無題
「嫌……お父様……お母様……!」
小さな体躯でありながら、目前の恐怖から逃げ惑った少女はとうとう追い詰められてしまった。小さく首を振りなが
ら今は傍に居ない父親と母親に助けを求めるが、醜悪な笑みを浮かべながら、悠然と歩み寄って来る男にとって、それ
は最高の美酒に他ならなかった。最早逃げる手立ては無い。未だ幼くとも、逃れようもないその現実に彼女は気付かず
には居られなかった。自分は死ぬ、ただその事実ばかりが少女を追い詰める。男はそれを、何よりの楽しみにしていた。
「もう逃げる力も残ってはいまい。大人しく……いや、暴れた方が趣がある。さあ、悪漢に襲われる気持ちと云うのは
どのようなものだ? 高貴な身分であった頃には想像もしなかっただろう。それだからお前の悲鳴は心地良い」
一歩、三歩と男は近付く。片方の手に握られた、鋭利な刃物がそれに呼応してぎらりと煌めく。刀よりは短い脇差は、
その男が握る事によってその恐ろしさを増加させたようであった。幼い少女には充分過ぎる恐怖――自分の持ち得る力
の全てを逃げる為に費やして、助けを呼ぶ為に費やした少女は最早一寸たりとも走れない。
少女にはもう生きる手立てが無かった。背後には慄然するほどの空虚が広がっている。足の踵に合わせるようにして
途切れた大地から先は、青い海を映すばかりである。少女が横目に背後を見遣り、断崖の下を眺め通してみても、眼下
には鋭い角が切り立った岩が点在しており、到底落ちて助かる場所ではなかった。それらの絶望的な要素が、少女に未
来を悟らせる。――ああ、私はこの男に辱められて殺されるのだ。
「おと……っさま……おかあさま……っ」
少女は、紺碧の双眸に涙を溜めて、首を振る。理不尽な現実を否定するかのように、止めてと男に懇願するように。
だが、それを見ても男は微塵も同情する素振りなど見せなかった。ただ、唇に象られた悪意の歪曲を、少女に見せ付け
るように更に曲げる。既に、男は手を伸ばせば少女に触れられる位置に居る。既に、男は脇差を振れば少女を殺せる位
置に居る。絶対絶命の四面楚歌。少女は祈る事さえ出来なかった。
「お前の怯える顔は極上だ。今まで歯牙に掛けてきたどんな者よりも美しい。お前はじっくりと愛でてから、殺してや
ろう。せめて顔に傷を付けるような真似はせぬ。心臓を一突きにして、僅かな時を数えて死ぬが良い」
男はそう云って、にやりと笑うと脇差で少女の服を器用に切り裂いた。純白のドレスが無残に裂かれ、少女の身体が
露わになる。それでも彼女は王の娘である。無意識の内に、或いは能動的に、自らの肢体を出来得る限りこの男に見せ
まいと腕を用いて身体を覆う。座り込み、背後の断崖の恐怖にも負けずに身を縮める。それが少女の、僅かでありなが
ら最大の抵抗であった。
だが、それが一層男の嗜虐心を煽ってしまった。男はこの娘にまず痛みを与えてやろうと思い立った。そうして、そ
れが思い立った時には脇差の切先を少女に向かって伸ばしていた。男にとって、その切先が少女に触れるまでの時間は
至福の時であった。下から自分を覗き込む、恐怖の一色に彩られた瞳はどんなに輝かしい宝石よりも価値があるように
思えて来る。男は故意に、緩慢な動作で切先を伸ばしていた。
――悪意と殺意の塊が少女に近付く。それが一寸先に進めば、その度に少女がしゃくりを上げる。やがて、今少女の
柔肌に脇差が触れようとした瞬間、突然何かが男の頬を掠めた。男にとって、自らの頬髭を何かが掠めて行った感触は、
この島に敷かれた規則の所為で幾倍もの恐怖を感じさせた。咄嗟に危険を感じた男は、少女に伸ばしていた脇差を引き、
背後を振り返る。――果たして、そこには何かを投擲した様子を見せる男と、弓の弦に矢を軋ませている二人の男の姿
があった。
【チンギス・ハーン】
[状態]健康
[装備]脇差
[道具]支給品一式
[思考]
1.ロリータコンプレックス(鬼畜)
2.自分が生き残る事が最優先。
金を征服した後からの参戦。
【カール大帝】
[状態]健康
[装備]おもちゃの剣(投擲の為損失)
[道具]支給品一式
[思考]
1:少女を保護する
2:無駄な殺人はしないが、異教徒には容赦しない
【サラディン】
[状態]健康
[装備]弓矢セット
[道具]支給品一式
[思考]
1:少女を保護する
2:協力者を集め、ここから脱出する
【エリザベス一世】
[状態]健康(恐怖・困惑)
[装備]不明
[道具]支給品一式
[思考]
1:もう無理ぽ的な。
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