スレン王の進軍
「――わが軍隊は森の木々に、岩、そして空の鳥」
ピョートル大帝の言葉を引用すると、
スレン王は彼の魔力によってこの島の木や岩の姿から解き放たれた、
十人の騎士と十四人の兵卒からなる軍団を、頼もしげに見回した。
「不幸にもバサム帝国の暴君オゴレスを打ち倒す行軍の途中で、
我々はこの島で更なる辛苦困難に見舞われることになった。
……だが、恐れることはない!
我々の兵力は無限だ。いかなる敵が立ち向かおうとも、
諸君らが命を賭けて戦う限り、スレン王国の滅びることは決してあるまい!」
スレン王が勝利への確信に満ちた一歩を進めるにつれ、
二十四人の兵士達が一斉に歌いだす。
「すすめ すすめ ものども
じゃまな てきをけちらせ
めざせ てきの しろへ
オゴレス たおすのだ」
「隠密」
すぐ傍の岩陰からスレン王の行軍を観察しながら、ソリッド・スネークは思わず「アホか」と呟いていた。
指揮官の周囲を歩兵がわらわらと一塊になる近代戦の常識を無視した配置は、
最新の戦闘技術を学んだスネークの目には、まるで殺してくださいと言わんばかりに見えた。
しかし、烏合の衆とは言っても、支給された武器ではあれだけの人数を相手にするには心もとない。
だがスネークの見た限りでは、その軍団は指揮官らしき男の指示なしには、
まともな行動一つ取れないようなのだ。
あるいは、指揮官を一撃で屠ることが出来れば――。
スネークは、分校の校舎の裏で入手した段ボール箱に目をやった。
気配を殺しつつ、スレン王の行軍の先にある森へ移動する。
スレン王の最期
「すすめ すすめ ものども
じゃまな てきをけちらせ
めざせ てきの しろへ
オゴレス たおすのだ」
意気揚々と歌いながら、森の中を進軍しつつあるスレン王のすぐ目の前で、
大木の根元に落ちていた段ボール箱が突然跳ね除けられ、
その下からバンダナを巻き付けた男が現れた。
――不意打ちとは卑怯なり……。
スレン王は慌てて森の中に散っていた手勢を呼び集めようとしたが、
そもそもスレン王の兵団は単体の敵との戦闘を想定したものではない。
兵士達は木に引っ掛かり、味方同士でぶつかりあい、
すぐに駆け付けられる者は一人もいなかった。
非常に不本意な選択だったが、自ら戦うべく剣の柄に手を掛ける。
しかし幸か不幸か、スレン王がバンダナの男と剣を交える機会はなかった。
スレン王が剣を抜くよりも早く、バンダナの男のハンドガンが、スレン王の眉間を打ち抜いたのだ。
――ずるずると倒れこむスレン王の体を前にしてスネークが森の中を見回すと、
スレン王の魔力による庇護を失った兵士たちは、一人残らず元の木や岩に逆戻りしていた。
【「メタルギア」ソリッド・スネーク ベレッタM92/ダンボール所持 生存】
【「ボコスカウォーズ」スレン王 死亡】
【残り46名】
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