Royal Rumble






「くたばれッ……! 畜生っ……!」
「死になさい!」

 草木も消沈してしまうほどの闇夜の中、
二人の若人が猛獣の如く一斉に咆哮する。
ケイスケ・サカキは旧時代の愚物を駆使し、
ソフィー・パノフは新世紀の傑作を操り、
目の先にいる悪党を、自分の邪魔をするものを、
排除するために一点集中をし狙いを定める。
嫌になるほどのこの臭いを嗅いだ、この場に呼び出されるずっと前から、
彼らと共に行動し続けているそれらは、血潮を好むかのように幾度となく体をかすめ、
気力体力を根こそぎ奪っていった。

 これが最後の一撃、はずせば自分が生き残り、相手が息途絶える。
二人は互いに生命を一撃で奪う所を狙い、それを弾いた。
何度も拝聴せざるを得なかった金属音をかましながら、
相手の下へ餌を見つけた猛獣の如く押し寄せる。
これですべてが終わる、生き残るのは自分。
両者がそう確信した。

 数秒後、この豪華な祭りを開催した地点から目を瞑って向かっても、
何一つ事故が起きることはないと絶対の自信を持って言えるほど、
とてつもなく近場である4-Fには、
三つの人間ではないものが、体内の血を曝け出して、
路上の石のようになんの意識を持たず存在することになった。

◇  ◇  ◇

 いま何が起こっているのか、どういう状況なのか、
バッグの中には何が入っているのか、やつらをいったい何者なのか、
そういう、所謂とんでもない状況をどう立ち回るかを考える以前にケイスケが耳にせざるを得なかったことは、
自分にとって馴染み深いといっても過言ではない銃声であった。

 ケイスケは決して焦らず、あたかも何事もなかったように落ち着いたまま
その音の先へと一歩一歩地面を踏みしめ近寄る。
宇宙空間とまではいかない暗闇の中、彼が目撃した光景は、
年の功は二十歳にも満たしていないであろう西洋風の衣を着、整った顔をしている女性が
自分の相棒をしっかりと握り締め、一人ポツリと存在していた。
いやそこにいたのは彼女だけではなかったであろう、
少なくとも銃声が聞こえるほんの数十秒前までは。

 ケイスケは十分すぎるほど『それ』を見てきている、
いまさら驚くことはない、だが何度もみているからこそ今回の『それ』は、
寂しく切なくむなしく感じる。
と同時に野放図な出来事に対してに歪みのない怒りが、
マグマのように沸々と湧き出てくる。
何の因果か、今回の原因は自分の長年付き添ってくれた相棒。
相棒によってもたらされた出来事は、まだ15にも満たない小さな女の子の命が強奪されたことであった。

 自分の相棒を持った女は体液をぶちまけている物体が所持していたであろう、
バッグを手に持ち、まるで価値を一切持たない虫けらを見るような、
そんな目で少女を一瞬だけ見つめ、軽やかにその場から去ろうとする。

 ケイスケは海を渡るために船に乗るように、至極当然に彼女を排除することを決める。
幼い子供を何の感情もなく、ごみ同然の扱いをする、
そんな人物を生かしておくのは何の意味もない。
ケイスケは自分の持っているバッグをあさり何かやつの息の根を止めることが
安易にできる武器を探してみる。
出てきたのは、自分の相棒より遥かに歴史を感じさせる、
古典品と言っていいほどの自動小銃であった。

ケイスケはそれを十分すぎるほどしっかり握る。
距離は30メートルもないであろう、幸いこちらの動きは気づかれていない。
呼吸を乱さず、大地をしっかり踏みしめ、
人の顔を被った外道の下へ近づく。

 完全に射程県内に進入した。
ケイスケはそう確信し握り締めた鉄砲の銃口を外道に向ける。
くたばれ……
ケイスケはただ何の感情もこめず侮辱の言葉を口ずさみ、
古典の引き金を弾く。
弾丸は勢いよく放たれ風を切って進む。
だが、その弾丸は外道に接吻することはなかった。

 外道ははじめから弾丸が来ることがわかっていたかのように
首を少し傾げるという簡単な動作で脳髄と接触するはずだった弾丸を避ける。
そうして避けたあと彼女は弾丸が放たれた方向にすばやく向きを変え、
少し口唇を開き、ほんの僅かに歯を見せ、手に持っている自分の相棒をもこちらに向け……

