インカムを取り出すと耳に押し当てるが何ら音は聞こえない。
せめて接触前に連絡を寄越してもよさそうなのにそれが無かった---播磨はそこまで冷静さを失っているのかと心配する。
「おい、どうなってんだよ。さっきから全然変り無いじゃねえか!」
光点はピクリとも動かない事に岡が苛立った声を出す。
「データの更新は15分毎ダスよ、今は落ち着いて待つダス」
ひょっとすると今この時点で、いや既に状況の変化があったのかもしれない。
しかしそれを知る事ができるのは十数分後---それがこんなにも長いのかと思いながら五人は固唾を飲んで更新を待つ。
もし、光点の一つが黒くなったとしたらそれは誰かの死を示している。
西本はクラスメイトを助けたいという気持ちと大塚の仇を討ちたいという相反する気持ちを胸中に抱いて。
一条は争うクラスメイト達に感じるやり切れなさと徐徐に大きくなる悪魔の囁きを聞きながら。
高野は出来る事なら共倒れしてもらいたいと望みながら冷静に。
雪野はせめて順子だけは助かってほしいと願いながら。
岡は高野を脅かす存在が消えて欲しいと思いながら画面を見詰めていた
そして更新が行われる。
もたらされる新たな情報、ところがそれを見た五人の表情には各々戸惑いや疑問が浮かんでいた。
「一体どういう事ダスか……」
三つの光点は一つも消える事無く輝き続けていた。
それだけならまだ決着が付いていないと納得できる。
表示されたマップには更新前から殆ど動いていない二つの光点、そして西側に離れた光点が一つ。
「播磨君から何か連絡は無いの?」
「駄目ダス、ウンともスンとも言わないダス」
高野の問いに西本はインカムを耳に押し当てたまま首を振る。
親機が壊れてしまったのか、話すのが不可能な状態なのか、いずれにせよこちらから確かめる方法は無かった。
「播磨君と烏丸君が衝突した隙に順子が逃げ出したんじゃ---」
「いや、そう見せかけて烏丸のヤロウが向かってきてるのかもしれないぜ。二人を気絶させるか何かしておいて---」
雪野や岡は思い付いた可能性を次々に口に出す。
一条は判断が付かないのか黙ったままだ。
「二人共落ち着いて欲しいダス、今は次の更新を待つしかないダス」
一向に繋がらない通信に見切りを付けて西本もインカムを耳から離す。
喋っていた二人も不毛な議論な議論と気付いたのか話を止めてパソコンに視線を戻した。
高野も気持ちを切り替える。
まだ知りたい事は山程有る、無駄な推測を重ねるより時間を有効に使うべきだと。
「西本君の言う通りね、烏丸君達の事は一度置いて他の話を進めましょう」
一同を見渡しながら高野が言う。
離れた光点が誰であろうと遭遇すれば事態の変化をもたらす可能性がある。
その変化は自分にとって都合の悪い事であるかもしれないと高野は警戒していた。
ならば、その前にできるだけ多くの情報を引き出しておこうと考える。
そして西本も同様の考えから早いうちに情報交換を済ませたいと思っていた。
かくしてあっさり話は纏まると最初に口を開いたのは高野でも西本でも無かった。
「西本君さん、高野さん聞かせて下さい---二人共その服の血は一体どうんですか?」
一条の声は震えていた。
合流した時点から感じていた疑問。
血塗れだった沢近と西本、そして新たに加わった高野もまた制服を血で汚していた。
出会えた喜びはその姿を見た瞬間に恐れによって上塗りされてしまった。
もし目の前の二人が乗っているとしたら。
そう考えるとショットガンを握る腕に無意識の内に力が篭る。
「これは---私の服に付いているのは大塚さんの血よ、烏丸君が私の目の前で日本刀を使って……」
先に答えたのは高野だった。
一条の不安を見抜いた彼女はそれさえも利用しようと偽りを語る。
両腕で自らを抱き、体を震わせて自分が如何に怖い想いをしたのか、烏丸がどんなふうに大塚を殺したのか。
”目の前で起こった惨劇”を余すところ無く伝える。
