走れ、ネルソン
ネルソンは激しく怒っていた。
かの暴虐な独裁者――アドルフ・ヒトラーを打ち倒さずにはいられなかった。
ヒトラーが気違い染みたゲーム、バトルロイヤルを主催しているからではない。
ヒトラーが狂人である事は彼も心得ている。かの男ならやりかねない、とネルソンは考えている。
何故ヒトラーが生きているのか? という疑問がないわけでもないが、ナチスに関わるオカルト的な噂は枚挙に暇がない。
例えば、ラスト・バタリオンなどと言うものはナチス・ドイツという狂気の集団の産物として、様々な創作物の題材として重宝されている。
故に、そんな事はネルソンにとって些細な事に過ぎない。
問題は、ヒトラーが人種差別主義者である事だ。
ヒトラー及びナチス・ドイツが行ってきた人種差別は、ネルソンにとって看過する事は出来ないのだ。
ネルソンには温厚な政治家としてのイメージが強いが、人種差別と戦った闘士でもあるのだ。
ヒトラー対する、人種差別に対する憤怒が眠らせていた闘士としての熱き血潮を呼び覚まし、静かなる闘志がさざ波となって湧き起こる。
肉体はマグマの様に熱くなるが、さめた闘志は氷のように冷たく鋭利になる。
「――まずは装備を確認しましょうか」
ネルソンは誰となく、それとなく呟き、支給されたデイパックを開けた。
食料、水、参加者の名簿、そして大きなブルーダイヤ。
武器の類いがない事に落胆するが、名簿に眼を通す。
「ほう、これは」
名簿に記載されているのは名だたる偉人ではあったが、ネルソンはほくそ笑む。
ざっと見たところ、みなネルソンよりも過去の時代の人物ばかりである。
ネルソンの情報は他の参加者に漏れる事はないが、何人かの参加者の情報はネルソンは持っている。
情報はアドバンテージとなるのだ。
「おや? まさか……」
ネルソンは看過出来ない人物の名を見つけた。
「エイブラハム・リンカーン……奴隷解放の父か!」
リンカーンの名を見つけると先程見せた落胆の表情が明るくなった。
黒人として忌まわしきアパルトヘイトと戦ったネルソンは、アメリカにおいて奴隷を解放したリンカーンの存在は心強い。
夜空に浮かぶ月が、大きなブルーダイヤ――ホープのダイヤの光が、ネルソン・マンデラを照らしていた。
【ネルソン・マンデラ】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式 、ホープのダイヤ
[思考]
・バトルロイヤルとは関係無しにヒトラーを倒す。
・出来ればリンカーンと合流する。
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