無題
「はあっ……はあっ……はあ……」
逃げて、逃げつづけて、デニムは立ち止まった。膝に力が入らない。歯の根がかみ合わない。
思わず近くの木に持たれかかった。とりあえず、体を休ませなければ。
「姉さん……」
口にすると涙が出てきそうになる。先刻の彼女の瞳。狂気に彩られたそれまぶたの裏に浮かぶ。
どうして逃げ出してしまったのか?決まってる。「怖かった」からだ。
彼女の投げ掛ける笑顔が夜叉のそれに見えた。「二人だけの世界」?そんなの、僕は望んじゃいない!
ちらりと、眼の端に移ったものがある。木造の小屋。背の高い草に囲まれて一瞬廃屋に見えたが、
どうやらきちんとしているようだ。
デニムはとりあえずそこで体を休めることにした。先客が居ればそうはいかないかもしれないが……。
コンコン、と剣の柄でノックしてみる。暫く待ってみても中から反応はない。
誰かが潜んでいて……という考えも浮かんだが、こうしていても仕方ないことも事実だ。
デニムはゆっくりとノブを回し、中へ入った。
薄暗い部屋の中には一人の女性が座っていた。褐色の肌をした、綺麗な人だ。
「貴方は……」
「動くな」
話しかけようとしたデニムの喉にブレードが突きつけられる。いつの間に……と思う暇もなく
剣の持ち主は続ける。
「武器を捨てろ。大人しく言うことを聞けば、命までは取らん」
デニムは無言で、持っていたヴォルテールを手放した。死角から襲いかかってきた相手に問い掛ける。
「君は……それに、貴方は誰なんです?」
それに答えたのは奥の女性だった。立ちあがってデニムの目の前まで来ると落ちたヴォルテールを拾い上げる。
「私はミネア。彼はゼロ。あなたは?」
「僕はデニム。君たちと争うつもりはないんだ。助けてくれないか?」
どうする?と問い掛けるようにゼロがミネアのほうを見る。ミネアはそれに笑みで返した。
「ゼロさん、大丈夫。この人は嘘をついているようには見えません」
その言葉を聞くと、ゼロはすっと身を引いた。そのままこちらと距離を取る。
「悪かったな。アンタも知ってるだろうが、この島の連中は今油断がならないんでね」
「気にしないで下さい、ゼロさん。僕があなたの立場でもそうしたでしょうから」
張り詰めていた空気がようやく緩んだ。
3人はそのまま今までの経験を話し合った。
仲間とはぐれたこと、友の変貌、姉の狂気……話し終わった後でミネアがゆっくり息をついた。
「デニムさんは……これからどうされるんですか?」
「分からないんです。どうすればいいのか。この争いを止めたい。姉さんも救いたいんですが……」
「だが、話を聞く限り、アンタの姉さんはそれを望んじゃいないようだぜ?」
ゼロの言葉が胸に刺さる。薄々気づいていたことだが、他人に指摘されると重みが違う。
「でも……僕は姉さんと他のみんなと、どちらかを選ぶかなんて――」
「俺はな」
デニムのつぶやきを苛立ったようにゼロが制した。困惑した表情のデニムを見据えて、
「この戦いを止める。誰が何と言おうとだ。邪魔する奴は容赦しねえ」
ゼロの発言に呼応するようにミネアも口を開いた。
「私もです。この争いに意味はありません。ただ無益に人の命が散っていく……
そんなものを肯定する訳にはいかないでしょう」
デニムは困り果ててしまった。争いを止めるには姉が障害になる。二律背反が彼を苦しめる。
見かねたのか、ミネアがそっとデニムの肩に手を置いた。
「デニムさん。あなたの力を貸して頂けませんか?3人で協力すれば答えも出るかもしれません」
数瞬の後、デニムはミネアの手を取った。
姉のことは諦められない。でも一人ではどうにもならない。
急造でも仲間が必要だった。この二人なら信頼できるかもしれない。
こうしてミネア・ゼロ・デニムは反戦派としてまとまるに至った。
【「DQ4」 ミネア 「ロックマンX」 ゼロ 「タクティクス・オウガ」 デニム 同盟】
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