雪野と岡もそれが本当だと横から一条に訴えた。
「そうだったの、御免なさい辛い事を思い出させて……」
疑ってしまった事を一条は謝る。
横で聞いていた西本も改めて怒りに身を震わせていた。
---どうして皆こう単純なのかしら
高野はそんな二人の道化ぶりに笑いたくなった。
これでまた一つ烏丸に対抗する手駒が増えたのだから。
「……では、西本さんの方も聞かせてもらえますか?」
そんな気持ちは露知らず、高野に同情した一条は次は西本の衣服に付着した返り血の理由を問う。
「これは……ハリー君の血ダス。ワス、播磨君、沢近さんの三人はハリー君と戦う事になって……殺したダス」
「!!」
殺した---その言葉に高野を含めた全員が思わず後ろに下がった。
『仏の西本』と男子を纏めていた本人の告白はそれ程大きな衝撃を皆に与えた。
向けられる視線にも今までと違ったものが混じる---西本はその反応を甘んじて受け入れる。
「ハリー君は乗っていた……止めるにはそうするしか無かったんダス」
地面を見ながら西本は噛み締める様に言葉を紡ぐ。
ハリーは西本が直接手を下した訳ではなかった。
だがこの罪は皆が等しく背負わなければならない。
引き金を引いた沢近に全てを負わせる気は微塵にも無かった。
「でも殺すなんて……」
一条の声は震えていた。
一人でも多くの人を助けたい---う思ってここまで来た彼女には殺人を肯定する西本の姿が異質に見えた。
「天王寺君、吉田山君、菅君、石山君、周防さん、冬木君、皆ハリー君の犠牲者ダス」
西本の口が既に死んでしまったクラスメイトの名前を綴る。
その数は六人、皆が息を飲み強いショックを受けていた。
「ワスはその事を言い訳にするつもりは無いダス、一生その事を背負って行くつもりダス」
西本が語り終えると空気はすっかり重くなっていた。
何とも言えない気まずさと居心地の悪さ、誰も口を開こうとはしなかった。
つい先程再会を喜び合った岡も黙っている。
一条も西本に向ける視線が次第に冷ややかなものに変化してゆく。
話が続かなくなったので高野が口を出そうとしたその時、思わぬ人物から事態を打開する声が発せられた。
「……仕方ないよ、だってハリー君は人を殺したんだから仕方ないよ!」
叫んだのは雪野だった。
涙目で、今まで大人しかった彼女とは別人のように声を振り絞ってそう叫ぶ。
そんな彼女に西本は勿論高野を含めた全員の視線が集中した。
「私、今まで逃げてきた。これは現実じゃないって思い込もうとして、助かったら何しようかと考えてきて……」
悲痛な声で雪野が話す。
頬を涙がポロポロと伝い、一瞬夕日を反射して輝いた。
「舞ちゃんが死んだのを見て、これは本当だって嫌という程わかったの。でも私は弱いから高野さんに頼る事でまた逃げて」
そう言って雪野はごめんねと高野に謝った。
その意外な告白に高野も言葉を告げられない。
行動を共にしてきた岡もその迫力に押されていた。
「でも……、今西本君が自分のやった事と向き合うって聞いて、逃げないでいるのを見て、私は間違っていたんだって気付いたの---」
感極まったのか雪野が言葉に詰まる。
何かをすすり上げる音がした後、雪野は再び喋りだした。
「だから、思った事を言わせて!西本君は間違ってないよ!私だって銃があったら舞ちゃんの仇を討っていた!」
雪野は一気に言いたい事を言い切った。
再び訪れる静寂。
だが、重かったはずの空気は何故か今は軽くなった気がした。
「雪野さん、ありがとうダス……」
西本が雪野に頭を下げた。
その目元に光るものが見えたのは気のせいだったのだろうか。
「立派ね、雪野さん」
高野も労わるようにポンポンと肩を叩く。
---思ったより見所あるじゃない、このコ
>
駒としての使い勝手も良くなるならそれでいい、と高野は雪野の告白を受け止めた。
