無題
デニム・パウエルは島の淵を、警戒しながら北上していた。
森の中では誰から奇襲を受けるか分からない。
常に見通しの言い場所に身を置くこと。彼が戦いの中で身につけたセオリーだった。
しかし……何時までもこうしていられるだろうか。
(姉さん……)
じりじりと焦りばかりが募ってくる。はぐれてしまった姉のカチュアは見つけ出さなければいけない。
島全体を見渡せるような高台があればと思って歩いているが、目の前にはただ空漠が広がるだけだった。
このままだといずれは森の中に入ることになる。深い森。広すぎる島。
(絶望しちゃ駄目だ。姉さんを見つけ出して、そして)
ぐっと、拳を握り締める。
(この争いを終わらせる。主人公同志が争うなんて、あってはならないんだ!)
呼びかければ分かってくれるはずだ。同じレゲー。前世紀のゲームの人間どうし、傷つけ合って
何になるというのか。この無益な争いを続ければ自分たちは故郷と、ヴァレリアと同じ運命をたどるだろう。
決意を新たに、緩やかな岩肌のスロープを登り終えると、目の前に信じられない光景が広がっていた。
「なっ……」
絶句。緑色の髪をした小さな生き物が、何匹も……何十匹も……あるいはそれ以上だろうか、
目の前を歩いていく。まっすぐに海風の吹いて来る方向……岸壁へと。
「まさかっ!」
いやな予感を感じて走り出す。彼らとの距離は10メートルほど。その間に、最初の1匹が、身を躍らせた。
ストンと、まるで冗談であるかのように、簡単に荒波打ちつける海に落下していく。続いて、2匹目も。
「やめるんだっ!」
両手を広げて制するも、彼らの目にはデニムのことなど移っていないようだ。ただひたすら、前進。
そして、ただ無為に海に落下していく。
まるで海へ落ちることがこの争いからの逃避であるかのように。逃れることが救いであるかのように。
「やめろー!!」
叫んでも、彼らの様子は変わらない。……暫くの時間を置いて、最後の一匹が、海に落ちた。
デニムはぺたんと座り込んだ。何も出来なかった自分が惨めだった。
(誰も死なせない。もう絶対に死なせるわけにはいかない)
無力感に囚われそうになる自分を奮い立たせ、デニムはまた歩き出した。
【「タクティクス・オウガ」 デニム・パウエル 移動中】
【「レミングス」 レミングス 全滅?】
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