真向勝負!






「あんた、何やってんの!?」

声をかけてからアリーナは後悔した。
このまま後ろから殴りつければ一撃だったのだ。
が、その胴着に鉢巻の男の行動はあまりに異常だった。
いつどこから襲われるかわからないこの状況で、
彼は無防備に草原に立ち尽くしていたのである。

「相手を待っていた。強い相手を」
「待ってたって・・・後ろから撃たれるかもとか思わなかったわけ?」
「その時は避けられなかった自分が未熟だったということさ」
「うっひゃー!すごいこと言うんだ!?」
「不意打ちは性に合わないんだ。真っ向から闘いたい」

そういうと胴着の男――――リュウは構えた。

「なーるほど。どうやら似た者同士が出会ったみたいね」

アリーナはデイパックを下ろした。

「あたしもさ、小細工するより正面突破が好きな性質でね」

さらに、右手に付けていた鉄の爪を放り捨てる。

「それは外さなくてもいいんだが・・・」
「ホントはこっちの方が得意なんでね・・・オッケー、始めるよ!」


リュウ、不動



叫ぶと同時にアリーナが跳んだ。
空中から蹴りを連発する。
だが・・・驚いたことにリュウは動こうとしなかった。
次の瞬間、アリーナは派手に地面に叩きつけられていた。

「な・・・何、今の!?一瞬、姿が消えて・・・」
「まだ終わりじゃないはずだ。来い!」

リュウの構えは崩れていなかった。

「っしゃぁー!」

気合一閃、アリーナが突進する。
一気にラッシュをかける。だが、吹き飛んだのはアリーナだった。

「痛ー!なーるほど、そういうタイプなんだ・・・」

立ち上がったアリーナが構えなおす。

「攻めないよ」
「・・・」
「騙されたよ。あんた、カウンター狙いなんだ」
「・・・そうか。なら、こちらから行こう」
「・・・!?」

一瞬だった。目の前にリュウが現れたかと思うと、消えた。
いや、消えてはいなかった。今度は動きを捉えた。
大きくしゃがみ込み、一気に拳を突き上げる!
だが、見えていながらアリーナは避けられなかった。


奇妙な友情



「・・・う・・・嘘・・・何なの・・・これ・・・」
「呼吸を読むんだ。呼吸を読み取れば隙が見える」
「アハ・・・なーんか・・・ヤバイの敵に回しちゃったな・・・」

アリーナはもう動けたものではなかった。
根本的にレベルが違いすぎる。

「いいよ、殺りなよ」
「俺にそのつもりはない。君には大きな素質を感じる」
「・・・」
「いずれ、また会って欲しい。その時はもっと強くなっていて欲しい」
「・・・呆れるね」
「よく言われるよ」

二人は微笑みあった。奇妙な友情の生まれた瞬間だ。


引き戻される現実



パンッ。

乾いた音が余韻を引き裂いた。

「・・・え?」

ドサリ。リュウが倒れた。後頭部を撃たれていた。即死だ。

「・・・!」

アリーナは・・・不思議と、声を上げなかった。
何が何だかわからなかったからだ。
そして、今置かれている状況を思い出し、震え上がった。
敵がいる。かなりの強敵。だが、今はまだ動けないのだ。
ダメだ・・・諦め、目を閉じた。



―――――何分経ったのか。
アリーナは眼を開けた。大分月が傾いている。

「生きてる?」

どうやら、草むらに倒れているアリーナには気付かず
敵は立ち去ったらしい。
ふと、視線を傾け、アリーナは固まった。
頭のない、胴着の男の死体。爆弾で吹き飛ばされたのだ。
アリーナは起き上がり、自分のデイパックと鉄の爪を拾った。


信念に殉じた男



「あれは・・・」

もう一つのデイパック。胴着の男のものだ。
アリーナは開けてみた。

「・・・嘘・・・何で・・・こんなの持ってて素手でやろうなんて・・・」

中には立派なボウガンがあった。

「信念に生きたっていいけどさ・・・死んじゃダメじゃん・・・バカ・・・」

ボウガンを自分のデイパックに移すとアリーナは立ち上がった。
涙を拭いて歩き出す。

「仇は取るなんて言わないよ。二つも約束できないからさ・・・
そのかわり、絶対に強くなるから・・・あの世で期待してなよ・・・」

拭いても拭いても、涙は止まらなかった。

【「ドラゴンクエスト4」 アリーナ 鉄の爪、ボウガン所持 生存】
【「ストリートファイター」 リュウ 死亡】
【残り45人】




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