策略は続き続ける
ムツと呼ばれる男は頭を抱えていた。
茂みの向こうで繰り広げられている、あまりにも喜劇じみた光景に。
「うわああああっ!だ、誰か、助けてぇーッ!」
「待てー!大人しく立ち止まって死になさーい!」
息を切らせて走る青年に、銀の刃が幾度も迫る。
本人たちは必死なのだろうが、どこかふざけた印象を拭えない。
それは剣を振り回している少女のセリフのせいか、ぐるぐると同じ場所を回っている青年のせいか。
状況だけを見れば助けに入るべきなのだが、さすがに躊躇いと頭痛を覚えてしまう。
「ユフィちゃんの魅力にメロメロにならない奴は一行で死ねばいい!」
「無茶言うな!一行って時間の単位じゃないだろ!」
「不可能を可能にする…それでこそユフィちゃん」
「知るかぁッ!」
三流芸人のコントを続ける二人の距離が、段々と縮まっていく。
切羽詰った状況に焦燥感を覚えてしまったのか、相手のペースに正常な思考を失ったのか。
青年はあまりにも唐突な行動に出た。
「わ、わかった、俺の武器はくれてやる!だからいい加減に見逃してくれよ!」
そう叫んで、手に持ったデリンジャーを放り投げてしまったのだ。
(バカ…!)と、ムツは思わず心の中で怒鳴る。
相手は厨房かもしれないが、ゲームに乗ったマーダーだ。
そんな相手を前に貴重な武器を手放すなど自殺行為以外の何者でもない。
「わかればいいのよ」
少女はにっこりと微笑みながら落ちた銃を拾い上げる。
愚かにも胸を撫で下ろす青年に、鉄筒の先は素早く向けられた。
青年の間抜けな表情。少女の微笑み。
「待て!」
凶行を止めようとムツが駆け出す。
同時に、ズガンという銃声が木の葉を震わせる――
「…な、んで……」
少女は呟き、崩れ落ちた。
吹き飛んだ右手と、鉄片が食い込んだ右胸から鮮血が噴き出し、立ち竦む青年の顔に跳ねる。
拳銃の暴発。
ムツがその事実を理解するまでに数秒を要した。
少女が動かなくなるまでには、数分しか要さなかった。
「なんなんですか……俺、こんなの嫌ですよぉ…」
赤い色彩を前に、青年は顔を覆い隠し、泣き崩れる。
「俺、確かにFFDQで作品書いてますよ。
ロワを盛り上げるために、サイトだのFlashだの色々なことやってますよ。
でも、それは皆で楽しむためなんです。こんな、殺し合いなんて……」
「俺だってそうさ」
ムツは青年の肩を叩いた。
「そりゃあ、読み手を恐怖のどん底に落とすようなやんちゃな話も書いてきたけどな。
ロワ作家だからといって、本気で殺し合いをしたいわけがないだろ?
俺だけじゃない。Flash氏(まとめ(実はラジオ)や他の連中だって同じことを考えてるさ」
「ムツさん…」
「アケとFFDQ、古参ロワの意地を見せてやろうぜ。
元の世界に帰って…俺が釣った魚を全員に振る舞ってやるんだ」
ダンディに笑うムツに、青年はようやく破顔した。
「お腹壊すのは勘弁してほしいですよ」
「ハハハ、こやつめ!」
「ハハハハ」
(ハハ…思ってたより間抜けだなぁ。
さすがアブラソコムツの特性知ってたのに食べて腹壊した人。
…俺にとっては好都合ってもんだけどな。
俺はロワ作家であると同時にまとめサイトの作成者だ。
参加者リストを書くために、現実の銃器についても色々調べてるのさ。
デリンジャーは有効射程も命中制度も無ければ装弾数も二発という、至近距離専用の護身銃だ。
あんなもん持ってたって使い所が限られすぎてんだよ。
だから銃口に泥の砂だのをギチギチに詰めておいたんだ。
そうすればさっきみたいな『不慮の事故』を起こす道具になるからな。
まさかユフィ厨相手に使うことになるとは思わなかったけど…
ま、予想以上の大物を釣れたからいいさ。
当分はこの人を利用して、脱出派を演じながら他の人達の動向を探る。
特にアケのまとめ(実はラジオ)さんは早めに抑えておきたいな…
エドさんやSRS氏と連携して、ウル組並みのパーティを作られたら大変だ。
ムツさん。あんたに言ったこと、本当だぜ。
俺はロワを盛り上げたいし皆で楽しみたいんだ。
無粋な連中に邪魔されたくない気持ち…ロワを愛する者なら理解してくれるよな?)
【ムツ@アケ】
【状態】健康
【荷物】荷物一式、支給品不明
【思考】アケの知り合いを探したい、ゲームを脱出
【現まとめ@FFDQ】
【状態】健康
【荷物】荷物一式、ロングソード
【思考】ロワを完遂する。当分はステルスで様子見。
【一日目/1:20/D2】
【ユフィのあれ@DQN 死亡】
【残り25人】
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