無題






何故朕がこんな所に? 朕を守る兵は何処に?
朕は王なるぞ。何故このような目に……
この場に不釣合いな冠を被った男は、ディパックに入っていた傘を小脇に抱き
途方にくれてとぼとぼと彷徨っていた。

ふと、頭上に影がさした。腰に風船をくくりつけ、ヘルメットを被った
異様な姿の男が、彼を抱きかかえるや否や大空高く舞い上がったのだ。
なにをするつもりだ! 風船の男の目に表情はない。いや、見えたのは
彼を殺そうとする意思。
「へ、ヘルプゥー、ヘルプゥー」
彼が城に居たころは、こう叫ぶとすぐさま衛兵達が駆けつけて彼を守ってくれた。
しかし、今は彼を守ってくれる存在などいなかった。彼は叫ぶだけの無力な存在だった。

いや、朕とてむざむざ死にはせぬ! 神よ、朕に加護を! 彼は持っていた傘を滅茶苦茶に振り回した。
風船男のヘルメットや腕に傘が当たる。そして、傘の先が風船男の風船に突き刺さった。
二人はもつれるように墜落していく。やがて彼は傘を開いた。急激に落下のスピードが減速していく。
驚愕の表情を浮かべ、減速できぬまま一人落ちていく風船男に、彼は皮肉たっぷりに言った。
「サンキュー」
風船男は眼下の川に落ち、しばらく浮いていたが突然現れた大魚に飲み込まれてしまった。
……よし、衛兵などいなくとも朕は生き残る!
今まで朕をお荷物扱いをしていた城の者共を見返してみせようぞ……
その時ボキリという音がした。風船男のヘルメットに当たった衝撃で
傘の柄が折れてしまっていたのだ。男の体は、再び加速をつけて大地へと落下し始めた。
おお神よ…… 大地が迫る、迫る、迫る……!

大地に叩きつけられた彼の肉体は破れ、全身の骨が折れていた。
わずかに開いた彼の口から、大量の赤い血が吐き出された。

朕も……ここまでか……
さらば、我が国民よ、家臣よ、そして最愛の后よ……
「……バイバーイ……」

【「バルーンファイト」 プレイヤー1 死亡】
【「キング&バルーン」 キング 死亡】




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