無題







 そろそろ夜明けが近づいた頃、内宮瑠華(女 二番)と相沢桜子(女 一番)は民家に隠れていた。
 ちょうど北沢樹里が居る森から南の、一番学校に近い場所だ。
 幸運にも(失礼な話だが)江藤毅(男 二番)が出発前に死んだことで二人の出発の時差はたったの二分に縮まっていたのだ。
 瑠華が桜子を最初に見つけた時は近くでマシンガンのような連続した発砲音もしたので、桜子はかなり怯えていた。
 今、桜子は民家から拝借した毛布に包まって、壁に背中を預けている。毛布の中で支給されたロコンを抱きしめているようだった。
 瑠華は――支給されたリボルバーを丹念に調べていた。その時にちらと腕時計に目をやり、既に時針が五時を指す事を確認する。
 それからまた視線を銃へ戻した。
 瑠華はモデルガンのコレクション、強いては実弾を要いた射的の趣味を持っていたのだ。
(女の子らしくないって? 失礼ね)
 とにかく、その点の技術に関しては神崎渉のポケモンの腕や北沢樹里の運動能力よりもゲームに有利になるに違いなかった。
 そりゃそうだろう。普通銃を持つ機会なんて無いんだから。だが、金持ちとなれば話は別だ。
 瑠華は関東地方でも有数の大型企業の娘だった。
 それでも瑠華には兄が居て、その兄の琢摩が企業の後を継ぐ事になっていたし、親は瑠華にわりかし自由にやらせてきたのだ。
 そして山吹第二中学校で、北沢樹里、玉堤英人と出会った。
 次第に瑠華は二人に惹かれていった。
 樹里は、ちょっと冷めては居たけど話してみると結構優しくて、そのまま直ぐに友達になった。
 英人は誠実で、ちょっとシャイなところもあって、かわいかった。
 それでも若くしてエリートトレーナーになった英人は瑠華に取って憧れの対象だったのだ。
 かくして、樹里の友人だった神崎渉と英人の恋人の間由佳とも仲を持つ様になったが――
 それであまり幼なじみだった桜子とはあまり付き合わなくなってしまった。
 今の今まで。
 瑠華はそのリボルバーがスミスアンドウエスンのチーフスペシャル三十八口径で、本物だと確認すると腰に差し込んだ。
 全く、ミニスカートと比べると不釣り合いだ。
「ねえ、ルカ」
 突然、桜子が声をかけた。
「あたしね、ちょっと不謹慎だけど、うれしい」
 続けた。
「しばらく、全然会ってなかったから。久しぶりにルカと一緒に居るんだもん」
 瑠華はただ桜子を見つめていた。
 桜子の胸あたり、毛布の裾ごしにロコンが顔を出しており、瑠華からじっと視線を離していない。
「今この瞬間に死が訪れても、きっと悔やまない……」
「何言ってるのよ、サクラ」
 瑠華は壁から背を離すと、ようやく桜子に声をかけた。
 合流してから、あまりにも短い会話しかしていなかった気もする。
「いい? どうにかして此処から脱出するのよ」
「でも……首輪が……それに、偉い人――政府が、あたし達を見逃すかどうか」
 怯えたように桜子がそう言い終えてから、瑠華は返す。
「大丈夫、きっと、大丈夫よ。仲間さえ居れば」
 桜子はその言葉を聞いて少し表情を歪めたが、ついには瑠華はそれにも気付かなかったのだった。
 もちろん瑠華のほとんどの神経が外部の敵に警戒していたこともあるのだが――

 直後、部屋の証明、ロウソクの火が微かに揺れ、ドアが音を鳴らした。
 突然外からドアがノックされたのだ。
「ひっ」と桜子は声帯を揺らし、それと同時にロコンが顔をしかめた。
 それで――瑠華は腰から抜き出したリボルバーを構えた。

 ――もしこのドアを開けて、襲われても自分は桜子を守り切れるのだろうか?
 自分は守れるだけの力を持っているのだろうか?
 いや――守らなければならない。
 確実に、だ。
 桜子は自分の大切な友人なんだから。

【残り 14人】



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