無題
俺の肉体に恐れをなし、逃げ去っていくそいつの背に、
俺は容赦なく銃弾を叩き込んだ。これで何人目か、もう
憶えていない。敵を後ろから撃ち殺す、それは手馴れた仕事だ。
なにしろ俺の本職だから。
正直俺は、こんなゲームなど怖くもなんともない。ただ、どういう
仕組みなのか何度故意に爆発させても復活する首輪が鬱陶しい
から。ただそれだけだ。この俺が、誰かに殺されることなど
あり得ない。だから、怖いものなどありはしない。
そう。あのスペランカーが「最弱」で名を馳せた存在なら、
俺は「不死身」で名を轟かせた男だ。俺は誰に何をされようと、
決して死なない。俺を止められるのは、俺の世界の「ゲーム
オーバー」のみ。いや、それですら「俺の死に様」は描かない
のだ。俺は完全無欠、絶対不死身の……
「後ろにいる奴、出て来い。いるのは判ってるぞ」
背後の茂みから気配を感じて、俺は言った。後ろからの攻撃を
察知するのも俺の得意とするところだ。
「やる気なら、さっさとやれ。こっちはいつでもいいぜ。俺の不死身
ぶりを見てて、恐れをなしたってんならさっさと逃げな」
言いながら、俺はゆっくりと振り向いた。両手を挙げて、
さあやってみろと言わんばかりに。
と、茂みから黒い玉が飛んできた。どうやら爆弾らしい。ありふれた
武器だ。アクビが出る。
俺の胸が、爆弾を受け止めた。轟音、爆発。俺の体が粉々に
砕け散る。無数の肉片となって宙を舞う。
しかしそれらは、あっという間に集まって元通りにくっついていく。
蘇生していく。くどいようだが、俺は不死身なのだ。
その時。茂みから飛び出した老人が、何事か叫んだ。すると、
「な、なにっっ?」
俺の肉体が、蘇生を止めた。バラバラの肉片が、サラサラの
粉になって、動きを止めてしまったのだ。
「お前さんが、『誰にも殺すことのできない男』なのは知っておる」
茂みから出てきた老人が、言った。
「だがわしは、『どんな屈強な戦士も消し去る男』なんでな。
次の一撃で、お前さんはこの世から永遠に消え失せる」
老人が、トドメの一撃を俺に加えた。
俺は消滅間際、老人の呪文を聞いて、その正体を知った……
ささやき − えいしょう − いのり − ねんじろ!
【『ウィザードリィ』 カント寺院の坊主 生存】
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