無題






「参加者の中でもっとも脆弱だと思われる人物を発見」
崖の上に立ち、真下の森を眺めていたミオは表情を変えずに言った。
彼女の視線の先には管理人達に超大穴などと言われた男、
スペランカーが歩いていた。

ミオはさも当然かのようにイカロス砲の標準をスペランカーに合わせ、
ゆっくりとエネルギーを充填し…。不意にミオはイカロス砲を下ろした。
その代わりに先ほど拾った刀を抜き放ち、時空転移の準備をした。
彼女が興味を持ったモノ。人間を刀で切り刻む感触というのはどういうモノなのだろうか?
禁断の知識の虜になったミオは、真っ直ぐスペランカーに向かってワープを開始した。

静かな森の中をスペランカーは歩いていた。
その目は森を見てはおらず、ただ遠くの方を眺めていた。
(このゲームは人が死にすぎだ。深い愛を持った恋人達、大切な友、私より強い人達がどんどん…)
このゲームを画策したいけ好かない管理者達。
命の重さを知らない無情な殺人鬼共。
――あまりにも無力な自分。
彼にとって、全てが憎く、そして、ただ悲しかった。

そんな考えに囚われていたスペランカーは、聞き覚えのある音に瞬時に現実に戻り、
自分の武器であるマシンガンを構え、迫り来る敵へと意識を集中させた。

「跳躍完了。敵、スペランカーまで相対距離15」
ミオは森の見える崖の上から大きな岩を挟んでスペランカーと反対の位置に
ワープしていた。接近戦になる為距離の微調整が必要だと思ったからだ。
刀を持ち直し、ワープの座標をスペランカーの眼前へとあわせる。
まさにワープしようとしたその時、不意に聞こえたメロディにミオの意識がそれた。

『テーテーテーテーテー テレレレ♪ テーテーテーテーテー テレレレ♪』

そして次の瞬間、ミオのイメージ画像の体が不可思議な力でバラバラに引きちぎられた。

一体自分の身になにが起こったのか、ミオはわからなかった。
周辺には敵の姿らしきモノは何一つ見当たらない。
崖の上で確認した時も、この森の中にはスペランカーしかいなかったはずだ。
なら自分を攻撃したのはスペランカーなのか? しかしどうやって?
彼は爆弾に花火。そしてマシンガンしかもっていなかったはずだ。
大岩を挟んだ、しかも自分の実態を持たない体を攻撃する術など皆無だ。
ならば、どうやって……どうして……。
答えの出ない自問を繰り返しながら、ミオの体と意識は虚空へと消えていった。


「この島にもゴーストがいるのか。それにしても、段差の少ない森の中で良かった」
深い恐怖を思い出させるメロディが消えたことに、スペランカーは安堵の溜息をついた。
そして銃口を大岩にあわせたマシンガンを下げ、いつも通りにリュックへと突っ込んだ。

どんな岩壁でも貫通し、実態の無いゴーストを消し去る不思議なマシンガンを。


【スペランカー 主人公生存】
【銀河の三人  ミオ死亡】



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