無題
「どうやらカービィって奴はいなくなったらしいな」
ふよふよとアークの周りを漂うヨミは言った。
少年の手には槍が握られているが、それは力ない。
「カインは俺とカービィを勘違いして襲い掛かってきたっぽい。
いくら死亡放送があったとは言え、レゲーキャラってのは理不尽なもんだ。
こじつけられた理由で復活してもおかしくないし、他の奴だってそう考えるだろう。
――つまり、俺はいらない標的になりかねないって事だ」
淡々とした口調でヨミは語るが、アークは相槌すら打たない。
「――訊いてんのか?アーク」
「………別にどうだっていいじゃんか」
「ああ?」
「ライトガイアが言うには、俺はもうすぐ消滅するって話だった。
最後の一日、クリスタルホルムに戻れないなら何処で消滅しても一緒だ」
「お前なー」
ヨミは流石に溜息をついた。
――ダークガイアを倒してしまった今、使命を果たしてしまった今。
そして、使命を果たした以上、役目が終わってしまった今。
こいつに最早生きる気力はないのか。
今までこいつは女王の仮面に打たれようが、
ロボットのレーザーに焼かれようが、
…鳥のフンをぶつけられようが、
何度でも這い上がってきたはずだ。
もう、そんな諦めの悪いアークは、見られないのか。
一途なまでに冒険を続けてくれたアークは、もういないのか。
俺はそんなアークは見たくはない。
エンディング直前でこの島に送り込まれたヨミとアーク。
既に気心が知れたコンビであり、ヨミはアークを信頼していた。
ヨミは辺りを漂い、そして天を見上げた。
アークに背中を向ける。
「なあアーク」
「何だよ」
「エルがこの島来てたら、どうする?」
ヨミの背後で息を呑む音がした。
「そんな訳…!」
「…ないとは言い切れないと思うぜ?
だって非戦闘員もこの島に送り込まれてるみたいだしな。放送聴いてる限りじゃ」
「…もし、エルがこっちに来てたら…!」
「地表のエルなら、フィーダがいてくれたら何とかなるかもしれないけど」
「違う!俺はクリスタルホルムのエルに会うために……!!」
ヨミはゆっくりと振り返った。
アークの表情は歪んでいたが、やがて徐々に落ち着いていく。
そこには、決意があった。
「エルを探す」
「うん」
「エルを探して、見付からなかったらそれでもいい。
でももし――見付かったら、絶対に守ってみせる」
「わかった。俺はお前に従うよ」
ヨミはかぶりを振ってみせたが、何せピンク色の球体である。
頷いたのかどうだか知れなかった。
「じゃあ、俺は目立ってしょうがない。パンドラの箱に隠れていいか?」
「判った。用事があったら呼ぶよ」
アークがポケットを探ると、そこから小さな箱が現れた。箱の蓋を開ける。
「――それにさ。もしエルがこの島に来てたとしたら」
ヨミはにやりと笑った。
「悪い話じゃないと思うぜ?」
「……え?」
「だって俺達がここに飛ばされようとした直後には、
俺は役目を終えて再び眠りにつき、お前は最後の一日を迎えるはずだった。
なのに、今こうして喋っている。一日はとっくの昔に過ぎてしまった。
――つー事はだ。この島にはライトガイアやダークガイアの力は全く及ばないって事だ」
「…それってつまり」
「そう。この島にいる限り、俺もお前も消える事はない訳だよ。
エルだってそのはずだ。何とか生き残れば、お前とエルはずっと一緒に過ごせる」
アークの表情が見る見る明るくなっていく。
「だから、絶対に生き残ろうぜ!」
「…ああ。そうだな。絶対だ」
パンドラの箱にヨミが収まる。
アークは箱を再びポケットの中にしまって、槍を持ち直した。
彼は元々槍使いである。適当に振って重心やグリップを確認する。
…割といい槍だな。使えそうだ。
「エル、俺は絶対に……」
呟いた。
そして、少年は歩き始めた。
【「天地創造」ヨミ パンドラの箱の中へ避難中】
【「天地創造」アーク 装備:トライデント、エルのマント、パンドラの箱 移動中】
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