無題






「北の端で待っている」彼のその手紙は、二人を確かに結びつけた。
二人は幸運にも他の誰とも会うことなく、北の端で合流できたのだ。
彼は島の東海岸線を辿って、彼女は西海岸線を辿って。何度か
行き過ぎ、すれ違ったりもしたが、今二人は北端の断崖で、肩を
寄せ合って座っている。
「もう、二人一緒には帰れないのね」
「……」
悲しみに沈む彼女を、彼はそっと抱きしめた。
一人しか助からないというルールでは、最愛の人すら殺す
しかない。だがそんなことなど、自分たちには絶対にできない。
生きるも死ぬも、絶対に二人一緒。その結びつきの強さでは、
このゲームの参加選手中、自分たちは一番だ。胸を張って言える。
そんな自分たちに、殺し合いなどできるはずはない。
「二人で帰ることはできなくても……最期まで、一緒だよ」
「……うん」
その時。二人の背後の茂みから、一人、出てきた。
制服姿の女子高生。その顔は殺気に満ち溢れて、というか人相
自体が「死・ぷれぜんと・ふぉー・ゆー」な顔をしている。
二人はその女子高生を一目見るなり、理解した。戦いは避けられない。
だが戦いたくはない。ならば。

「私、最期まであなたと一緒にいられて……良かった」
「ああ。……そうだね」
彼は、彼女を抱きしめて断崖から身を投げた。幸い、下は岩場だ。
間違いなく二人一緒に即死できるだろう。……と、思ったが。
なんと、彼女は彼の手を離れ、ぐんぐん空へと上昇していくではないか。
落下していく彼とは、全く対称的に。
「しまっ……!」
彼は自分の考えの浅さに気付いた瞬間……地面に激突し、死んだ。
彼女も時を同じくして、上空で息絶えた。

崖の上では、女子高生が泣いていた。
「あ、あたし……殺そうとなんてしていないのにっ!」
自らの容貌が招いた悲劇、ということに気付いているのかいないのか。
その女子高生は、可愛らしい二羽のペンギンたちの死に、涙した。

【『熱血硬派くにおくん』 みすず  生存】
【『バイナリィランド』 グリン マロン  死亡】



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