無題






スペランカーは草むらのうごめきに驚きマシンガンを構える。
しかし同じく相手もこちらへ向けてマシンガンを構えていた。
お互いの距離はほんの僅か。銃口は双方の胸先に向けられていた。
撃てば確実に当たる距離…相手が息を呑む音が聞こえる。
それは彼も同じだった。
だが次の瞬間、彼は相手の目に気付いた。相手の目は怯えていた。
「待ってくれ、俺は敵じゃない」
スペランカーは言いながら、引き金から指を離し、そして銃口をゆっくりと下へ向ける。
相手もゆっくりと、極度の恐怖と緊張に震えながら銃口を下ろしていった。
「あ、アンタは僕を殺そうとしないのか?」
相手の男が震えた声で聞いてくる。
ボロボロの服や汚い髪の毛、そして痩せた、弱々しい体。
それらに怯えた表情が加わり、男を非常にみすぼらしく見せていた。
…俺と似ている。スペランカーは安堵した。
「俺は出来うる限り戦いたくないし、人殺しもしたくない。アンタも無理矢理このゲームに?」
「い、いや良く分からないんだ…でも初めてまともな人間に出会った気がするよ」
どうやら男は科学者で、発明品を輸送中にこの島に不時着したらしい。
助けを待っていただけの彼は何度か様々な人間(時には人外のものにまで)の殺し合いを見てきて、
恐怖に怯えて逃げ続けていたらしい。
いわば彼もこのゲームに『巻き込まれて』いたのだ。
「良かったら一緒に行動しないか?仲間がいた方が生き残る術も見つかりやすいと思うんだ」
「…僕のようによわっちい奴でも良いのか?」
「それは俺も同じさ。それに…この場で言えたコトじゃないかもしれないが、
力だけが全てという訳じゃないと思うんだ」
「…ありがとう。アンタのような人と一緒だと心強いよ」
スペランカーにとっても男の存在は心強かった。
その時、彼らは徐々に近付いてくるエンジン音を耳にした。
「!?なんだ、この音は!」
凄まじい轟音の主はスペランカーの近くを瞬く間に通り過ぎていった。そして…
「…おい?どこにいった?」
そこにはマシンガンだけが落ちてあり、男の姿が消えていた。
彼はその一瞬で起きた出来事を理解することが出来なかった。
冒険者の男と一緒に行動しようとしていた矢先、自分はバイクのようなものに乗った男に引きずられていたのだ。
そのマシンはホバーによって浮遊しながら高速で走っていた。
突如マシンが止まり、彼は地面に放り投げられる。
「よぉ、ドライブは楽しかったかい?」
その声の主を見上げると、緑色のスーツを着た男−バイオ戦士ダン−が立っていた。
「コイツ、凄いだろ。どんな所でも走破できるんだぜ。乗ってた奴を殺して奪った価値があったぜ」
「…そんな、アンタはなんてことを…それに、なんで僕をここまで連れてきたんだ?」
「二人相手じゃ戦いづらいと思ってさ、だからこのマシンで引き離したって訳よ。さすが俺」
(この男、マヌケなのか?)と、彼は思った。最初からそのマシンで二人とも轢けば良かったのに。
「それにこの俺に使ってもらってるんだ、前の持ち主だって満足だろうさ。何てったって俺は
救世主なんだから。人類を救うために犠牲は必要だ。俺に殺された奴は尊い犠牲として平和のための礎になったってことだ。最高だろ?」
「アンタ、頭がおかしくないか?一体何が救世主なんだ?」
「おかしい?やっぱ救世主としての崇高な使命は凡人には理解できないってコトなのか。悲しいねぇ。まあいいや、お前も死んで救世主に尽くしてくれよ」
そう言うとダンは腕を銃に変形させて彼に向けてきた。
「ひ、ヒイィィィ!!」
(狂ってる!コイツからは逃げなければ!)彼は必死で走り出した。
逃げる彼を狙いダンは銃を連射する。だが彼のおぼつかない走りは逆に攻撃を当たりづらくしていた。
あのマシンに乗って逃げよう、彼がそう考えた時、ダンの乱射したエネルギー弾がマシンに当たった。
マシンは爆発し、彼はその爆風に吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。
「あ、やっちまった。仕方ないな。とにかくこれでもう逃げられないだろ」
(殺される!)
彼は死を覚悟した−足下にある物に気付くまでは。
そこには薬の瓶が一つ。不時着した時からずっと手放さず持っていた彼の発明品だ。
その薬は服用者の筋力を極限まで引き出すことが出来る。
しかし副作用が確認できていないため、更なる研究が必要だった。
だが、薬を飲めば『力』が手に入る。さっき出会った男の言葉が脳裏に蘇る。
『力だけが全てという訳じゃない』彼もそう思っている。
「でも…死にたくない。生き残る力が欲しい…」
「何言ってるんだぁ?念仏か?潔いなぁ」
ダンは彼に照準を合わせる。
「いや、潔くなんかないさ。それに割り切れるほど僕は強くない、だから力を手に入れるんだ!」
そう言うと瓶を手に取り、中の薬を口にする。
「お前!何を飲んでやがる!」
叫ぶやいなや、ダンは銃を撃った…が、そのエネルギー弾は相手の突き出した手の平にかき消された。
彼はゆっくりと立ち上がる。その姿は巨大な筋肉をまとった肉体へと変貌していた。
「!?お前、凄いじゃねぇか!その薬か、その薬のせいか!それを救世主様のためによこしてくれよォォッ!」
ダンは背負っていたビーム砲を相手に向ける。それはSASAからもぎ取ったものだ。
サイボーグ体であるダンのジェネレーターに取り付けられたビーム砲は
強力なエネルギーの奔流を撃ち放つ−さっきまで敵がいた場所に。
「どこに消えた!?デカい図体のクセになんて素早く動きやがって!」
と言った矢先、ダンは背後の巨大な気配に気付いた。
「そこか!」振り向いたダンが目にしたのは、拳を振り上げる肉の塊。
たとえ愚者であっても最早その拳を避けられないことは実感できただろう。
「俺は救世しゅ…」
風圧を起こしながら叩き込まれた岩のような拳はダンの頭を一撃で粉々に破壊した。

