サムスの襲撃
「助けてくれ!」
耳をつんざく叫び声が、シレンを飛び上がらせた。
校舎の陰から、声のした方をこっそりと覗き込む。
ヘルメットにつなぎの作業服の男が、強化服に身を包んだハンターに追い詰められていた。
ハンターの右腕には、そのしなやかな体には不釣合いなサイコガンが装着され、
銃口から青白く輝くビームが、逃げ惑う男に向けて断続的に放たれている。
武装したハンターに比べて、ヘルメットの男の方はろくな武器も持っていないらしい。
ベルトに通したホルスターにはレーザー銃らしきものが差し込まれているが、
この期に及んで使おうともしないところを見ると、あれは武器ではないのだろう。
ヘルメットの男がビームに足を掠られ、地面に這いつくばって悲鳴を上げ続けた。
「やめろ……やめてくれ!」
――ここが殺し合いの場だということは分かっていても、
嬲り殺しにされる人間を見捨てておけるような薄情な性格ではなかった。
シレンは足元の雑草をむしり取り、空中のハンター目掛けて投げ付けた。
ほとんどダメージにはならなかったが、目論み通り相手の注意をそらせた。
恐るべき反応速度で攻撃の矛先を変えたハンターが、空中からサイコガンで打ち返してくる。
攻撃を避けようとしたシレンは足を滑らせ、
紙一重でかわしたビームが縞の道中合羽に丸い焼け焦げの跡を作った。
ハンターはクルクルと回転しながらシレンとヘルメットの男の間に着地すると、
まず最初に、シレンにサイコガンの銃口を向けた。
殺される。シレンは死を覚悟して目を閉じた。
ジャッという音と、激しい転落音。
シレンが目を開くと、ハンターが立っていた地面には大穴が穿たれ、
その向こうでヘルメットの男がレーザー銃を握り締めていた。
地面に激しく叩きつけられ、サムスは深さ三メートルばかりの穴の底に横たわっていた。
頭上には四角く切り取られた星空があり、その星空がどんどん小さくなっていく。
――頭を強く振って意識をはっきりさせると、一気に跳躍して穴の外に飛び出した。
そして、たった今まで自分が落ちていた穴の壁が生物のようにうごめき、
ただの平坦な地面に戻っていくのを、サムスは驚きの目で見守った。
少し離れた場所では、ヘルメットの男がレーザーを地面に向け、ひたすら穴を掘り続けていた。
さっきはあれを使って自分の足元に穴を作ったのだと、サムスは悟った。
サイコガンの照準を合わせるサムスの姿を見て、ヘルメットの男は慌てて自分が掘った穴に飛び込んだ。
サムスに草を投げつけた縞のマントの少年も、その後に続く。
駆け寄るサムスの目の前で、二人が逃げ込んだ穴すらもみるみる内に塞がっていく。
もはや自分が通れるだけのスペースがないのを見て取ると、
サムスは丸まり状態にモーフィングし、今まさに閉ざされようとする開口部から転がり込んだ。
夢中で穴を掘り進めているヘルメットの男の後ろで、縞のマントの少年が、
丸まりのまま猛烈な勢いで追い上げてくるサムスに気が付いた。
少年が懐から取り出した紙片に何やらさらさらと文字を書き込み、通路の途中に放り投げる。
構わずに紙片の手前まで転がった瞬間、見えない力場がサムスをはじき返した。
もう一度加速を付けて紙片の上を通ろうとする。やはり通れなかった。
聖域の巻物から発生する防御フィールドが、サムスの進入を阻んでいた。
細い通路では聖域の巻物を迂回するような余分な空間はない。
……しかし、後にも戻れない。さっき自分が通ってきた道は、もう塞がっているのだから。
今やサムスの周囲には、人間形態に戻るだけの空間さえ残されていなかった。
じわじわと迫り来る周囲の岩肌が、丸まり状態のサムスをがっちりと包み込む。
身動き一つできぬまま生き埋めにされ、サムスは絶望した。
【「メトロイド」サムス・アラン 死亡】
【残り47名】
闇の底で
「逃げのびた!」
野生のヒカリゴケに照らされた地底の大空洞に並んで転がり落ちると、
ヘルメットの男がシレンの脇で荒い息をついた。
シレンも息を弾ませながら、男の方を向いた。聞きたいことは山ほどあった。
「……ここは?」
「うん? ああ、島の地下にある洞窟らしいな」
ヘルメットの男は支給された地図を振りながら答えた。
「地図によると、南西に行けば地上につながる出口があるみたいだ。
地底に空洞があるらしい事はカンで掴んでたけど、危なかった。
……そういや、あいつはどうなった? あの、オレンジ色のやつ」
「聖域の巻物を通路に置いたからね、もう追ってこられない。
――きっと今頃は、この岩壁の向こうで生き埋めさ」
喋りながら男が自分の道中姿を珍しそうに眺め回しているのを見て、
シレンは自己紹介をするいい頃合だと思い付いた。
「ぼくはシレン。風来人のシレンさ。
コッパと一緒に黄金のコンドルを探す旅の途中に、
旅の神クロンのつむじ風に巻き込まれたのか、
ワナの神カカ・ルーのほくそ笑みにでも引っ掛かったのか、
気が付いたら、この島に一人きりで送り込まれてたんだ」
自己紹介を終えると、シレンは次の質問をぶつけてみた。
「それで、君は?」
「俺かい?」ヘルメットの男がにやっと笑って、シレンに向かって胸を張った。
「俺はロードランナー。この業界じゃちっとは知られた、金塊探しの穴掘り人さ」
【「風来のシレン」シレン
「ロードランナー」ロードランナー 合流】
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