There Will Be Blood
「まあ…………こんなところじゃなかろうか?」
天草道四郎の改造を受け、トニオはご満悦の様子だった。
この数時間で、床中もオイルまみれで天草自身も全身が石油屋の如く真っ黒になってしまっている。だが、彼の表情はやり遂げたという生きた表情だった。
「でも……こんなことまでしてもらっていいんですか? 天草さん」
「乗りかかった船だ。キミの気にすることじゃあない。それに……」
「仲間は多いに越したことはないからな。護ってくれよ? トニオ」
トニオは、現時点では天草を信用しきっている。
それは後の二人に、悲劇を齎すことになってしまう事を、今彼も、天草も知らない。
「油の匂いがするなぁ……そしてウェルダンになる肉の匂いも…」
「天草さんのいた場所にも僕みたいなロボットはいるんですか?」
「……ろぼっと…? うんんああ…からくりのことか? 残念ながら江戸にはお前のような複雑なのはねえ…だが近いのはできつつあるぞ……もうすぐ俺が完成させる」
「!?」
最後の言葉が少し引っ掛かったが、トニオは触れなかった。それどころでは決してない。
「天草さん! 後ろ!」
「む!?」
「ヒァアアアアハハハハハハハハハハ!!」
高笑いと共に、一人の男が天草に、背後から掴みかかりに来た。
だが、天草は辛くも躱す。
「オイオイオイ…どこのどいつだ手前は!」
「誰でもいいだろ? お前はローストビーフに挨拶をするのか? 牛さんありがとうって?」
「わけわかんねえよ」
「俺もだ。御託はもういいな?」
天草が構えると同時に、男も奇妙な構えを取る
人間らしい感情を保有しているトニオには、いまさっきやってきたばかりの男。
木原豪が異様に見えた。
「“煉獄掌”(れんごくしょぉぉおおおう)!!」
煉獄掌(れんごくしょう)
木原が最も得意とする技であり、掌に火球を携え、相手の喉を一握のもとに焼き切る基本技。
「お前さんも抜け忍か? まあそんなことぁどうだっていい……」
天草が、指で印を結び、床にその両手を翳すと同時に、さきほどトニオから飛び散ったオイルや二人の体表に付着していたオイルが、全て空気中に舞い上がり一つの球体を形成した。
「機遁・悪鋳強風火(オイルブローカー)……」
科学技術と忍術を合成した忍術・機遁忍術。
天草は、油面に波紋を立て、宙に舞わせた。そして高速で木原に向けて飛ばす。
水遁忍術に近いこの技。だが水と決定的に違うのは…
「てめえの火で煉獄に逝っちまいな」
「…………」
木原の掌に、油面が着弾した瞬間、木原の右腕が全体的に燃え盛る。
「……」
だが、木原は何も喋らない。熱さに悶えることも、のたうち回ることもせず、火が燃え移った瞬間から、何もせずに立ち尽くすだけ。
「…悪いけど……チープだ」
木原が動いたのは、その言葉のすぐあとだった。
一瞬にして天草との距離を詰め、彼の喉元で、燃え盛る右手を構えていた。
「マジかい……」
「………なああんた。ミルクセーキは好きか?」
次の瞬間、火球は天草の喉に押し付けられる。
天草が声を上げる間もなく、ひたすらに、肉が焦げる不快臭とチリチリと言う音が響く。
「俺は好きだ。クソ長いストローを使ってさ…ジュルジュルジュルジュルジュルジュルジュルジュルジュルジュルジュルジュルジュルジュルジュルルルルリィって、時間掛けて飲むのが好きだ」
天草は聞いてなどいない。
彼の意識は既に忘却よりも先の遥かかなたに逝ってしまったのだから。
木原は火が燃え移ろうした瞬間、その火を操り、体表に燃え移る瞬間に少しだけ浮かせたのだ。
まあそんなことはどうでもいい。
天草は死んでしまったのだ。
そしてトニオは見ているしかなかった。ただただ、呆けのように立ち尽くすだけ。
しばらくは、その演算能力を以てしても
「ゔぁああああああああああ」
「うるせえよ」
木原がそう吐き捨てた瞬間、トニオの喉にも何かが刺さった。
「“煉獄鎗”……ボケっとしてるから死んじまうんだよ」
「ゔぁああああ…っああ……」
「…あん?」
木原は疑問に思っていた。
何でコイツ。動けるんだ?
細長い槍状の煉獄鎗は、確実に喉の中心を捕らえた。
だのに即死せず、動いている。
「人間じゃあねえのか……?」
だが別に恐れる事はない。
意識の定まらない手負いを追うことほど、つまらないことはない。
「運がいいなあ……お前」
トニオは本当に運がいい
天草があのとき機遁忍術を使用し、オイルを収束していなければ、煉獄槍を喰らった瞬間に彼は火ダルマ。メインコンピューターが焼き切れて即システムダウンだ。
今、彼はパニックを起こしている。傷は決して浅くはない。
機械の肉体も、仮初の心も。
「運がいいなあ……お前」
フラフラと去り行くトニオを何もせず見逃すと、木原は凭れかかっていた壁から身を起こし、倒れている天草の死体と、放置されているデイパックに目をやった。
「……俺はここにいるぞ…さっさと現れろクソガキ共」
木原は、デイパック及び天草の死体に火を点けると、その民家を後にした。
【一日目・黎明/5-D 民家】
【木原豪@非日常的現代世界】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1〜3
【思考】
1:日高恭と澤村ゆかりを殺す
2:邪魔する奴は皆殺し
3:トニオは追わない
※天草道四郎の支給品、及びトニオの支給品はドリル以外全て燃やしました
【一日目・黎明/5-D 住宅街】
【トニオ@仮想SF世界】
【状態】喉部分に木原の“煉獄鎗”が刺さっている、出力強化、両手ドリル、火力UP
【装備】スチームエンジン@スチームパンク江戸時代、ドリル@仮想SF世界
【道具】なし
【思考】
1:ゔぁあああああああああああああああああああ
※スチームエンジンに引火して爆発するかもしれません
【天草道四郎@スチームパンク江戸時代 死亡】
【残り38人】
※5-Dの民家の一つがゆっくりと燃えています
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