無題






(なんなんだよ、これは)
今日、何人目かの「敵」を前に、少年は迷いを捨てきれずにいた。

力を比べ合うことも、互いに納得ずくでなら殺し合いにも、抵抗は感じない。
元はといえば亡国の王子である少年は、いずれ戦を起こして侵略者の王を倒すつもりで
育ったのだから、戦いそのものを躊躇する理由はない。
ただし、理由も分からぬまま誰かの掌の上で踊り、あまつさえ、女子供も手にかけて
最後の1人になれ、などという巫山戯た戦争を許す気にはなれなかった。

「なんで、こんなくだらないゲームに乗ってるんだよ!?」
「楽しいからだろ」
眼光の鋭い男は、口元をニヤつかせたまま即答した。
「一番強い者が生き残る。そいつ以外は死ぬ。俺は一度、そんな状況で戦ってみたかったんだよ」
赤い、日本の戦国時代の兜を簡略化したような物をかぶっている男は、
刀をすらりと抜き放ち、これ以上の問答は無用とばかりに襲いかかってきた。

「くっ!」
道中拾った、誰の支給品か知れない剣で受け止める。
剣術は得意な方なのだが、敵の動きも尋常ではない。
少年はその躊躇いの分だけ、押されることになる。
(この男、憑かれている?)
それとも、これがこの島の――ひいては、このゲームの――持つ、狂気と恐怖の力なのだろうか。
「ハハッ、ハハハハハ!」
男は、哄笑を上げながら人外の力で刀を振るい続ける。
「――ちっ、くしょう!」
少年はそれを鍔迫り合いの形で受け止め、腹を思い切り蹴り飛ばした。
血を吐いて吹き飛ばされる男。
(しまっ――)
殺してしまっただろうか。結局、その力に――否、恐怖にだ――押されて、
本気で蹴ってしまった。
が、そんな心配をしたのもつかの間。
「ハハハハハッ、ハハハハハハハハハ!」
唇の端からいまだに血を流し続けながらも、男は立ち上がり腹の底からの哄笑を上げた。
「俺は悪魔の力を手に入れたんだ、誰にも負けない!」
そんな言葉を吐きながら、手をかざし……
「マ ハ ラ ギ オ ン!」
呪文と共に、あたりが燃え上がった。
「く――」
少年は直撃は避けたものの、突然上がった広範囲の炎と煙で、
一時的に男の姿を見失ってしまう。そして……
「殺(と)ったぞ!」
なんとその炎の中から男は現れ、刀を振り下ろした。
「なに!?」
辛うじて受けに出した剣は真っ二つに折られ、勢いを失いながらも、
刀は少年の肩を抉った。
(こいつ……死ぬのが怖くないのか!?)
折れた剣を捨て、刀の間合いから逃れながら、少年は動揺を隠しきれない。
呪文によって発生した炎は、あたりの草や木を巻き込み、なお勢いを増そうとしている。
その中をくぐった男の服も燃えている。
「俺は力を手に入れたんだ……もう負けない……もう誰にも負けないんだ!」
そんなことすら意に介した様子のない狂気の瞳には、一体誰が映っているのだろう?
それは少年には分からない。知る由のないことだ。だが……
この男がもう、止まることがないことは分かった。

「馬ッ、鹿やろおぉぉ!」
少年は、このゲームが始まる際に持っていた、ただ1つのアイテムを取り出す。
少年の一部にして、7つの僕の力を発揮するための、「土」のタリスマン。
「盟約に従い、我、ドラケンに力を貸せ。――現れ出でよ、水竜!」
タリスマンが輝き、その一瞬後には巨大な海蛇のような姿をしたドラゴンが
少年の前に蜷局を巻いて現れている。
そして、ドラゴンは大量の水を洪水のように吐き出す。
その水は草木の火を消しながら、狂った男を押し流しながらそのまま川へと合流すると、ドラゴンと共に消えていった。
(あいつ、死んだ……かな)
おそらく、死んだだろう。血を吐くほどに内臓を痛めているのだ。
そんな状態で河の流れに呑まれれば、抜け出すだけの力を発揮できまい。
(あれだけの力があるんだ、元いた世界、時代でも何か使命があったろうに)
やはり、こんな事を許すわけにはいかない。
解決しなければならない問題はいくつもある。
首輪、そして教室にいた「先生」とやら。あれは何者なんだろう。
分からない。分からないことだらけだ。しかし……

「こんなゲーム、僕がぶっ潰してやる!」
少年――エルグは、怒りを身に滾らせ、そう誓った。
「地上守護神(ティタノガーディアン)として!」


【神聖紀オデッセリア2 エルグ 生存】
【真・女神転生 カオスヒーロー おそらく死亡】



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