カインの悪夢
デイパックの中身を調べるパックマンの無防備な頭に、斧が振り下ろされる。
果実を叩き割るような感触と共に、ひとたまりもなくパックマンの体は崩れ、
そのまま地面に溶け込むように消滅した。
役目を終えたヘルメットが、虚しく地面に転がる。
自分の思い掛けない行動に、カインは斧を取り落とし、両手を見下ろした。
俺は……一体?
(……それでいい)
「……誰だ!」
突然響いてきた声に、カインは思わず大声を上げた。
それが自分の頭の中にだけ響いてくる声であることには、気付かなかった。
(カインよ、どうした? この島に来た目的を忘れたわけではあるまい)
カインはその声に激しく抗おうとした。しかし、出来なかった。
頭が重く、思考がまとまらない。
何よりもその声に従うことが、今のカインにとっては何よりも正しいことであるように思える。
頭の中に響く声の主を、カインは思い出しつつあった。
「ゴル……ベーザ……様?」
(案ずることはない。お前はこの島にいる誰よりも強い。
自信を持って、今のようにすべての敵を殺せ。一人残らずだ。
そして勝ち残ってバロンへ帰れば、お前の望むものが手に入るだろう)
声の主の言う通りだ。
――もとよりカインは、そのためにこの島のゲームに参加したのだから――
生きて帰り、あの男の手から彼女を奪い取り、永遠に自分の物にするのだ。
冷静な気持ちで、パックマンに与えられていたはずのデイパックを漁った。
中に入っていたのは、鋭い切っ先を持つ強力な槍だった。
神槍グラディウス。
遠くアカネイアの地に伝わる、遠近自在の攻撃をこなす伝説の武具である。
竜騎士の自分にとって、これ以上ふさわしい武器はない。
新たな武器を身に付けると、カインは満たされた気持ちでその場を立ち去った。
地面に残されたヘルメットの脇では、
フェアリーが悲しげにふわふわと舞い続けていた。
【「ファイナルファンタジー4」カイン グラディウス所持 生存】
【「パックランド」パックマン(&フェアリー) 死亡】
【残り42名】
妖精と少年
――森の中を漂い続けるフェアリーの姿に、緑の服に緑の帽子の少年が足を止めた。
その傍に転がっている青いヘルメットを見て、少年は何が起こったのかを悟った。
「……お前のご主人、殺されてしまったんだね?」
フェアリーは頷くように、ゆらゆらと輝くその体を、闇の中で何度も上下させた。
「じゃあ、ぼくと一緒に行こう。――大丈夫、仇は討ってあげるよ」
少年はポケットを探ると、さっき道端で拾ったガラス瓶を取り出した。
少年の言葉に、フェアリーはしばらく迷うかのように宙を舞っていたが、
やがて心を決め、そのガラス瓶の中に飛び込んだ。
少年はフェアリーの入ったガラス瓶をそっとポケットに戻すと、
たった一つの武器であるブーメランに手をやりながら、夜の山道を下っていった。
【「ゼルダの伝説」リンク ブーメラン/フェアリー所持 生存】
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