自由の新たなる誕生を






今の自分はまるで奴隷のようだ、とエイブラハム・リンカーンは思った。
家畜のように首輪を嵌められ生殺与奪の権利を握られて。
挙句にこの究極の状況下ではまともな思考ですら封じられている。
―――こんなことがあっていいはずがない。
人間を家畜のように扱うなど。チェスの駒のように扱うなど。

ふと、体育館にいた人々を思い出してみる。
偉人ばかりということだが女性も子供も老人も、単なる一市民のようにしか見えない男もいた。
―――そんな人たちまで巻き込まれている。
リンカーンは遣る瀬無い思いを抱いた。
……もちろん勇猛な戦士や王族だからといって奴隷扱いされていいわけもないのだが、
なんとなく戦士や王族は己の力で道を勝手に切り開いていそうな気もして、
やはりリンカーンの関心は一般階級であろう人々へ向く。
―――闘わなければ。
リンカーンは拳を握る。
ヒトラーと闘って自由を彼らに与えなくては。……それこそが、リンカーンのすべきことのようだ。

一口にヒトラーと闘うといっても様々だ。
……武器をとるか?
これはリンカーン向きではないし他に向いていそうな人は沢山いた。彼らに任せるべきだろう。
……首輪を外して拘束力を弱めるか?
あいにくとリンカーンにそこまでの科学的知識はない。
かつて特許を取った装置もこの首輪を外す役には立たないだろう。
戦士には戦士の、学者には学者の、芸術家には芸術家の闘い方があるのだろうから、
リンカーンはリンカーンに相応しい闘いをすべきだ。
―――私は政治家だ。
ならば。
政治家には政治家の闘い方があるはずだ。


とりあえず態勢を整えるべく、ろくに確認していなかったデイバックを探っている時彼はそれを見つけた。
それと説明書を確認し、リンカーンは心の底から神に感謝した。
それは正に彼のためにあるといっても過言ではないくらい、とても相応しい『武器』だった。
―――全ての『人民』に『自由』を。
―――全ての『奴隷』に『解放』を。


エイブラハム・リンカーンは『武器』を握り締めて開けた場所を探すことにした。



【エイブラハム・リンカーン】
[状態]健康
[装備]拡声器
[道具]支給品一式
[思考]
1  人民の人民による人民のための自由をこの地上から絶やさない
2  1のために皆に呼び掛け、「演説」で皆の心を一つにする
3  1のために仲間を作る



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