こきゅうをとめるな、けんかをとめろ






島の南へ続く森の小道を、背中を丸めた小さな姿がとぼとぼと歩いていく。

オネットの不思議な少年、ネスだった。
グレオレマシーンは捨ててしまった。

曲がりくねった夜の山道を、もう一時間近くも歩きどおしだった。
歩き疲れて、そろそろ休もうかと思いながら道端に目をやったネスは、
草むらの中にプレゼントが置かれているのを見つけて、思わず目を疑った。
誕生日の贈り物のようにきちんとリボンを掛けられた白い箱に、
ワナではないかと用心しながら、慎重に拾い上げる。
周囲をきょろきょろと見回すと、ネスはプレゼントを持ったまま、
さっと山道の脇にある大木の裏側に回りこんだ。

プレゼントの箱には、カードが添えられてあった。

『ネス くんへ/プログラムしっこうほんぶ より』

間違いない、これは自分のために与えられたグッズなのだ。
ネスはプレゼントのリボンをほどき、紙箱の蓋に手を掛けた。

――突然暗闇から躍りだした人影が、ネスをうつ伏せに押し倒し、
後頭部に金属の筒のような物を押し付けた。

「……声を出すな、その箱の中身を渡せ」

ネスの視界が恐怖で赤く染まる。
「……声を出すな。その箱の中身を渡せ」
脅しつけながら、腕の下でもぞもぞと抵抗する体の感触にぎょっとなり、
スネークは思わず手をゆるめた。子供だった。

森の中を追跡していた時には、夜の暗さと視界の悪さで気が付かなかった。

動揺した隙をついて、ネスは身をくねらせて腕の下から這い出した。
そばに転がったバットを拾い上げ、スネークに無茶苦茶に殴りかかる。
子供に銃口を向けたショックから立ち直れず、スネークは判断に迷った。
ここは逃走するべきなのか?
いや、子供をこんな場所には放っておけない。
気絶させてでも安全な場所へ連れていったほうが――

銃をホルスターに収めて手刀を構えたスネークに、
ネスは恐怖の叫び声を上げながら手のひらを向けた。

「うわあああっ!」

ネスの手のひらを中心にして、周囲の景色がぐにゃりと歪んだ。

次の瞬間、スネークは猛烈な衝撃波を全身で受け止めた。
五メートルもの距離を弾き飛ばされ、背中を木に叩き付けられる。
辛うじて受け身を取ったが、一瞬息が止まった。

スネークが地面から立ち上がると、
赤い帽子の少年が森の奥へ一目散に逃げていくところだった。


「疑惑」



残された紙箱の中身を確認し、スネークは背筋が寒くなった。
中に入っていたのはプラスチック爆薬の包と信管だった。
……こんな物を子供に持たせて、何をさせるつもりだったのか? 狂ってる。

スネークの持っていたトランシーバーが、コールサインを発した。
反射的に周波数を合わせ、交信をつなぐ。
「……スネーク? わたしだ……わたしの声がわかるかね?」
トランシーバーの向こう側から響いてきたのは、
スネークの所属する不正規部隊フォックスハウンド、
その総司令官である、ビッグ・ボスの声だった。

「ビッグ・ボス! あなたなのか?」
さっきから感じ続けていた疑問を、思わずスネークはぶちまけた。
「一体、この島では何が起こってるんだ?
 この島に捕虜として潜入する任務のはずなのに、
 首輪を嵌められて、他の捕虜と殺し合いを強制されている。
 さっきから見掛けるのは、戦闘の素人ばかりだ。
 ……子供までいる」

「その子供相手に、今の失態はどう言い訳するつもりだ?」
ビッグ・ボスの声が、酷薄な調子を帯びた。
「この島のオペレーション・ルームから、様子を見せてもらっていた。
 ――お前には、失望させられた。
 スネーク、これは実戦なのだよ。訓練ではない」
なおも言いつのろうとするスネークに、ビッグ・ボスは一方的に宣告した。
「私から言う事は一つしかない――戦って、勝ち残れ――以上だ」

その言葉を最後に交信は打ち切られ、トランシーバーを片手に持ったスネークは、
呆然と森の中に取り残された。

【「メタルギア」ソリッド・スネーク ハンドガン/ダンボール/プラスチック爆弾所持 生存】
【「MOTHER2」ネス ボロのバット所持 生存】



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