無題






「異教徒なれば、このような状況でなくとも我が敵!!」
鬱蒼とした森の中。
一人の大柄な男が、剣の切先を目の前にいる男に向けていた。
対して向かい合う男は、その刃を眉間に突きつけられても眉一つ動かさずに肩をすくめていた。
剣を持った男は一見して中世の王族とわかる衣服を身に纏い、一方突きつけられているほうの男は中東を思わせる異郷風の装束を身に着けていた。
「愚かなる王よ。今は国や信じる神などに関わらず、生きて変えるために手を取り合うべきではないか」
「ならぬ!! 私は全てのキリスト教徒を守るのが使命なのだ!! 異教徒と手を組むことなど、私には許されない!!」
一切の妥協を認めない強い意志の元、王は「敵」に告げる。
(やれやれ、なぜリチャード獅子心王といい、キリスト教徒には頭の固い男が多いのか)
しかしその偉容に満ちた声を浴びせられても、対面する男には微塵も気圧された様子は無い。
それどころか、ますます呆れたような表情を浮かべると静かに指摘した。
「しかし、そんなもので私の命をどう奪うというのですか?」
そう、王が男に突きつけていたものは、どう見てもまともな剣ではなかった。
少々奇妙な形をしてはいるが、粗末な作りになっているらしきことは一見してわかった。
何より、それに殺傷能力が無いことはその形状を見れば明らかだった。
剣先が丸い剣など、人を刺すことも斬ることも出来るわけがない。
「ぬ……それは……それはだなあ……」
当然、そんなことには最初から気がついていた王は反論する言葉を持たず口ごもる。
「し、しかし、たとえそうであっても我は異教徒を滅せねばならぬのだ!!」
そう叫ぶと、やけになったようにその「剣」を振り上げて男へと殴りかかろうと―――

「うわあああああん!! お父様あああああ!! お母様ああああ!!」

二人の男は同時に動きを止めて振りむく。
流れるような金髪に青色の瞳、そして生まれの上流さをうかがわせる華美な衣装を身に着けた、年の頃十にも届くかどうかといった身なりの少女が、泣き叫びながら木々の間を駆けていった。
「おのれ、あんな子供まで!!」
剣を突きつけられていたほうの男は、慌ててその後を追おうとする。
「待て!! まだ我は貴様を見逃すわけには……」
「そなたも王であろう!! 王たるものが、些細な自分の争いなどにかまけて、幼き子供を見捨てるというのか!!」
「ぬ……それは……」
王は再び口ごもる。
「あのように叫びながら走り回っていて、もし殺人者にでも見つかったらどうする?
それとも、そなたの国では弱い子供などは見捨てるというのか?」
「……なにも、そこまで言わずともよかろう!!」
王は渋々といった様子で剣を下げた。
「あの子供を保護するまで、ほんの一時だけ貴様を見逃すことにしよう」
「そう言っている時間が勿体無いとは思わぬのか?」
二人は先を争うようにして、少女の後を追って走り始めた。

【一日目・午前二時/森の中】

【カール大帝】
[状態]健康
[装備]おもちゃの剣
[道具]支給品一式
[思考]
1:少女を保護する
2:無駄な殺人はしないが、異教徒には容赦しない
※戴冠した直後からの参戦です

【サラディン】
[状態]健康
[装備]不明
[道具]支給品一式
[思考]
1:少女を保護する
2:協力者を集め、ここから脱出する
※第三回十字軍との交戦中の時期からの参戦です

【エリザベス一世】
[状態]健康
[装備]不明
[道具]支給品一式
[思考]
1:パニック状態
※八歳の時点での参戦です



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