Gott ist tot.








ラクリンは神様についてえ考える。

そもそも神様とはなにか。

人々を救う救世主?
否。この世界にそんな都合のいい機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)など存在しない。
どうしようもない悲劇や惨劇、理不尽はいまだ世界にごまんと存在する。
それに立ち向かい解決できるのは神ではなく巻き込まれた当人だけだろう。

この宇宙の創造主?
否。世界の始まりがいつだったか、どうやって生命は誕生したのか。
そのすべてはすでに科学の力によって解明されており、そこに神様なんて存在の介入する余地などない。
故に、人は神から創られた産物などではない。
神こそが人が創りだした偶像の産物である。

以上がラクリンの見解だ。
いや、ラクリンのみならず、現代では極々一般的な見解だといえるだろう。

宇宙航空学の発展に伴い人類の行動範囲は圧倒的に広がった。
星雲を超え、銀河を渡り、そこに点在する惑星を渡り歩き。そしてついに宇宙に生きる自分達以外の知的生命体の存在を知った。
銀河史に残る交流が始まり、互いの文化、技術、繁殖が交錯する。
知らぬ法則、知らぬ常識、知らぬ技術。
それは互いに相乗効果をもたらしあらゆる技術は未曽有の発展を遂げることとなる。
その中でも飛躍的な発展を遂げることとなるのが次元工学である。
次元を超える技術の発展。
かつて宇宙航空以上に夢物語とされたその技術はついに多次元宇宙の存在を認識し、さらには異世界にわたる手段も技術として確立した。
当然その技術の管理は悪用されぬよう、銀河政府によって厳重に管理されているため一般人には縁のない代物なのだが、その事実は子供だって知識としては知っていることだ。
そんな宇宙人、異世界人との交流も進み、宇宙を超え、次元すら超えたそれこそ神のような力を人類が操るこの時代に、神様なんて存在はナンセンスだ。

だが、それでも未だに神を信仰する人間は少なからず存在するのも事実だ。
その理由は様々なものであり。
先祖から代々受け継がれた信仰もあれば神の啓示を受けたと言い張るものもいる。
理由は多々あれど、その全てに共通するものが一つある。
それは"救い"である。
信仰とは救いのために存在するもの。
信じる者は救われる。
別にそれを否定するつもりはない。
絶望の淵にいたラクリンがケイスケに希望を見出したように。
絶望の底から神様に希望を見出す人間だっているのだろう。

否定するつもりはないが、行き過ぎた信仰や忠誠心。つまりは度を過ぎた思い込みは時に他者にとって害となることもある。
宗教間の戦争など今の時代になっても珍しいものではない。
信仰の押し付けや、勧誘なども非常に迷惑な話である。

「ハハハハハハハハハハッ! 祈れ祈れ。お前も祈れ!
 我らが邪神様に向かって。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

男の高笑いが森の中に木霊する。
その声を聞きながしつつ、肩を落としながらラクリンはつぶやいた。

「…………いや、まったく。迷惑な話だよね、ホントに」



世界は汚い。


この世界は醜い欲望と汚物にあふれている。
戦争、諍い、犯罪、差別、貧困、侮蔑。
決してやまぬ戦火の炎。積み上げられる屍の群れ。
人は理解できぬモノを決して受け入れない。
人が人である以上、争いはなくならず悲劇は生まれ続ける。
異端を迫害し、異物を排他し、異能を拒絶する。
理解を放棄し、寛容を淘汰し、思考を破棄する。
欲望を開放し、罪悪を傍観し、自己を肯定する。
外敵を殲滅し、内敵を抹殺し、味方を裏切る。
在りもしない悪を押し付け。
在りもしない敵を祭りあげ。
在りもしない正義を騙る。
なんて醜い人間の悪性。
求め、奪い、侵し、殺す。
妬み、嫉み、争い、殺す。
愛し、求め、縛り、殺す。
喜びのため殺す。
怒りのまま殺す。
悲しみにより殺す。
楽しみながら殺す。
食い散らすように吐き出される悪意
弱者を食い物にする者たち。
強者に淘汰される弱者たち。
聖者を貶める悪意。
悪に手を染める聖者。
醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。醜い。
汚い。汚い。汚い。汚い。汚い。汚い。
絶望と悪意で侵された世界。
欲望と汚物にまみれた世界。
悲劇と惨劇が溢れた世界。
なんて醜い。

こんな世界は一度滅んだほうがいい。

祈れ。
祈れ。
皆祈れ。
神に祈れ。
世界を破滅に導く神に祈れ。
人は死ね。
豚は死ね。
犬も死ね。
馬も死ね。
猫も死ね。
こんな世界に生きるものなど全て死ね。
不平等な生を嘆くなら平等な死を選べ。
創造のためには破壊が必要だ。
祈れ。
祈れ。
新しい世界のために皆祈れ。
美しい世界のために皆死を祈れ。
明日のために死ね。
希望のために死ね。
救いのために死ね。
世界のために死ね。
己ために死ね。
死ね。
死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。





