無題
二人の男が夜の闇に対峙していた。
この殺し合いの舞台では相手がどのような行動を取るのか分からない。
ゆえに二人は十分に距離をとって互いを観察しあっていた。
やがて、このままでは埒が明かないと思ったのか、片方の男がゆっくりと口を開いた。
「私はクリストファー・コロンブス。冒険家だ」
「なるほど。私はジョージ・ワシントン。君が辿り着いた新大陸で国を拓いた」
コロンブスはワシントンの説明に眉をひそめた。
「新大陸? 私が辿り着いたのはアジアだ」
「それは君の勘違いだったんだ。君が辿り着いたのは確かに……おい! 何をしている!」
ワシントンが話を止めたのは、コロンブスが支給品のサーベルを抜いたから。
そしてそれをワシントンに向けて振りかざし始めたからだ。
「うるさい! 貴様、私の大発見を愚弄する気か!」
「何を言うか。君が開拓した航路は確かに後の世界に重要な影響を及ぼしている」
「黙れ! 私は世界が丸いことを証明した! だから私が辿り着いたのが新大陸などであってはいけない!」
顔を真っ赤にし、我を忘れてサーベルを振り回すコロンブス。
ワシントンは半ば呆れ顔でつぶやいた。
「やれやれ、こんなだからアメリゴ・ベスプッチに新大陸の名を取られるんだ……」
錯乱気味のコロンブスとは対照的に、冷静に対処するワシントン。
彼は懐から支給された武器の拳銃を取り出し、性格に狙いを定めて引き金を……引いた。
「ぐっ……」
右肩から鮮血が流れる。
コロンブスはたまらず膝をついた。
「少し頭を冷やすがいい」
ワシントンはまた懐に銃をしまい、夜の闇に消えていく。
「私は行かなければならない。自由を取り戻すために」
それだけを言い残して。
残されたコロンブスは考える。
本当にワシントンは新大陸から来たのか?
自分は間違っていたのか?
ここには世界中の人間が時代を超えて集められているという。
自分より後の時代の者からもっと話を聞こう。
そして、自分が世界に遺したものが何だったのか、真実を知りたいと願う。
【ジョージ・ワシントン】
[状態] 健康
[装備] リンカーン暗殺の銃
[道具] 基本支給品一式
[思考] ヒトラーを倒し自由を取り戻す
【クリストファー・コロンブス】
[状態] 肩から出血
[装備] サーベル
[道具] 基本支給品一式
[思考] 自分の航海について真実を知りたい
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