無題






一体、何合、打ち合っただろうか。
必殺を確信したはずの突きも、気がつくと間合いを外され、
死角からの攻撃に背筋を凍らせながら飛び退く、そんな繰り返しである。
敵は間違いなく、幾度もの修羅場をくぐり抜けた剣士だ。
銀色に輝く鎧を身に纏い、自分と同じく息を荒げながら剣を構える赤毛の少年を前に、
エルウィンはそう確信した。

まずいな。胸中で呟く。
戦いそのものよりも、体力が気になった。
このままの状態が続けば、たとえこの場で勝利しても、他の強敵達と渡り合えない。
早鐘を打つ心臓と、剣を握る手のじっとりと汗ばむ不快感が、己の焦りを伝えてくる。
僕のこの不安に敵は気付いているだろうか?
いや、間違いなく気付いているだろう。何故なら、敵も条件は同じに違いないから。

――決着をつけよう。

エルウィンは、その決意と共に、静かに剣を構えなおした。
敵は、こちらが攻撃を繰り出す瞬間を読み、半歩横へズレるように跳び、後の先を取る。
初めは虚をつかれたが、ようやく目が慣れてきたところだ。次こそは、
余裕を持って躱すことができるだろう。

エルウィンは、一歩踏み込んで神速の突きを放った。
対する赤毛の少年は、やはりそれまでと同じように横に跳び、エルウィンの隙を突くべく
剣を振りかぶっている。
が、その後のエルウィンの動きはそれまでとは違った。
突いた時に倍する迅さで剣を引き戻し、前のめりになりそうな身体を必死で立て直しながら
一歩退き、やはりこちらと同じく焦っていたのだろう、必殺のつもりか大振りになった
少年の剣を、皮一枚裂かれながらも躱してみせたのだ。

――今度は、こちらが隙を突く番だ。

再び踏み込み、少年の振り下ろした剣を踏みつけながら、裂帛の気合と共に剣を振り下ろ――

「なに?」
エルウィンが見たのは、振り下ろしたまま剣から手を放し、その掌をこちらに向ける少年と、
そこに宿る――


火球によって胸を穿たれ、即死した戦士を見下ろしながら、
赤毛の少年――アドルは、力を失ってなお僅かに首筋を裂いた剣の感触に
冷たい物を感じながら、故郷の弔いの言葉を呟いた。
「凄いな。剣だけじゃ勝てなかった」
世の中には、まだまだ強い人がいる。会ったことのない人、見たことのない景色がある。
だから、冒険はやめられない。
「こんな糞のようなゲームじゃなければ、気が合ったかもしれないのにな」
しかし、今は生き残らなくてはならない。
かすかな痛みを胸に、アドルはその場を歩み去った。


【イース2 アドル生存】
【ラングリッサー2 エルウィン死亡】



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