爆発が起こった場所へたどり着いたスペランカーが見たのは、
四肢を引きちぎられ、雑巾のようにグチャグチャにされた半機半人のようなものと、
それを見下している筋骨隆々の巨人だった。
しかもその巨人には見覚えがある…さっきまで話していた、ひ弱な男だ。
「き、君は…」
「やぁ、これを見てくれよ。人間がまるで人形のように簡単に引き裂けるんだぜ。自分の作った薬がこんなに凄いなんて思っても見なかったよ」
「そんな…」
「…そんな目で見ないでくれよ。確かに僕はアンタの言ったことを正しいと思っていたんだ。でも、生き残るためにはやっぱり力が、圧倒的な力が必要なんだ」
男は悲しそうな目でスペランカーを見下ろす。さっきまで二人の目線はほとんど同じ高さだった。
「それに、この体になってから凄く気持ちがいいんだ。この腕でこの世の全てを屈服できる様な気がするんだよ」
と、言うと男は側にある木に拳を打ち込む。木は小枝のようにあっけなく折れ、倒れ込んだ。
「僕はもう生き残る術を見つけたんだ。それはこの力で全ての敵を倒すことだ…」
スペランカーは感じていた。彼はもう違う人間だ…いや、人間じゃない、屈強な獣だ。
「だから、だからそんな目で見ないでくれよ!」巨人が咆吼と共に拳を地面に叩き付ける。
地面が大きく揺れ、スペランカーはその振動にバランスを崩し、倒れ込む。
「…僕はアンタだけは殺したくない。だからここで別れよう。…アンタも生き残ると良いな」
巨人は身を翻し、肩を揺らして歩いていく。
スペランカーは木々の間に消えていく男の巨大な背を、黙って見ていた。

【「スペランカー」スペランカー 生存】
【「突然!マッチョマン」主人公(マッチョマン?) 生存】
【「バイオ戦士DAN」ダン 死亡】
【「セクロス」主人公 死亡&自機破壊】




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