それが、ケイネス・アネイルの信仰する宗教である。

信仰が人を救うものだというのならば、
その宗教のあり方は恐らくして正い。

ケイネス・アネイルの絶望は深い。

その絶望は幼き頃、母を魔女狩りの槍玉に挙げられた事にはじまる。
惨たらしく手足を磔にされ、見世物のように弄り殺された母の姿を彼は一生忘れることはないだろう。

それから続いたのは迫害の日々だった。
たとえ親を失おうとも、魔女の子という異端の烙印を押された人間に分け与えられる慈悲などない。
いや、そもそも異端者とは人ですらない。
人でないものが人扱いされるはずもない。
意味もなく暴行を受け、小便が赤以外の色だったためしがない。
眠る場所もなく、雪の降りしきる日は凍死仕掛けたことも幾度もあった。
満足に食うこともできず、木の実や虫をとらえて食いつなぐ日々。
栄養など取れるはずもなく痩せ細り、それでも容赦なく続く暴力の嵐。
そんな理不尽に晒されたところで、力ない幼子にできることなどありはしない。
できることといえば、精々祈る事くらいのものだろう。

だから祈った。
この世界を創りたもうた慈悲深い神にではない。
この世界を壊してくれる邪神に祈った。

祈った。
祈った。
祈り続けた。
殴られ蹴られ激痛に苛まれた日も。
気絶したまま雪の中に放置された日も。
空腹の余り泥水を啜り、雑草を喰らった日も。
そして今、理不尽な暴力にさらされているこの瞬間も。
祈って祈って祈り続けた。
それは、この世が美しいものだと勘違いした聖者たちの薄っぺらい祈りではない。
心の底から漏れ出した、血反吐を吐くような魂の祈りだった。


そして、ついにその生命が終わりを告げようとした、その瞬間。


祈りが、届いた。


鶏を縊り殺したような悲鳴が響いた。
祈りは彼を救い彼を虐げていた者たちを引き裂いた。
気付けば、絶対的強者だった彼らはみな腸をぶちまけて物言わぬ肉片と化していた。

血だまりの中で、それを見て彼は笑った。
母が死んで以来初めて声を出して大笑いした。
痩せ細り、長らく使われることのなかった喉が酷く痛んだが、それ以上に愉快だった。

こうして彼は救われた。

狂気は彼に安定をもたらし。
その狂気に触れれば触れるほど、彼の心は安定し平常を取り戻していく。
深い深い狂気の底はまるで母の胎内にいるような安心感を彼に与えた。

信仰が人を救うものだというのならば、
この宗教のあり方は恐らくして正い。

そして今日も彼は祈る。
眠り際、世界の破滅を謳うように。
食事時、人類の滅亡を願うように。
全ての滅びを願いながら。
純粋な祈りを捧げ続ける。



冒頭より時は少々さかのぼる。

腹ごなしを済ましたラクリンは元気いっぱいに市街地を出発した。
彼女の目的は情報収集に、知り合いとの合流。
そして弱者の保護。
正義の賞金稼ぎを目指すラクリンとしては当然の行動である。
誘拐犯という悪者から颯爽と自分を救いだした正義の味方。
それこそが彼女の憧れなのだから。

そして、しばらく進んだところで、ラクリンはふらふらとおぼつかない足取りで歩く男を発見した。
駆け出しとはいえラクリンとてプロの賞金稼ぎである。
素性のわからない相手にいきなり接触するような無策は行わない。
ひとまずラクリンは近くの茂みに身を隠し、相手の様子をうかがうことにした。

男はなにやらブツブツと独り言を唱えており、顔色は悪く、目の焦点もあっていない。
一瞬、薬物依存者かと思ったがそうではなさそうだ。
聞き耳を立ててみれば何故、神様、不平等などの単語が聞き取れる。
このような事態に巻き込まれ茫然自失となった一般人だろうか。

そう思案し男を保護すべきかと考慮したラクリンだったが、彼の持つ槍の穂先が赤く染まっていることに気付いた。
言うまでもなくそれは人間の血液だった。
よく見れば彼の顔にも殴られたような痣が見える。
どうやら、ここに来るまでにひと悶着あったようだ。
危険人物である可能性も高いが、襲われそれを撃退しただけの被害者である可能性も否定できない。

どちらにせよこのまま放っておくわけにはいかない。
無力な被害者であるのならば保護を、危険人物であるのならば制圧をしなければならない。

「動かないでください。
 おとなしくしていれば、こちらから危害を加えるつもりはありません。
 ですので、2、3こちらの質問に答えてください」

茂みから身を露わにしたラクリンは男の背に銃口を突きつけながら、できる限り相手を刺激しないよう言葉を選びながらそう言った。
相手の素性がわからない以上、この状況下においては適切な行動であるといえるだろう。

