バビリムの恋人たち






黄金に輝く鎧に身を包んだ青年と、質素な灰色の巫女装束をまとった少女が、
夜の海辺で互いに寄り添いあいながら、互いの境遇を語り合っていた。

「じゃあ、わたしはどうやっても石に変えられてしまうのね?
 ……でも構わない。こうやって、またあなたに会えたんだもの」
カイはギルの胸元に身をあずけ、その手を握り締めた。
巫女の衣装の襟元から覗く、銀色に輝く首輪が痛々しい。
しかしその首輪は、ギル自身にも嵌められているのだ。
カイの柔らかな体を抱き寄せ、長い黒髪を掻きあげようとした刹那、
ギルは背後から強い殺気を感じ、はっと身を引いた。

濃紺の鎧をまとった長身の男が、海辺の森から二人の様子を窺っていた。
飛竜をあしらった兜は側頭部が砕け、傷口からだらだらと流れる血が鎧を汚している。
左手に斧を握り締めたまま、飛竜の兜の男が二人に歩み寄る。
背後にカイを庇いながら、ギルは剣に手を掛けた。

突然、男が口を開いた。
「俺はバロン王国の竜騎士団長カイン・ハイウインド。
 ……お前は?」
「騎士? あなたも騎士なのか?」
ギルは、剣の柄に掛けていた手を放した。
「私はバビリムの王マードックの子、騎士ギルガメスだ。
 世界は違えども、騎士ならば私と想いは同じはずだ。
 自分の国や愛する者を守るために戦いに赴くなら、微塵も恐れはしない。
 ――しかし、無意味な殺し合いを強いられるのは御免だ」
カインが、ギルの陰で身をすくめているカイに目をやった。「その娘は?」
「彼女はイシターの巫女カイ。私の婚約者だ」
「そうか……ああ、俺だって他人の指図で動くつもりはない」
兜の下から覗く瞳が、ぎらりと凶悪な光を帯びた。
「だが、お前らは殺す」

カインの左手に握り締められた斧が、ギルの額目がけて振り下ろされた。


カインの一撃



カインの憎悪に満ちた一撃を、ギルは左手の盾で受け止めた。

慌てて後に飛びすさったカイが、竜騎士にフローティング・ディスクの呪文を放つ。
しかし光り輝く円盤が届いた時には、目標は既にそこにいなかった。
カインは人間離れした跳躍力で五メートルばかりの高さに飛び上がると、
そのまま全体重を斧に預け、ギルの上に落下した。
渾身の力を込めて叩きつけられた斧の一撃に、
咄嗟に両手で振りかざしたギルの盾が、悲鳴のような音を上げて軋んだ。
シールドの呪文が掛けられていなければ、盾ごと真っ二つにされていた。
ギルが剣を抜き放つと、肩に激痛が走った。今の衝撃で関節を痛めたらしい。
カインは手負いのギルに休む暇も与えずに、斧を振り下ろし続ける。

戦うギルを尻目に、突然カイがゆるやかなジャンプで戦場から逃げ出した。
女神イシターより授けられた「勇気を身軽さに変えるティアラ」の魔力を受けて、
ふわふわと浮かび上がるカイの姿は森の奥へ消えた。

「見捨てられたらしいな」カインはフッと鼻先で笑った。「死ね」

カインは斧を振り上げると、再び夜空に向かって天高く飛び上がった。
ギルに逃れる術はない。この世の全ての恋人達への憎悪と共に、斧を振り下ろす。
今まさにギルの頭蓋骨を叩き砕こうとした瞬間、斧の下からギルの姿がふっとかき消えた。
斧の刃はそのまま地面にしたたかに叩き付けられ、無数の刃こぼれを作った。

……コール・ギルの呪文だ。カインは空に向かって咆哮した。


【「ファイアンルファンタジー4」カイン 斧所持 生存(負傷)】
【「ドルアーガの塔」ギル 生存(負傷)】
【「カイの冒険」カイ 生存】



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