BAT MAN






ヴァン・アルカード。
その内に魔を宿す半妖の吸血鬼にして元・対魔組織所属のエクソシスト。
その経歴は複雑だ。
どういった成り行きで自分が生まれたのかを彼は知らない。
父はルーマニアの一角で猛威を振るった吸血鬼だったらしい、が正確なことは定かではない。
母はその吸血鬼の支配下にあった町の領主の娘だったらしい、が正確なことは定かではない。
彼が物心つくころには母と二人、ルーマニアの辺境で暮らしていた。
ただ吸血鬼の血を引いているということは母から聞いていたし”実感”として知っていたが、父親である吸血鬼がどうなったのかは知らない。
母親は純粋な人間であり、父に血を吸われていないのは確かだったがその辺の事情も知らない。
気にならなかったといえば嘘になるが、問いただすほどのことでもないとも思っていた。
吸血衝動は抑えられる範囲だったし、日中も身体能力が低下し気が滅入る程度で生活に支障の出るほどのものでもない。
ごく普通に、同年代の人間と変わらない暮らしをしてきたつもりだった。
だが、16のある日、どこからこの場を割り出したのか、突然、対魔組織を名乗る集団が押し掛けてきた。
問答無用で踏み込んできた対魔組織の人間に抵抗する間もなくあっというまに組み伏せられ、処断される直前。
部隊の長と思しき特徴のない若い男が言った。
『お前は半分だけだが曲がりなりにも人間だ、魔物どもから人を守るべき我々がそれを殺すのはいささかながら気が引ける。
 どうだい、その力を魔を滅ぼすために使用することを約束すればその命を助けてやろう』
己の命と母の身柄を握られている状況だ。
断るという選択肢などなかった。
彼はその提案を受け入れ、魔を宿す身でありながら魔を狩る組織へと身を落とすこととなる。
組織が彼を受け入れたのにはわけがある。
強力なヴァンパイアの能力はたしかに有益だろうが、細部に欠け、夜限定のその力はいささか決定打に欠けるだろう。
組織が彼を受け入れた最大の理由は彼の中にある魔性の血にこそある。
魔は魔を知る。
半妖である彼には人々の中に紛れた魔を感じ取り、標的を確実に見つけることのできる能力が生まれながらに備わっていた。
その探査力は魔を持たぬ人間にはどれほど足掻こうとも届かない精度を誇り、その能力を正確に再現しようとするならば宝具級の魔道具が必要となるほどだ。
組織が穢れを内に持ち込むことに目をつむってまで欲しがったのも頷ける。
だが、彼の存在自体が組織の恥部である。
不要になれば切り捨てられるのも当然のこと。
日々強まる魔の属性に組織が難色を示し始めたころ、自身が切り捨てられることをいち早く察知した彼は早々に組織を裏切った。
そして追手を振り切りながら、組織の目も届かないと踏んだ極東の島国へと逃げ込んだ。
そこで彼を待っていたのは組織が彼の首に賭けた懸賞金目当ての霊能力者との追いかけっこ。
一悶着の末、この追っ手ともなんとか和解しやっと逃亡劇も落ち着こうかというところで、突然さらわれこの事態だ。
せっかくの苦労も水の泡。まったくもって嫌になる話だ。

「それで、僕に何か御用かな、お嬢さん?」

煌めくような美しい金髪をたなびかせ、目を引く赤いシャツを着た青年ヴァン・アルカードはそう言って振り返った。
ヴァンの視線の先には、絶世の美女と称しても差し支えないほどの美しい娘が佇んでいた。
風にさらさらと靡くのは漆のような艶のある黒髪。
その黒髪を束ねる絢爛な装飾を施された髪飾りが夜に映える。
身に纏う花の模様をあしらえた艶やかな着物は肩口まではだけられ、透き通る初雪のような白い肌がさらけ出されている。
そこから覗く豊満な胸元は男児であるならば、だれもが惑わされるような妖艶な色香を漂わせていた。

「おかしな匂いがするゆえ見てみれば。また珍妙な童児よ。
 そこな童児。そなたはいったい何じゃ?」

現われた女は着物の袖口を鼻元に宛がいながらヴァンに向けて問いかける。
対するヴァンはその問いにおどけたように肩をすくめた。

「なんだ、と言われてもね。僕は単なる半端者さ」
「なるほどの、混じり物か。これは珍しい。
 よもやこの様な所でこのような珍種と巡り合えるとは」
「そいつはどうも。用件はそれだけかい?
 だったら、僕はもう行くけど」
「つれぬ童児じゃ。この鬼姫の目にかかる光栄がわからぬ訳でもあるまい。
 すこしは童女の話に付き合えというに」
「お断りするよ。生憎、僕は母より年上の女性とデートをする趣味はない。
 それに、血を見たばかりで気分が悪いんだ。
 あんたみたいな血なまぐさいのと関わり合いになりたくないんだ」