それにこの遣り取りの結果、今後自分が烏丸や他の人物を殺したとしても信頼は揺るぐ事なく肯定されるだろう。
二度も西本の信頼を高めてくれた雪野は本当に役立つわ、と思う。
---後は武器ね
高野は西本や一条の持つ銃をチラリと見た。
散弾銃と狙撃銃。
前者は近距離、後者は遠距離での強力な武器になる。
しかし一条とはまだ信頼関係が深まったとは言い難い、話を持ちかけるなら西本の方と高野は決めた。
「……だよなぁ、仕方ねえか」
岡も驚きつつ現状を肯定しようと決意した。
まだどれだけ現実を理解しているのか不明だが---目の前に居る男はやっぱり自分達のリーダーなのだと確認する。
「悪りぃ西本、お前の気持ちをわかってやれなくて。これからもよろしく頼む」
差し出した手は西本によって強く握られた。
再会した時と同じ様に、いやそれ以上の喜びを持って西本は岡と握手を交わす。
そして一条は---
---何言っているんだろうこの人達、人殺しを認めるなんて
また囁きが聞こえてきた。
西本が首輪の番号を確認する為離れた時、一条はそっと後を付けてみた。
パソコンをどうやって入手したのか、沢近さんと西本さんは何故血まみれなのか。
それを聞くのが怖かった、だから付いて行けばそれがわかるかもしれないと思った。
青いシートが捲り上げられ、そこに見えた血塗れの死体。
一条は慌てて引き返し、その後聞こえて来た声に動揺を隠して出て行った。
---やっぱり西本さんは人を殺していたんだ。B
---烏丸君だけじゃない、やっぱり皆狂ってしオまったのかもしれません。
---今鳥さんが死んだのはまさか罰?それなら逑ッじ罪を重ねた西本さんも死なないと納得できないです。
だが、そんな一条の内面に気付く者は誰一人として居なかった。
傍目には彼女がただ黙っているだけとしか映らない。
結束を確かめ合う西本達の側に居ながら、一条は自分がどこか遠くに居る気がした。
「皆これを見るダス、どうやら情報の更新が行われたようダス」
岡と手を離した直後に西本は画面の変化に気がついた。
その声によって皆の視線が再びパソコンへと注がれる。
三つの光点は相変わらず健在だった。
最初の光点は更に西へと動いており、この場所へと真っ直ぐ向かっていた。
それもかなりの速度で進んでいる。
そして先程は固まっていた二つの光点のうち一つが最初の光点を追うような進路で西へと動いていた。
残る一つはその場に留まったまま動かなかった。
インカムを確かめるがやはり反応は無い。
襲撃者の可能性が高まり、一同に再び緊張が走る。
「どうやら用心する必要がありそうね。西本君、その銃を私に使わせてくれないかしら?」
タイミングを見計らって掛けられた声。
西本は一瞬迷ったものの、どうせ自分にこの銃は使いこなせないと考える。
「……そうダスな、ワスより高野さんが持っていた方が有効に使えるかもしれんダス」
武器を渡す事は信頼の証。
高野達は自分の罪を受け入れてくれた、なら自分も応えようと西本は思った。
「有難う西本君」
ずっしりと重い狙撃銃が渡され、高野はゆっくりとそれを構えた。
新たな駒と新たな武器。
来るのが誰であろうと自分の優位は動かない。
やがて現れるだろう人影をスコープの中に想像しながら、高野はそっと引き金に指を掛けた。
烏丸や播磨がどれだけ腕に覚えがあったとしても飛来する弾丸は防げない。
そして、何より大事なのは余計な事を喋りだす前に対処できるという事。
相手がこちらを確認する前にこの指を動かせばそれで終わる。
「とりあえずリヤカーは隠すダス、ワスらの位置を教えるようなものダス」
そして西本も岡と一緒にリヤカーを茂みから離れた場所へと動かした。
後はこのまま茂みで待つ事が決まる。
リヤカーは見つかったとしても囮として注意を引いてくれるだろう。
「とりあえず時間はまだ大丈夫なのなようダス、それまで少しでも話を進めておくダス」
高野も扱いの確認を終えて銃の構えを解く。