 まずい。
 ケイスケは手早く勢いをつけ脇に飛び込む、
その途端自分の真後ろにあった立派な樹木から雄叫び声が聞こえ、
木片が飛び散る。

「っ……!」
十分すぎる大きな音を立てて外道が舌打ちをする。
だがすぐに握り手をあげ自分に向けて銃口を向ける。
ケイスケも同様に古典を構える。
そうして始まるものは、言わずもがなだ。

 まず外道が先手で発砲する。
鉛玉は自分を目標に襲い掛かってくる、
だが怖気つくこともなく、物陰に向かって飛び込み回避する。
瞬時に回避できたかを確認するまもなく、物陰から一発こちらからも鉛玉を開放する。
しかし外道も同じように物陰まで飛翔し弾丸の接触を回避する。

 しばらくは物陰での打ち合いが続いた、
なんとか相手の肩に僅かの回数だがかすらせることができた。
同様に自分も肩に数発弾丸をかすられてしまったが。

 そんな状況を芳しく思っていなかったケイスケは一度発砲をやめ、
相手の弾丸が尽きるまで待機する作戦を取る。
もっともその行動の意図を簡単に理解され、
外道も無駄打ちをすばやく停止する。

   一分二分、決して短いと言えない時間が流れる。
この時に動いていると言えるものは、自分たちを嘲笑うかのように
草木を揺らす微弱な風だけであった。

   膠着状態が長々と続くのを感じ取り、
このままでは埒が明かない、ケイスケはあえて姿を現し、
外道との簡易決着を狙うことにした。
無論これには大きなリスクが生じる、
下手をすれば自分の命を落とすことも十二分に考えられる。
だがこのままの方が一層あざとい出来事が出現した場合の方が
もっとリスクがあると思索する。

 大丈夫だ、今まではこんな出来事より辛い時だって何度もうまく立ち回ってきたじゃないか。
ケイスケはそう考え、汗でべた付いた手をズボンの生地で簡単にふき取り、古典を握り締める。

最高は無傷で奴を倒すこと、最悪自分の眼球や足や腕一本献上することにもなりかねない、
だがそういったリスクを背負っていても、今この時に奴の息の根を止めなければならない。
これはケイスケが慢心や自身を過大評価してわけでも、当然相手を過小評価して判断しているわけではない。
だからこそ、幼き子供を容赦なく殺した外道の息の根を止めなければと。
ケイスケは大きく深呼吸をし、改めて古典を十分すぎるほど握り締め、
物陰から飛び出し、構える。
それを見計らってか、外道も待ってましたとばかりの表情を表し、
相棒の銃口をこちらに向けた。

 ──ここで、場面は冒頭に繋がる──

 二人の打ち合い、その結果は……
ケイスケが醸す弾丸は、彼の狙い通りにソフィーの眉間を貫いた。
けれども、その眉間を貫く代償が、彼の予想以上に強大なことであった。
ケイスケは読み間違えていた、
彼は相手は精々武器の取り扱いがうまいだけの人間だと勘違いしていた。
自分ほどの実力者はそうあまりいるものではない。
だからこそ無謀とも言える作戦を実行したのである。

 しかしソフィーは彼と同じように鉄砲を取り扱う技術は誰よりも特化していた。
そうであるから彼女はケイスケが飛び出してきた瞬間、彼の脳天に向けすばやく発砲した。
彼女も自分ほどの使用者は、あまり存在しないということを信じて。

 そう、この二人の銃撃戦の結果は、
ケイスケは見事にソフィーの眉間を打ち抜き、
ソフィーは非の打ち所なくケイスケの脳天を貫いた。
これがスタート地点からさほど離れていない、
4-Fでの殺し合い開始から一時間にも満たない時に起きたイベント。

 この世には、誰からも歓声をもらい、世界から感謝されるヒーローはいない。
激情を煽り、非難の声を常時掛けられるヒールも存在しない。
反吐が出るような出来事も、目を見開いて喜ぶことも、
すべての生命が平等に或いは均等にドラマを経験する。
そこには善悪の違いはない。

