遥かなる旅路






「狭い……狭い……狭い……狭い……」

ぶつぶつと、ぶつぶつと。
独り言を呟きながら殺し合いの地を歩き回る男が一人。
年は四十歳を過ぎた頃か。
肌の色からして東洋人だろう。
どう見ても英雄とは取れない凡人にしか見えない男が、何事かを病的なまでに繰り返し唱えている様は、
一種、異様な迫力を醸し出していた。
突如、悪趣味な殺人遊戯に巻き込まれ、気でも狂ってしまったのだろうか?
そうであるなら納得も同情もできるが、しかし、はっきり言って、進んで係わり合いになりたいと思う人物はいないだろう。
が、例外というのはいつの世にも居るもので。

「おい!!」
「へ? って、うわ!?」

突然の呼びかけに、己が手にしていたある物しか目に入っていなかった男は驚き、久しぶりに顔を上げる。
自分の世界に入り込んでいた男は気付いていなかったが、彼の目前には別の人間が聳え立っていた。
そう、聳え立って、だ。
何も話しかけてきた男の背が無茶苦茶高いというわけではない。
なのに、どうしたことだろう。
この上ない威圧感が、見知らぬ男の身からは感じられた。
鍛えられ、がっしりとした器も、その中身の前には到底霞むというもの。
そして、東洋人はやっと現状を認識する。
あろうことか眼前不注意だった自分は、男に対し正面から衝突していたということに。
そういえば頭が痛いと今更のように感じたが、それどころではない。
もしも腹を立てた男に襲いかかられでもしたら。
旅で鍛えた腕っ節が弱いとは思わないが、勝てる気は更々しなかった。
しくじった。
初対面の人間とも接しなれた自分らしからぬミスを嘆く。
後悔する間も与えず、日焼けした白人の男は、漸く冷静さを取り戻した男の手を強く掴む。
恐怖に黄色人種から青色人種にジョブチェンジ。
心の中でヒトラーに先ほどまで同様罵声を浴びせだす彼に、されど、いつまでたっても死は訪れはしなかった。
どころか。

「おお、お前もそう思うか! 全く、なってない、なんてなっていないのだ、あの男は!!
せっかくの未知の地だと言うのに、よりによってこのアレクサンダーをこんな狭い地に押し込めるとは!!」

なんか合意されちゃったりしている模様。
普通の人間なら戸惑うところだが、そこはそれ、1分前には見るからに危険人物だった東洋人。
ぱっと顔を綻ばせ、我が意を得たりとアレクサンドロスの手を握り返す。

「分かりますか!! そうです、そうですよ!! 気がつけば見知らぬ場所にいた……。
こんな奇怪で面白い体験はまたとないのに、連れて来られたのは巨獣が跋扈する地でも、黄金伝説が囁かれる地でもない島一つ!!
ご丁寧に地図まで用意してくれちゃって、これじゃ探索する楽しみも半減だ!!」

常識人なら面食らう程に熱く語り出す男。
仮にも王を前に無礼ともとれる行動だが、同士を得たとばかりに笑うアレクサンドロスも大きく頷く。

「全くよ! 運命とは自ら切り拓くもの。 地図もまたしかり!! 己が足で歩き、征服し、作りこんでいくからこそ遠征はおもしろいのだ。
大体なんだ、この首輪は。見てもちっとも分からぬ技術ばかり。このような興味深いものを作れるのなら、もっと堂々と余に見せてみるが良かろうに!!」
「名簿だって同様です!! ほら、過去の英雄ばかり!! その様子だとあなたはかのアレクサンドロス大王なんでしょ?
うわ、感激だなあ!! あなたの時代、あなたが旅した地のことを是非教えていただきたい!!」

そのハイテンションっぷりにすらーっと流される驚愕の事実。
未知の世界に足を踏み込みまくった経験故か、ちょっとやそっとじゃ驚かない――いや、むしろ驚愕すらも楽しんでしまう二人。
いつの間にか取り出した名簿を手に、談義は更に加熱する。

「ふっはっはっはっは!! そうかそうか、聞きたいか!! いいぞ、教えてやろう!! 
しかしその言い様、名簿に何人か過去の偉人の名が乗っていたからもしやと思ってはいたが……」
「聞いて驚いてください!! なんと、私はあなたの時代より千五百年以上も先の人間なのです!!」
「なんと、千五百年だと!? 信じられぬことだが、むむむ、それだと色々納得もできる。よもや未来にまで遠征することになろうとは!!
流石の余も思いもしなかったわ!!」
「私もです!! あなたほどの人と話をできるなんて、世界を周ったかってと並ぶ経験です!!」
「何、世界を? この我がついぞ為し得切れなかったことをそちが? 気に入ったぞ、男よ!! そういえば名は何と言う?」
「イブン、イブン・バットゥータと申します。とはいえ、実質には世界半周止まりもいいところでしょうが、ね」
「よいよい、そちが大物であるには変わりあるまい。しかし、ふむ、未来とな。
先ほど会場の外に出ようとしたら首輪から怪しげな声が聞こえたので悪魔か何かの仕業だと訝しんだのだがな」
「10秒の猶予をやろうと言ってましたね、あの声は」
「うむ。いくらなんでも全力疾走でも間に合わぬと退きはしたが、ええい、外には未知の世界が待っていように手をこまねくばかりとは!
何としてでも首輪は外さねば!」
「同感です! 我々の更なる冒険の為に!」
「いざゆかん!」

がしっと握手を交わす二人の男。
今ここに世界を駆け巡った二人が、新たなる舞台を踏破しようと行動を開始する。
目指すは未知なる新世界。
首輪の解除も、主催者の打倒も、単なる過程にしか過ぎない。
さてさて、彼らの行方はいかに?



【アレクサンドロス大王】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式 、不明支給品
[思考] 基本思考:未知なる世界を楽しむ
1まずは島の各所を見て回る
2島の外を探検したい
3上記の為に首輪解除
4未知の技術や文化を取り入れたい

【イブン・バットゥータ】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式 、不明支給品
[思考] 基本思考:未知なる世界を楽しむ
1まずは島の各所を見て回る
2島の外を探検したい
3未知の技術や文化を取り入れたい
4他の英雄たちからも冒険譚を聞きたい

「あ、言っておきますけど私、男色の気はありませんので」
「うぐぐ、残念だ」

あ、なんか普通に駄目かもしれない。ちゃんちゃん♪



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