何時光点の人物が現れてもいいようにしながら五人は話を再会させる事にした。
お互い話さねばならない事、聞きたい事はまだまだ有る上放送も近い。
それに---沢近に早く現在の状況を知らせたいと西本は思っていた。
高野達との合流成功、播磨の状況、そしてパソコンに表示されている位置情報について。
二度の更新にも関わらず分校跡から動かない光点の存在。
自分と同様に希望を求めてそこ訪れた人物なら良いが、そうで無い可能性もあるのだ。
そして沢近を示す光点は確実に分校跡へと近付いていた。
【午後:16時〜18時】
【西本願司】
【現在地:E-03南部】
[状態]:精神的消耗(多少持ち直す)、肉体疲労&筋肉痛(多少回復)、烏丸に怒り。返り血にまみれている。
[道具]:支給品一式(水7,食料8)、山菜多数、毒草少々、ノートパソコン(バッテリー・フラッシュメモリ付き)
MS210C-BE(チェーンソー、燃料1/4消費) 鉄パイプ、インカム子機
[行動方針]:五人で引き続き情報交換を行う、高野達と共に接近する人物に対処。高野に通信機能を伝え、沢近と連絡する。
荷物を整理する。分校跡に向かう、砺波を救い、烏丸を……
[備考]:反主催の意志は固いようです。烏丸が大塚を殺したと認識。盗聴器に気付いています。
【一条かれん】
【現在地:E-03南部】
[状態]:肉体的な疲労は回復中。メンタル面に特にダメージ
[道具]:ショットガン(スパス15)/弾数:5発、支給品一式(食料なし・水1)、東郷のメモ
[行動方針]:五人で引き続き情報交換を行う、接近する人物が気になる、神社で見た死体について聞きたい、一人でも多くの人を助ける事を……(?)
[備考]:自分は嵯峨野を見て逃げ出したのでは……と疑い中。たまに悪魔の囁き。人を殺した烏丸と西本に思うところ有り?。盗聴器に気付いています。
【高野晶】
【現在位置:E-03南部】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式(食料2)、ドラグノフ狙撃銃/弾数10発、薙刀、シグ・ザウエルP226(AT拳銃/残弾15発)、薙刀の鞘袋(蛇入り)
雑誌(ヤングジンガマ)、ブラックジャック(岡の靴下でつくられた鈍器。臭い)
[行動方針] :五人で引き続き情報交換を行う、接近する人物が烏丸の場合は迎撃する。雪野、岡、西本、一条を使えるなら利用し、その後殺す。
花井を最後の敵だと認識している。パソコンに強い興味。
[最終方針] :ゲームに乗る。全員を殺し、全てを忘れない。パーティー潜伏型。
【雪野美奈】
【現在位置:E-03南部】
[状態]:少し疲労。大塚の仇を討ち、砺波を助けたい。晶に依存気味
[道具]:支給品一式(食料1)、工具セット(バール、木槌、他数種類の基本的な工具あり)
雑誌(週刊少年ジンガマ)、ブラックジャック(岡の靴下でつくられた鈍器。脳震盪と嗅覚破壊のダブルパンチ)
[行動方針] :五人で引き続き情報交換を行う。高野達と共に接近する人物に対処。高野の為に動き、行動をともにする。順子を助ける。
【岡樺樹】
【現在位置:E-03南部】
[状態]:健康(打撲傷は回復)、裸足にローファーの石田ファッション、烏丸に怒り
[道具]:支給品一式(食料0、水2)、鎖鎌、雑誌(怪楽天)
[行動方針] :五人で引き続き情報交換を行う、高野達と共に接近する人物に対処、「高野の心の支えになるのは俺だっ!」と素敵な勘違い中。
雪野も守りたい。(下心満載) 順子を助ける。(下心満載) とりあえず現実と向き合う。
※リアカーは西本達からは離れた位置に移動させてました。支給品×2と雑貨品(スコップ、バケツ、その他使えそうな物)はリアカーに積み直しました。
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