無題







 北沢樹里(女 五番)は森の中を走っていた。
 ガールスカウトの中でも最も体力があり、学園の陸上部、短距離走のエースランナーだった彼女は学校を出てすぐ、北西に向かって走り出した。
 緑川美津子の死体を見つけて以来、ただ倒されまいと必死にスピードを上げていたが、展望台の近くに来てから足を一度止めた。
 そう――仲間だ。まずは仲間を集めなければならない。
 はっきり言って彼女にはあまり仲間、或いは友人と呼べる人物が居なかった。
 確かに、ガールスカウトだったのだが、少し近寄りがたい一種高慢な性格も災いしてか、年下の二人の女の子位しか仲間と呼べる人物はいなかった。
 ただ、友人なら、しかもプログラムに参加している中に存在している。
 男二人に女二人だ。樹里と同年代の。
 その点については、樹里自身考えるところもあった。

 とにかく――仲間を集めるにしても、まずは動かなければならなかった。

 どうするすべきだろうか? 展望台を使ってその友人達を捜すべきだろうか?
 下手に展望台に近づけば相手の”支給品”により狙撃されるかも知れない。
 とにかく――慎重に行かなければ。

 刹那、がさ、と学校側から茂みを避ける音が発っせられた。
 戦慄が、走る。
 ――誰なのだろうか? この時、僅かながら樹里は期待した。
 これが神崎渉(男 三番)、内宮瑠華(女 二番)或いは間由佳か玉堤英人だと。
 何よりワタルと瑠華は幼なじみだったし、由佳と英人も樹里のことを理解していてくれた。
 特に――ワタルと由佳は凄い。ワタルはポケモントレーナーとしても一流だったし、
 由佳は由佳でサバイバル的な知識がガールスカウトである樹里より上であった。
 そう――二人が居れば、大木戸を倒せるかも知れない。
 微かな期待で樹里の頭の中の神経がちりっと跳ねたが――その茂みから出た驚愕した顔は緑川亮太(男 十番)のものだった。
 違った――
 樹里とはあまり関わりの無い人物だ。これを信用して良いのだろうか?
 樹里は一瞬逡巡した後、立ち去ろうとして――「止まれよ」
 ――やめた。
 ちゃき、と金属音が森に響いたので。
 振り返ると、グリーンは拳銃――コルトガバメントを構えていた。
「あのさ、俺と一緒に居てくれない?」
「とても、物を頼む態度じゃないよね? それ下ろしてくれない?」
 駄目元だった。多分――グリーンはやる気なのだろう。晴れてこの幸せゲームに頭をやられちゃった被害者の一人になった。
 予想通り、グリーンはガバメントを構えたままだった。
「逆らうなよ」

 それで――樹里はプッツンした。
 自由を重んじる彼女にとって、完全なる”束縛”は最大の屈辱でしかない。
 なのだが――樹里は唇を歪ませ、笑った。理由はある。
 今世紀最大のヒットだ。いやはや。

「ねえ、殺すつもりなの?」
「どうせ死ぬんだよ。最後くらい楽しくやろう」
 何? 何て言ったの、このバカは?
「甘いわよ」
 不本意だったが、樹里は自らの支給品を構えた。イングラムM10サブマシンガン。
 そう――これをぶっ放してしまえば簡単にグリーンの人生なんて終わってしまう。
 それも知らないでこいつは自分をレイプしようとしたのだ。

 それでビビったのか、グリーンはガバメントを撃った。が、その銃口から放たれた鉄の塊は虚しく地面の土を掘ったのみだった。
「だから――あんたは阿呆なのよ」
 構わず、樹里はイングラムの引き金を絞った。殺意はバリバリ。顔も笑いに歪んだままだ。
 だから何なの? 総統様やら大統領様ってわけじゃないし別にいいんじゃない?
 それきりだった。
 ぱららららら、と中古のタイプライターのような音が弾け、同時にグリーンの身体が奇妙な踊りを始めた。
 がくがくグリーンの身体が立ったまま揺れ、樹里が引き金を指から離す時には既にグリーンの腹に大きい穴が空いていた。
 もうソーセージだかウインナーだか分からない、変なものが覗けていたが、樹里は気にしなかった。
 こうして、あっさりと愚かな男、緑川亮太は死んだ。
 元々彼はかなり自信家な部分もあったのだが、北沢樹里を怒らせた時点で彼はすでに終わっていたのだ。

 樹里はまだ硝煙の臭いが立ち込める辺りからさっさと離れた。
 ああ――人を殺してしまった。いくらクソみたいな野郎だったとは言え――

【残り 14人】



前話   目次   次話