だが、その行動は男、ケイネス・アネイルが彼女を敵であると認識するには十分な行動だった。

「………………――――お前もか」

ポツリと漏れた呪詛のような一言。
瞬間、男を中心として黒風が吹いた。

「なっ――――!?」

吹き荒れる風はラクリンを掠め、僅かにその頬を引き裂く。
それに対するラクリンの対応は迅速だった。
咄嗟に後方へと身を翻すと手ごろな大樹に身を隠し、それを盾として黒風をやり過ごす。

「…………小賢しい」

だが、息をついたのも束の間。
次の瞬間、彼女が身を預けていた木の中腹が唐突に弾けんとんだ。

「…………マジ?」

慌ててラクリンは大地を蹴り別の木の蔭へと飛び込んだ。
それと同時に、先程までラクリンが隠れていた大樹が吹き飛び、音を立ててへし折れる。

そして、そのまま人が変わったように笑う男とのおにごっこやらかくれんぼやらを繰り返し、

「そして、今に至る、と」

つぶやいたラクリンの背で乾いた音を立てて木の表皮が弾け飛んだ。
恐らくは、この木も長くは持たないだろう。

「…………さて。ほんと、どうしよう」

駆け出しとはいえラクリンも賞金稼ぎだ。
異世界人、宇宙人のあふれるこの時代。自分の知り得ない能力を持った犯罪者相手に立ち回ることなどざらにある。
この程度の事態で諦めるような根性はしていない。
いないのだが、敵の攻撃は正体不明、これといった対策も思い浮かばない。
木々を利用し逃げ回ることはできるのだが、敵を無力化し拘束するというのは非常に困難だ。
放たれているのは銃弾でもなければ、そういう体質の宇宙人というわけでもない。
対応法はおろか、何を奪えば無力化できるのかすらわからない。
賞金稼ぎとして経験の長いケイスケであれば相手の攻撃の正体に思い至る可能性や未知の能力に対する手立ても思い浮かぶのだろうが、
残念ながらラクリンには経験値が足りないためそんな方法は思いつかない。

いやいや、と首を振って弱い考えを否定する。
ないものねだりをしても仕方がない。
自分は自分なりに持ちうる手札で戦うしかない。
覚悟を決めて相手を見据える。
世界の治安を守る賞金稼ぎとしてあんな危険人物を放置しておくわけにはいかない。
故に逃亡という選択肢はありえない。
原理の解明は重要ではない。
重要なのは対策と対応。
原理こそわからないものの、敵の攻撃のパターンはわかってきた。
大まかな攻撃パターンは二つだけだ。
黒い風のような攻撃と大木をへし折った謎の攻撃。
黒い風は攻撃範囲は広いく対処しづらいが、威力は大したことはない。
ある程度の手傷を覚悟すれば強引に突破できなくもないだろう。
そして、もうひとつの謎の攻撃。
攻撃力は高いが精度はいまいち、さらに連射もきかないようである。
まともに食らえば一発でお陀仏だが、当たらなければどうということはない。

ここまでならば自分一人でも対応できる範囲だとラクリンは思う。
一番の懸念材料は相手に攻撃以外の能力があるかどうかである。
最大限の警戒は払うとしても、実際のところ出たとこ勝負で臨機応変に対応していくしかない。
何より宇宙人を父に持つラクリンには肉体をゲル状に変化できるという能力を持っている。
そのため彼女の肉体を拘束するのは困難であり、相手の出方に対してもある程度は対応できるはずだ。

「……いける、いける。私はやれる」

己を鼓舞するように小さくつぶやく。
背中の大樹が弾け飛び盾としての役割を完全に終了する。
それを合図にラクリンは弾けるように飛び出し、己が正義感に基づき行動を開始した。

【一日目・黎明/6-F 草原】
【ラクリン@仮想SF+ロボット世界 】
【状態】健康
【装備】掌筒 @スチームパンク江戸時代
【道具】支給品一式、トースト(18/20)@現実、不明支給品0〜1(確認済み)、情報ノート(基本支給品)
【思考】
基本:殺し合いを止める。
1:ケイネスに対処、制圧する
2:知り合いに会いたい。特にケイスケ。
※ルナ(名前は知らない)をアークの敵対者と考えています

【ケイネス・アネイル@近世西洋風異世界】
【状態】体力消耗(小)、全身殴打、躁
【装備】正宗
【道具】支給品一式×2、不明支給品1
【思考】
基本:教会関係者は皆殺し。同時に賛同者も募る
1:目の前の女を排除
※黒魔術で対象を攻撃することが可能ですが、使うたびに体力も消耗します
※黒魔術は魔力的な力を行使できる者には効きません



【支給品名】掌筒(しょうとう)
【出身世界】スチームパンク江戸時代
【外見】いわゆるパーカッション銃
【効力】装弾数は一発だが、口径が大きいので威力は高め
【備考】
鉄砲術に優れる根来忍者の使う、個人用小型拳銃。
現実世界で言う旧式の「デリンジャー」に近く、
管打式の先込め拳銃で、装弾数は一発だが、威力は高い。
銃身が短い上にライフリングがなく、射程距離は短い。
特殊な火薬を使うので、天候には一切左右されず、発射可能。



前話   目次   次話