 一人の小さき命が消え、二人の戦士の魂の炎が同時に消える。
これは決して、無情の悲劇でも、残酷な奇跡でもない。
何が起こるかわからない、人の生きる道の、ただ一つのドラマ。

そしてそれが

 バトルロワイアルと言うものだ。

【黎明】

【ソフィー・パソフ 死亡確認】
【ケイスケ・サカキ 死亡確認】
【奈乃       死亡確認】
【残り39人】


※4-Fには三者の支給品が散在しています。
 なお彼らが所持していたものは
 ソフィー:マルチショット、不明支給品(0〜2)
 ケイスケ:デザートイーグル・レイトカスタム、不明支給品(0〜2)
 奈乃  :不明支給品(1〜3)
 となっております。



【名前】ソフィー・パソフ
【性別】女
【年齢】18
【職業】修道士・異端審問官
【身体的特徴】背はい低いがスタイルがいい
【性格】温厚で心優しい。が、異教徒らには容赦しない
【趣味】修行
【特技】銃
【経歴】10歳の時に「夢の中で神の使いと対話する」という経験をする。それ以来敬虔な信徒に
【好きなもの・こと】 修行 倹約・禁欲
【苦手なもの・こと】 贅沢・商売・異教のもの
【特殊能力】銃の名手。狙った的は、百メートル程度の距離ならまず外さない
【出身世界】近世西洋風異世界
【備考】
教会関係者からすらも「宗教に魂を売った哀れな女」と言われてしまうほどの熱心な信徒。
当然錬金術師を初め異教徒たちを憎んでいて、あわよくば逮捕しようとしているほど。
錬金術師という噂のあるアーニャのことを執拗にマークしている。
が、詰めが甘く、いつも取り逃がしている。

【名前】ケイスケ・サカキ
【性別】男
【年齢】29
【職業】フリーの賞金稼ぎ
【身体的特徴】黒髪、浅黒い肌
【性格】無口だが面倒見がよく、苦労人
【趣味】酒、バイク
【特技】射撃、自己流格闘技
【経歴】元次元間の武装組織所属。過去にあった事件により辞職
【好きなもの・こと】バイク、白ご飯、焼酎
【苦手なもの・こと】甘い物
【特殊能力】異世界や平行世界に理解有
【備考】
次元犯罪者を追う賞金稼ぎ。主に単独行動だが、腐れ縁とも呼べる仲間が数人。
過去に自分のミスで凶悪犯罪者を取り逃がして以来、その犯罪者を執拗に追っている。

【名前】奈乃
【性別】女
【年齢】14
【職業】巫女
【身体的特徴】触れると消えてしまいそうな白い肌、頬に大きな紅い痣。髪はショートくらい
【性格】大人しめ、場に流されない
【趣味】居眠り
【特技】小動物を捕まえること
【経歴】元は陰陽師の一族。家族構成は妖怪退治屋の兄、育ての親の和尚
【好きなもの・こと】煮魚、お団子
【嫌いなもの・こと】悪い人、粉雪
【特殊能力】触られた物・者の目に入らなくなる呪い、封魔術(ただし下手)
【出身世界】陰陽魔導世界
【備考】
陰陽師の家系だったが、妖怪に家族を殺され兄と共に孤児となった。
その際、親か妖怪かどちらかは分からないが呪い(頬の痣)をかけられる。
彼女に触れたものは以後、彼女の姿を捉えることが出来なくなってしまうのだ(姿のみで声や足音は普通にする)。
その後の変遷はだいたい兄と同じ。



【支給品名】デザートイーグル・レイトカスタム
【出身世界】仮想SF+ロボット世界
【外見】一般的なデザートイーグル
【効力】最強の自動拳銃
【備考】レイト・ブランドが好んで使う自動拳銃。この世界では旧時代の遺物とされている

【支給品名】マルチショット
【出身世界】仮想SF+ロボット世界
【外見】シルバーのリボルバー。
【効力】様々な特殊弾頭を撃てる片手銃
【備考】
ケイスケ・サカキの扱う拳銃。
粘着弾や氷結弾などの特殊弾頭を扱える。
リボルバー型スイッチの切り替えで放つ弾丸を選択できる。
同時に扱える弾丸の種類は6種類で各弾丸が6発ずつ込められる。



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