無題






かつてドンキーコングが身を隠していた廃船。そこはリンクとネス二人の拠点となっていた。
そして今廃船に近づく男が一人。リンクとネスはその接近を察知し、既に待ち伏せの体制を整えていた。
男は一応、辺りに気は配っているようだが、その動きは明らかに素人。外見も普通の西洋人でしかない。
「もう死体は見飽きたよ」
浜辺の死体を横目で見ながら男はそう呟く。
作戦はかねてより打ち合わせてあった。
「よし、ネス頼む」
「OK、任せて」ネスが精神を集中する。
「パラライシス!」
研ぎ澄まされた精神波が金髪の男を包む。男は少しふらつくと糸が切れたように浜辺に倒れ伏した。
「よし、気絶しているうちに船の中に運ぼう…」

炎に巻かれた船内…、絶望する人々…、かたむく床…、上から降ってくる椅子…、
行かなけりゃ、あいつを、エイミーを助けてやるんだ!
「……ここは…船の中…戻ったのか!?」
「目が覚めたかい?兄ちゃん」
「悪い夢を見ていたようだね、もっとも悪い冗談のようなこのゲーム比べれば悪夢の方がまだマシかな」
枕元には、真っ赤なベースボールキャップをかぶった子供と、緑の服の少年がいた。
「おっと、動かない方がいい。パラライシスがまだ効いているしね」
「僕たちはあなたに敵意はないし、無闇に殺したりはしない。あなたはどうなんです?教えてください」
男は、意識をはっきりさせるように頭を幾度か振ると、ぶっきらぼうに言った。
「…俺は、キャプリス。キャプリス=ウィッシャー…」
「そうか、そんなことに…」
それぞれのこれまでの状況を聞き、お互いはため息をついた。
「それにしても兄ちゃん。よく生き残れたね。見たとこ普通の人間なのに」
「で、どうしますこれから?できれば僕たちと一緒に来ませんか?あなたにこのゲームはあまりに過酷だ」
キャプリスは、しばしの沈黙の後きっぱりと言った。
「帰らなきゃ、あの船へ」
「帰るって、どうやって?」
「あんたらの話を聞くとこの島は、どうもでたらめな世界だ。
 住んでる時間も世界もまるで違う俺たちをひとまとめにできるような異常な空間を形成している。
 だからこの島から離れれば、なんとかなるんじゃないかと思う。
 …そうだな。ここの廃材を使っていかだでも作るさ」
「って無茶だ!このゲームの主催者はきっとあんたが思ってる以上に狡猾だ。
 そんな抜け道があるとは思えない。それに海にも空にもレゲーキャラはまだまだいるんだぞ」
「だったらどうしろってんだ!?」
「だから仲間を集めて、黒幕を倒せば…」
「そんなことできない!」
キャプリスは、苛立ったようにリンクの言葉を遮った。
「俺はあんたたちとは違う!力もなければ、神に選ばれた勇者でもない!
 ……義妹を重荷に感じて、自分をずっとごまかしていたような、そんな弱い人間なんだ。
 俺は…、ただ…、自分と自分の大事なものを守りたいだけなんだ…。
 早く行かなけりゃ、あの船は今にも沈んでしまうかもしれないんだ!!」
「…すまない。あんたたちにも事情があるんだろうにな。それを俺はまだ子供のあんたらに
 ぐちぐちと…。そういえば、まだ礼も言ってなかったな」
「そんな、いきなり気絶させたのはこっちだしね」
「今夜のうちに海に出るよ。うまくいけば、俺の世界…レイディラック号に戻れるかもしれない」
「…その可能性はないに等しいです。例え帰れたところで、あなたの話ではその船は…もう…」
「言わないでくれ…。その先は」
キャプリスは自嘲するように顔を歪めた。
「とにかく俺はこのゲームから降りさせてもらう。どうあっても、な…」

月光が暗い海にゆらゆらと揺れる。そのさざめきの中を強い意思を秘めた人間のいかだが進む。
キャプリスを見送る影が二つ。
「まったく無茶苦茶だよね、あの兄ちゃん。結局あんな筏で脱出しようなんて…」
「十中八九脱出は難しいだろうな、やはり彼を止めるべきだったのかもしれない」
「でも、あの兄ちゃんは止められない…、だろ?」
「…ああ」
リンクは思った。例え彼の選択が危険で誤ったものだったとしても、誰がそれを非難できよう。
それに彼の強靭な意思があれば、あるいは…。せめて彼にはトライフォースの導きがあらんことを。

筏は波の尾を引きながら夜の海を前進していたが、
やがて月は雲に隠れ、筏も漆黒の中に解けて見えなくなった。

「待ってろ、エイミー。今、行くよ…!」

【『ゼルダの伝説』 リンク 生存】【『マザー2』 ネス 生存】
【『セプテントリオン』 キャプリス 船出後生死不明、完全にLOST】



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