無題






「何それ、ジョーカーの勧誘って……そもそもあなたも参加者に含まれているんじゃないの!?」
参加者の一人である犬は男の言葉に驚いた。もっとも相手は参加者ではなかったが。
「駄目だからこうして主催スタッフやってるんじゃないでござるか、参加してたら真吾の格好でチェーンソー振り回しながら暴れてる所でござる」
「ば、馬鹿言わないでよ、それ真っ先に死ぬパターンじゃない」
男の話によれば、本来犬は参加されない予定だったが何かの手違いで参加されたらしい。
ちょっとそれじゃかわいそうだし、ロワに付き物のジョーカー役やらせてやれば?という感じで勧誘に来たそうだ。
「それじゃあまずは参加者の状況あげるから、適当に眼をつけて取り入ろうか。まずは知り合いのアケから〜♪」
「……ちょっ、勝手に決めないで! それよりこんなことやめようって思わないの!?」
犬の言葉を無視して男は手に持った機械で愉しそうに説明を始める。
「うーん、ムツ殿はD2に居るけど一緒に居る奴が信用ならないか、リコリス殿は結構近いな、あーでもやる気になってるみたいだよ? それとまとめは……」
一呼吸置いて、男は割れそうなほど喰いしばった歯の間から押し出すように言葉を続けた。
「チッ、もう仲間作ってやがる……早く死ねばいいのになぁ……」
「あなたは、あなたは何を言っているのよ! 謝れ! アケまとめさんに謝れ!」
「ヤだ、えーとニーギスキー殿は……」
さらっと流して続けようとする男に抗議しようとした犬は、彼の服にあちこちにドス黒い染みがついてるのに気づいた。
「まさか、その血は……」
「ああコレ? 貴重な参加者だったんだけど、セイバーより桜がいいって言ったら少し揉めちゃってね」
明日の天気でも話すかのように出た男に、犬はきつく相手を見据える。
(この男は、私やアケ作家を含めて、誰が死のうと生きようと、関係ない……)
「なんて……なんて下劣で、最低最悪な人なの!? あなたにロワ作家を名乗る資格は無いっ!」

バァンッ!

確実にヒットするかと思えた犬の銃弾は、相手の胸を文字通り突き抜けた。だが突き抜けた所が歪み後ろの背景が見えるだけである。
(立体映像……? 本人は別の所にっ!)
「がっかりでござるなあ、ホント……まあいいや、やらないなら勝手にすれば? バイバイ」
大げさに溜息をついたポーズを取った男は、ブゥンという音をたててそのまま消えた。
どうしようもなくなり拳を震わせながら犬はその場に立ち尽くした。
「……犬さん、ですか?」
色々と考えて移動しようとした時、背後から女性の声がした。
「彼岸花さん……?」
犬は振り返って彼岸花を見た途端、ある言葉を思い出した。
『リコリス殿は結構近いな、あーでもやる気になってるみたいだよ?』
彼岸花をじっと見つめながら一歩ずつ後ずさりする。そんな犬を見て近づく彼岸花。その手は後ろに置かれて見えない。
「い、犬さ……「動かないで!」
彼岸花はその叫び声に驚くとともに、向けられた銃口に立ちすくんだ。
「その手に持った物を捨ててこっちへ来なさい! 騙そうとしようなんて考えない方が身のためよ! 」
犬は必死になって言った。殺意を持っているかもしれない彼岸花がとにかく怖かったのだ。
殺そうとするなら、殺さなければいけない。自分のためにも、他の作家の人達のためにも
「違います! これは鉛筆です! こんなもので人なんか殺せませんよ!」
「…………えんぴ…?…」
泣きそうな顔で鉛筆を見せて答える彼岸花の言葉に、犬はあっけにとられるしかなかった。
こんなもので人など殺せない、つまりあの言葉は自分と彼岸花を同士討ちさせようとするためか、謀ったなシャア!
そう思った犬は溜息をつき、申し訳無さそうに口を開く。
「ごめんなさい、彼岸花さん。私もう少しd

ズビュぅッ!

あまりにも一瞬の出来事だったので、犬は何が起こったのか理解する時間もなく崩れ落ちた。
最初は何事かと思ったが、突如自らの左眼に異常としか言いようの無いほどのとんでもない激痛を感じた。
今まで正常に見えていた視界が、まるでカメラの焦点がズレたかのようにだんだんとぼやけていく。

  「私は、私は悪くない……悪いのは、犬さんだから」
「…が、あ、いた、ぬけ、ぬいて……」
「やっぱり本当だった……あの人の言う通りだったんだ……!」
「……ぬけ……ぬけな、ぬけな、ぃっひ、いっいっいっいっ……」
足元で倒れもがく犬の言葉など何一つ耳に入らずに、彼岸花は先程の主催者からの使者の言葉を思い出した。
『実は拙者元々ロワ小説なんて大嫌いでね『アケで作品を書いていたのも仲良くしていたのも全部芝居で『画面の向こうじゃどんな顔しようが判らないし
『その内理解できると思ったけどやはり駄目だった『修正が必要なんだ『君は憎くないのか?『大事なキャラを他人に殺されて
そんな死に方を望んで書いたわけじゃないって思ったり『リコリス殿は構成が被る程俺と似てるから『君だけは助けたい、でござる

そして今ひとつ答えを出せない彼女にこう教えてくれた。
犬殿がこっちへ向かっている、彼女はやる気だ、とりあえずそれを隠し持って、相手が武器を出したら……
「…あ…あっ…ちが、ちっが……」
彼岸花は犬に刺さった鉛筆に軽く片足を置いた。足に力が入っていき、ぐぶぐぶと鉛筆が埋ってゆく。
今の自分を先程の男は菓子でも食いながらどこからか見てるのだろうか。
そう思いながら犬が見上げた彼岸花の瞳には毒の色が広がっていた。


「いぎゃああああああああああぁぁぁぁぁっ! ぎぃぎっぎっぎっぃい゛い゛い゛い゛っっ!!!」
ポテトチップスとが散らばった床にのた打ち回り男を首をぶんぶん振り回した。
『自分だけは安全圏だと思っていましたか? 本当に愚か者ですね、参加する権利もありませんよ』
光線で溶かされた右耳を一瞥し、声の主は言葉を続ける。
『良いニュースです、君のお望み通り彼女はジョーカーになってくれるそうですよ。おめでとうございます』
男は叫ぶだけで何も答えない、ただ画面に映った犬の死体しか見えていない。
『少々悪ふざけが過ぎたがそれなりに貢献してくれたのでね、私も鬼ではないので殺しはしません』

『特別にACBRからの参加者が死ぬ度に身体の一部を溶かす程度で許しましょう、左脚、右腕、左眼、最終的には性器にしましょうか』

後日、都内のゴミ捨て場で男の死体が発見されるがこれはまた別の話なので省略。

【彼岸花/B4/一日目2:00】
【荷物】 デザートイーグル(犬から入手)
【状態】健康
【思考】1:ジョーカーを引き受ける
【犬 死亡】

【犬@アケ 死亡】
【残り24人】




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