無題






「な、何なんだっ、あいつは!」
夜中、突如襲撃を受けたマリオは、レディ、ビリーと一緒に畦道の
陰に身を隠した。一段、低い場所に身を隠した三人の頭上を、
時空を歪めるようなエネルギー波が貫いていく。
「反撃しろマリオ! あんなのに距離を詰められたら終わりだぞ!」
ビリーは焼夷弾、マリオはハンマー、そしてレディはハンドバック。
それぞれの武器を「敵」めがけて次々と投げつけるが……やはり、
武器の殺傷力が違い過ぎる。徐々に徐々に、「敵」は迫ってきた。
大砲のようなもの担いだ女性らしき人影が、迫ってくる。
「ビリー! お前、走るのには自信あるか?」
「? いや、俺はダッシュは得意じゃない。足技の破壊力なら
自信があるが……それがどうした?」
「俺は、本気で走れば少々の穴なら一気に駆け抜けられる」
ビリーはマリオの言わんとするところを理解した。だが、
「その能力は、『別のお前』だろう? お前は初代の、」
「同じ俺だ、やってやれないこともないさ。……レディを、頼む」
「マリオ……」
ビリーはしばし考えた後頷き、残りの焼夷弾をマリオに渡した。
「俺が昔話をした場所だ。あそこで会おう」
「ああ。……行け!」
ビリーがレディの手を引いて走り出した。すかさず、マリオが
「敵」めがけてハンマーと焼夷弾で反撃に出る。
どうにか、「敵」が二人を追跡することだけは阻めている。このまま
何とか……というところで、手持ちの武器が尽きた。
直後、「敵」の砲が閃いて一撃を放つ。必死に身をかわすマリオ。
その一瞬、マリオは「敵」の正体を見た。『銀河の三人』のミオだ。
「あ、あいつだったのか……」

マリオは戦慄したが、同時に希望も湧いてきた。ミオは元々、
実体のないイメージ映像。体を与えられたところで、そうそう
運動能力があるはずはない。
「よしっ!」
マリオは、意を決して畦道の陰から走り出した。ビリーとレディが
逃げたのとは逆の方角へ。ミオが狙いにくいよう、ジグザグに。

ミオはマリオの動きを見て、イカロス砲を肩から下ろした。
そしてディパックを開け、最初に自分の世界の主人公から
奪った武器を取り出し、両足に取り付けた。
「跳躍距離を、2に設定します」
瞬間、ミオの姿は掻き消えた。そしてマリオの目の前に出現した。
マリオが目を見張り、足を止める。
「な……!」
「跳躍完了。敵はマリオ、その数1」

「何で……何でなんだ、ミオ! 何でお前、こんなゲームに乗って
しまったんだ! 放送聞いただろう? お前の仲間たちだって、
死んでるんだぞ! 心が痛まないのかっ!?」
マリオは、声を枯らして説得した。だが、ミオは。
「私は元々、戦闘……否、戦争用に作られた擬似人格。殺すことが
使命であり本分。心など存在しません」
ミオが、イカロス砲を担ぎ上げてマリオに狙いを定めた。マリオは
動けない……と、そこに一人の戦士が飛び込んできた!
「はああっ!」
戦士は、長剣を振りかざしてミオに襲い掛かった。まるで居合いの
達人のように、剣の刃は抜いた一瞬しか見せない。かなりの速さだ。

ミオは戦士の攻撃を紙一重でかわして、イカロス砲を撃つ。が、
戦士はジャンプしてそれをかわすと、そのまま虚空を蹴ってもう一度
ジャンプし、ミオの照準を狂わせながら剣を垂直に、突き立てる
ように構えて急降下した。
その攻撃をミオは、イカロス砲で受け止め、弾き返した。バランスを
崩した戦士に、一撃を放つ!
「くっ!」
辛うじてかわした戦士は、勝機なしと見たかマリオの方に走ってきた。
「逃げるぞ! 今の俺たちではこいつに勝てない!」
有無を言わさず、戦士はマリオを抱きかかえ、崖から海へと飛び降りた。

ミオは二人が落ちていった海面に向けて、イカロス砲を構えた。
……が、撃たなかった。さすがに透視能力はない。
「燃料の無駄な消費は非効率」
そして、先程の戦いを思い出しながら……跳躍した。上空に、ミオが
姿を現す。そこからまた、跳躍した。小高い丘の上にミオが現れた。
「二段跳躍。新たな戦闘パターンを入手」

砂浜に、マリオと戦士が寝そべっている。何とか逃げ切れたらしい。
「ありがとう……どうして助けてくれたんだ?」
「あんたの叫びが、本気だったから。それだけさ」
戦士はゆっくりと体を起こした。
「あんたはマリオ、だろ? 俺の名はクロービス」
「助かったよ、クロービス。良かったら、俺たちと来ないか? 
一緒に脱出の手立てを探そう」
「いや。俺は一刻も早く、セリア姫を探さねばならない。最初の
教室で、姿を見たんだ。島のどこかで、俺を待っているはずなんだ」
「……そうか」
そういう事情であれば、引き止めることもできない。
「祈ってるよ。セリア姫に無事会えるように」
「ありがとう。あんたも気をつけろよ。ミオの他にも、放送で
言っていた要注意人物……カインとカービィには、特にな」
「ああ」
二人はしばらく休んだ後、そのまま砂浜で別れた。

【『ドンキーコング』 マリオ 生存】
【『ドンキーコング』 レディ 
『ダブルドラゴン』 ビリー・リー 生存】
【『ドラゴンバスター』 クロービス 生存】
【『銀河の三人』 ミオ 生存】



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