無題
「はあ……こ、ここまでくればきっと誰も襲ってこないよね」
少年は暗闇の中でひとりごちた。
ゲーム開始直後よりひたすら走り続け、何とか安全と思われるところに隠れることができた。
だが、ずっとここにいるわけにもいかないだろう。
自分の助けを待つお姫様がいる。
生き残るためには、相手を倒さなくっちゃならない。殺らなきゃ殺られるんだ!
……途中で目にした悲惨な惨殺劇が脳裏をよぎるが、彼はそれを心の奥底に封印する。
支給されたデイパックの中には、幸運な事に彼の得意武器が入っていた。
しかし、それは殺傷力には欠け、この島にいる誰とも知らない敵たちに通用するのかどうかすらあやしい。
「あぁ……せめてハンマーか、エクスカリバーがあればなあ。
でなきゃピンクのあいつが持ってたパラソルが欲しい所だけど、あいつ強そうだったし……」
ともかく、少し休もう。
念のため、もう少し奥に行っておこうかな。
重い腰を上げ、進みだした彼の視界に突然白い塊のようなものが現れた。
幽霊? お化け? ともかくそれは、風を切りうなり声を上げて襲い掛かってきた!
「!!」
せっかくたどり着いた、安息の地だと思っていたのに!
深く考えず奥へと飛び込んだそこも、彼の求める場ではなかったようだ。
急に明るさと熱さが顔を焼く。
あかあかと燃える炎、小さいとはいえ恐ろしい顔をした化け物、
ここで体力を消耗するわけには行かない!
慌てて元いた場所へと引き返す。
「こ、これからどうしよう……」
息を切らせ、滴る汗をぬぐいながら、考えをめぐらせる。
どんなに考えても、いい案はその片鱗すらも見えてはこなかった。
上手くイメージがまとまらず、半ば自棄となって立ち上がる。
戦場へ引き返す事と、何が起こるか判らないここでうずくまっている事、
そのどちらが彼にとって良策か、誰に決められたであろう。
一度覚えた恐怖は消し去ることができず、少年は地上を、ほんの少しでも明るいところを目指した。
暗闇の底から這い上がり、周りに誰もいないことを確認する。
「よし、何とかなるかもしれない……ピンクのあいつを探そう!」
駆け出した彼の頭上で突然雷鳴が轟いた。
「そんな……!!」
なすすべもなく、彼はいかずちに身を焼かれ倒れ伏す。
(そうか……水筒、持ってこなかったんだっけな……
こんなことなら、井戸から出るんじゃなかった)
後悔あとの祭り。薄れ行く意識の中、そんな格言を思い出したとか思い出さなかったとか。
そして彼は知らない、そのピンクの悪魔の武器は既に別のものになっていたことを。
【迷宮組曲ミロンの冒険 ミロン 死亡】
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