無題
日向忠(ひむかい ただし)は恨めしそうに、自分の抱きかかえて
いる丸い機械を見つめた。それは、彼の愛機GLORYに搭載
されていた妨害電波発生装置。携帯し易いよう、小型軽量化
してあるぞー♪ と添付説明書にあったが……武器にはならない。
「ミオになら、使えたと思うんだけどな」
ぽつり、と呟いてみるがそのミオはもういない。
と、その時。彼方から、土ぼこりを上げて何かが駆けてきた。
じたばたと両手を振り回して、走ってくる。というか暴走している。
背丈は忠の膝下ぐらい。どうやらロボットらしいが、
「おにぎりおにぎりおにぎりおにぎり!」
マスコット然として、丸っこいロボットだ。忠の周りを走り回っている。
「おにぎりおにぎりおにぎりおにぎり!」
「……なんか、こいつのせいで暴走してるみたいだな」
とりあえず忠は、装置のスイッチを切ってみた。すると、
「あ、あれ? ぼくは……何だか、急に気分が悪くなって……」
「俺が助けてやったんだ」
忠が、ふんぞり返って言った。ロボットは少し怯えながら、
「あ、ありがとうございます。ぼくはキャリーどぇす」
「俺は日向忠。聞かなくても解るが、お前はロボットだな?」
「はい。でもぼく、ロボットだけど戦闘用じゃなくて……」
「そうか。それなら、俺に任せろ」
忠は、心の中でニヤリと笑った。メカニックは、専門じゃないが
多少は知識がある。こいつを改造して武器にすれば……
「お前も、生きて帰りたいだろう? 二人でここから脱出しよう」
キャリーは少し考えて、言った。
「……お兄さんは、ぼくを助けてくれたです。信じるです」
忠は民家で工具や回路を掻き集め、森の奥で作業にかかった。
……俺には、無邪気にぱんつを見せてくれる金髪の妹や、
至高神に「カラダがエッチ過ぎる」と文句をつけられたという
逸話を持つ彼女もいる。こんな島で、死ぬ訳にはいかない。
そういや俺が帰られないと地球が危なかったような気も
するが、まあそれも考慮に入れとこう。一応。
「よし、出来たぁ!」
キャリーは、変わった。変わり果てた。大きさこそ前のまま
だが、メタリックシルバーの鋭角的なデザインは、明らかに
戦闘用ロボのものだ。その名も、
「メタルスレイダーキャリー、GO!」
忠はキャリーの頭部のスイッチを入れた。すると、キャリーは背中
のロケットノズルから炎を吹き出し、大空高く舞い上がった!
「キャリー、どぅええぇぇ〜す!」
そしてそのまま、大空を旋回して……
「……おにぎりおにぎりおにぎりおにぎり!」
「え? お、おいキャリー! ちょっと待……」
キャリーは腕に装備されたマシンガンを乱射、一瞬にして忠を
蜂の巣にしてしまった。
キャリーの持っていたマシンガンと、自分の持っていた妨害電波
発生装置を、忠は装備としてキャリーに組み込んだ。だが、
戦闘経験のないキャリーは、それらの使い方を知らなかったのだ。
で、試しに作動させてみたら自分が暴走。もちろん暴走中なので、
自分に内蔵されている機械を止めるなど、できない。
「キャリー、どぅええぇぇ〜す! おにぎりおにぎりおにぎりおにぎり!」
メタルスレイダーキャリーの咆哮が、大空に響き渡る……
【『デッドゾーン』 キャリー 生存→メタルスレイダーキャリー 暴走】
【『メタルスレイダーグローリー』 日向忠 死亡】
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