無題
4
「えー、それでは一人ずつ、二分間隔で教室を出てもらうよ。出発したらすぐに出口にいくこと。うろうろしている人は撃ち殺しまーす」
「撃ち殺しまーす」の部分で、レッドは隣の相沢桜子(女 一番)の身体がぶるっと震えるのが見えた。
やはりタケシの頭にナイフが生えても、真理の首から赤い噴出が流れても、この状況を飲み込めないのだろう。
――もちろん、これからクソゲームに巻き込まれる事も。
「最初に出発する人はくじで決めまーす」
そういうと、大木戸は教卓の机から箱を出し、言い始めた。
「男、女、男、女で交互に行きます。最後までいったらまたアタマからです」
それを言い終えてから、箱から紙切れを掴んだ手を取り出した。
それから、畳んであった紙切れを開いた。
「女性七番、相馬夏芽さんからです」
廊下側の後ろの席、ニヒルな感じの顔付きの相馬夏芽(女 七番)が反応したように顔を上げた。
ナツメは超能力が使え、エスパーポケモンの使い手として山吹市のジムに在籍している。
ナツメの顔は確かに美しかったのだけれど、その表情は冷たい印象が感じられた。
ナツメは立ち上がると、大木戸が差し出したデイバッグを肩にかけ、何も言わないまま廊下の闇に消えていった。
こつ、こつという靴の音も、次第に静寂の中に溶けていった。
「では二分、時間を置きます。次は男性八番の中島真樹君なー」
その調子で、どんどん名前が読み上げられ、スタートを告げる点呼が始まった。
マサキの名前が呼ばれ、マサキが大木戸からデイバッグを受け取っていたその時、由佳は斜め隣の玉堤英人(男 七番)に何かを後ろから渡した。
それは、モンスターボール、しかも文字が書かれている。
英人はそれをすぐにポケットにしまい込んだ。大木戸はマサキを見送っていたので、気付かなかった様子だった。
ほとんどの持ち物は没収されていた筈なのだが、何故由佳はモンスターボールを持っていられたのだろうか?
それよりも、ボールに書かれていた内容は何だったのだろう?
それは由佳と英人だけのメッセージ――他人を信じていないのだろうか。
それからしばらくして自らを処刑した藤崎真理の番は除き、緑川美津子の順番が来た。
マサキや由佳と同じようにデイバッグを貰ってから廊下に出て――しばらくして、何かが弾けたような音が響いた。
レッドは勿論、瑠華やワタルも身体をこわばらせた。
今のは、一体――!?
レッドは思い出した。「うろうろしていると撃ち殺しまーす」
まさか――?
それを確認する時間は間もなく訪れた。
「男性一番、赤島烈人君」
レッドは机から立ち上がり、大木戸からデイバッグを受け取り、廊下へ出た。
風が、レッドの頬を掠めた。
戸口を出た廊下は真っすぐ出口まで伸びており、その途中には――黒いゴミ袋の様なものが転がっていた。ゴミ袋からは、赤い水溜まりが発生している。
何だ? 学校の中でトマトを詰め込んだゴミ袋を不法投棄するなんて――
しかしよくよく見てみると、それには手足が付いていて、くの字に倒れているマネキンではなあか。
――先程出発した筈の美津子が、こめかみに二つの穴を空けて死んでいた。
廊下に人の気配はない。ならば、誰が?
大木戸の言った「うろうろ」がまたレッドの脳内で再生された。
そう――見えない、ここで立ち止まっているレッドに今にも凶弾を放とうと狙っている、何かが確かにいる!
ぞっとしたレッドは、美津子の死体を通り抜けて足早に出口へ向かった。
【残り 17人】
前話
目次
次話