ヴァンはその女の色香に惑わされるでもなく、むしろ嫌悪すら感じさせる口ぶりで女に語りかける。
それも当然である。
ヴァンが女から感じているのは色香など霞んでしまうほどに色濃い血と臓物を食い散らす魔の匂い。
美しい外見に惑わされることなかれ、目の前にいるのは人を喰らう生粋の魔物である。

「ほう、そなた、なかなか鼻が利くの」
「それだけ血の匂いが染みついてればいやでも臭うさ。
 半分ながら同族のよしみとして忠告するけど、そう言うものはもう少し上手く隠した方がいい。
 さもなくば人間に見つかって討たれるのがオチだ」

半端に強い自己顕示欲の強い輩は率先して狩られていったという元・対魔組織所属の経験上の忠告なのだが。
それを受けた、鬼姫と名乗る女はくすくすとその忠告を小馬鹿にするように笑った。

「人間が童女を討つ? なかなか面白いことをぬかす童児じゃ。
 彼奴らが童女を見つけたところでなんになる。そんなもの返り討てば終いじゃ。
 こそこそと逃げ隠れるなぞは小物のすること。何物にも童女を縛ることは叶わぬ。
 童女は思うがままに戯れ、思うがままに喰らうまで」

この手の発言をするものはとんでもない馬鹿かとんでもない大物かのどちらかだ。
この場合はおそらくは後者なのだろう。

「なるほど。それなら、この場でもそうやって過ごすわけかい?」
「そうじゃの。童女をこのような場所に放り込んだあの男は気に食わぬが、この場にはそなたのような面白い輩もいるようじゃ、存分に戯れるのも面白かろう」
「へぇ、なら、僕も喰う気かい?」

ヴァンの言葉に二人の間に僅かな緊張が走った。

「たわけ。童女は混じり物を喰らうほど悪食ではないわ。
 じゃが、そなたと戯れるのは愉快やもしれんの。
 童女の寵愛を受ける人形となるか、それとも童女と踊ってみるか?
 童女と踊った人間はみなすぐに壊れてしまうのじゃが、そなたなら脆弱な人間と違いそう簡単には壊れまい?」

鬼姫の目が細められ、歪んだ口元からは獣のような牙が剥きだされる。
人皮が剥がれその内にある鬼の本性が垣間見え、白魚の様な美しい指先が人外のそれへと形を変えた。
魔の物の天敵たる陰陽師が溢れる京の町に堂々と根城を構える悪鬼。
人を喰らう絶対的な捕食者。
それと対峙した者は等しく、自らが単なる餌でしかないことを自覚させらることだろう。

「はっ。そりゃあいい。
 夜の眷属と踊るのなら、そちらも相応の覚悟を持てよ、女」

ヴァン・アルカードの血のように赤い真紅の瞳が闇に輝く。
口の端が吊り上がり、地に奔る亀裂のような歪んだ笑みが浮かんだ。
漂い始めた刺すような冷気に空気が凍る。
夜に広がる一面の影が意思を持ったように揺らめき惑う。
木々が騒めき闇が蠢いた。
羽根のように両腕を広げるたヴァンの魔性が解き放たれキチキチと音を立てて夜が軋む。
夜を従える、その様はまさしく夜の支配者。
それと対峙した者は等しく、夜そのものが敵であるかのような錯覚に襲われることだろう。

ぶつかり合う空間を捻じ曲げるほど濃厚な人外の殺意と殺意。
心の弱いものならばそれだけで失神しかねないほどの緊張感が漂う。
いつ爆発してもおかしくない張りつめた一触即発の空気のなか鬼姫がふんと鼻を鳴らした。

「ほんの戯言じゃ。本気にするでないわ、たわけ」
「そうだね。同族同士で潰し合っても仕方ない。
 この場に呼ばれた数少ない化け物同士仲良くしよう」

互いに人の姿を取り戻し、辺りにも正常が戻る。
もとより本気でなかったのか、互いにあっさりと殺気を収めた。

「童女はもう行く。そなたも魔の物ならそれらしく思うがままに振る舞うがよい」
「ご忠告痛み入るよ。それじゃあそっちも精々頑張って」

ヴァンは余裕を含んだ笑みを浮かべながら、悠然と立ち去ってゆく鬼姫の後ろ姿を見送った。
そして、鬼姫の姿が完全に夜の闇に消え気配も感じられなくなったことを確認した後。

「ふーぅ。怖かったぁ」

ヴァンは冷や汗を拭いながら心の底から息を吐いた。
強気な態度もあの殺意もすべて強気のコールで相手のドロップを誘うためのハッタリにすぎない。
内心は冷や汗ものである。
自分みたいな半端物とはケタが違う、純粋な魔。
種族の特性上、夜になれば昼とは比べ物にならないほど上昇するが、いくらなんでもあんな化け物と真正面から対峙して勝てると思うほど自惚れてはいない。
もっとも、あのまま戦っていたとしても能力が最高潮である今ならば負けるとも思わないが、少なくとも逃走くらいはできただろう。
その打算があったからこそ大胆にカードを切れたのだからよしとしよう。昼ならばハッタリを利かせる暇もなく瞬殺だっただろう。

「さて、どうしたもんかね」

とりあえず、差し当たっての危機は回避できたわけだが。
これからどうするかは決めかねているのが現状だ。
これからとはもちろん、殺し合いに応じるか否か。
どちらにするにせよ、方針は夜のうちに決めた方がいいだろう。

「日高くんにゆかりちゃんか」

この場にいるらしい知り合いはこの二人だけ。
この二人とは追いかけられたり殺したり殺されかけたりした間柄だが、最終的に彼ら――というか日高恭――には見逃してもらった恩がある。
もう一つある日高姓は彼の親族だろうか、詳しいことは分からないができるならば、彼女を含めて争いたくはない。
だが、自らのためとあらば自分は平然とその大恩を裏切るだろう。

保身のためとあらば魔の血を引きながら対魔組織に身を落とし。
いつか崩れる砂の城のような安全を買うため組織内での仲間たちの侮蔑の視線や恥辱にも耐え。
自らが討たれると知れば、これまでの同僚を平然と裏切り、すべてを投げ出し地の果てまで逃げ出す。
結局のところヴァン・アルカードは自分が一番かわいい卑怯者である。

「……嫌になるねまったく」

自己嫌悪は相変わらず。
獣と鳥の二つの間を彷徨う蝙蝠のように、人にも魔にもなりきれない半端者。
どっちつかずのままではいられない。
殺し合いにのり優勝を目指すのか。
殺し合いに乗らずみなと手を取り合い脱出を目指すのか
自らが生き残るために選択肢を選ばなければならない。
より、可能性の高い方を。


【一日目・深夜/1-A 2-Aよりの平原】
【ヴァン・アルカード@非日常的現代世界】
【状態】健康、能力強化
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1〜3
【思考】
1:方針を決める
2:日高恭、澤村ゆかり、日高未来の三人とは戦いたくない

【一日目・深夜/2-A 森近く】
【鬼姫@陰陽魔道世界】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1〜3
【思考】
1:この場を楽しむ



【名前】ヴァン・アルカード
【性別】男
【年齢】19歳
【職業】元・対魔組織所属
【身体的特徴】金髪、美形
【性格】社交的、女たらし、嘘つき
【趣味】賭け事、ドライブ
【特技】イカサマ
【経歴】吸血鬼と人間のハーフ
【好きなもの・こと】母
【苦手なもの・こと】日光、血
【特殊能力】平時は並以下だが、夜になると能力が大幅に上昇する。
【出身世界】非日常的現代世界
【備考】
吸血鬼と人間のハーフ。
ハーフであるため流水を渡れ日光に当たっても消滅せず、気が滅入る程度。
その反面、蝙蝠化や眷属を増やすなどといった吸血鬼特有の能力もない。
吸血能力は存在するが、行ったことはない。
ある対魔組織に討伐されかかるが、半分人間ということでその力を対魔に使うという条件で温情を受け対魔組織に身を落とす。
だが、成長とともに魔の属性が高まり討伐が決定される。
追っ手から逃れるため、極東の島国に逃走するが組織が手配したその懸賞金に目がくらんだ澤村ゆかりと巻き込まれた日高恭に追われる事となる。

【名前】鬼姫
【性別】女
【年齢】約300歳
【職業】鬼
【身体的特徴】通常時の外見は人間と変わらない、若く絶世の美女、一人称は童(わらわ)
【性格】基本的に茶目っ気のある大人の女だが、その実人間を食料としてしか見ていない。気に入った人間は愛でるがペット程度の認識である
【趣味】人間社会に紛れて人間観察、人間を愛でること
【特技】人間への擬態
【経歴】京都を塒にする悪鬼
【好きなもの・こと】かわいい人間
【苦手なもの・こと】醜い人間、陰陽師
【特殊能力】人間とは比べ物にならないほどの身体能力、指一本で常人を引き裂くほどの鋭い爪
【出身世界】陰陽魔道世界
【備考】
人間を喰らう鬼。
鬼の中でも特に強い力を持ち、数多くの陰陽師や修行僧を返り討ちにしてきた。
気に入った人間は寝床へ持ち帰りめでることを趣味としている。
飽きるまで遊び飽きたらそのまま食料として食べる。
人間体は仮の姿でありその本性は2メートルを超える悪鬼である。



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