バトロワ、夜のパン祭り






綺麗なキツネ色に彩られた表層部。鼻をくすぐる芳しい匂い。
大口を開けてかぶりつくと、歯に伝わるカリッとした感触。
サクサクとした食感に加えて、ふんわりもっちりした中の質感が口の中に広がる。
口の中の水分が減っていくが、じゅわりと染み出る厚く塗られたバターで気になる事は無い。
焦げ茶色に焼かれた耳は歯応えがあり、カリカリと香ばしい。

「おいひぃ………」

とある民家のリビングで、一人の少女が満面の笑みを浮かべていた。
ポニーテールに結われた真紅の長髪、大きな青い瞳。
身に付けている物は年頃の少女にしては色気がなく、ノースリーブの革ジャケットにグレーのシャツ。
ミニスカートから延びる黒いタイツに包まれた脚には、丈夫そうなブーツに覆われている。

少女が腰かけている簡素な椅子の前にはこれまた簡素なテーブルがあり、その上には様々な物が乱雑に置かれている。
素朴なデイパック、参加者名簿、ノート、ペン、バター、ジャム、蜂蜜、紅茶の入ったカップ。
その中で最も目を引くのが―――大皿に山のように積まれた、トーストの山。

「シンプル・イズ・ベストとはよく言ったものよねー……やっぱ焼き立てのトーストって最高」

もぐもぐ、むしゃむしゃとトーストに被りつきながら呑気に呟く彼女の名は、ラクリン。
職業:駆け出しの賞金稼ぎ。宇宙人と地球人の間に生まれたハーフにして、とあるベテラン賞金稼ぎのおっかけ娘。

「とりあえず、ケイスケやトニオやビリーくんを探さなきゃいけないんだろうけど……
 状況もイマイチ把握できなくて、ロクな情報が無い異常……無闇に動き回るのは危険だよね」

そうそう呟きつつ、テーブルに広げられたノートにペンを走らせる。

―――当面の課題:情報収集。

よし、と口いっぱいにトーストを入れたまま頷くラクリン。
たった今課題を書き足されたノートには、いくつもの箇条書きが並んでいた。

―――現在状況:大人数による殺し合い、俗に言うバトル・ロワイヤルを強制されている。
―――何らかの大規模犯罪に巻き込まれたと思われる。組織犯罪の可能性?

―――主催者:最初に集められていた広間の様な所で、「アーク」と呼ばれていた。
―――アークと一緒にいた老女は「エウローペ」と呼ばれていた。
―――アークはエウローペに「陛下」と呼ばれていた→どこかの王様?
―――名前を呼んだ猫の様な女の子は知り合いかつ敵対者?参加者なら接触してみる価値アリ。
―――「テイル」と呼ばれた黒髪の男は要注意。でもちょっとカッコよか(塗りつぶされている)

―――参加者:私以外に、ケイスケ、トニオ、ビリーくん、レイト・ブラントの名前を発見。
―――何故かビリーくんに至っては(仮名)まで付いている。意図は不明。
―――名簿の名前は「漢字」で書かれている名前が多い。→選抜に理由アリ?
―――レイト・ブラントは要注意。上手く捕まえれば賞金ゲットだが、多分そんな余裕は無い。

―――首輪:自分では解除不可能。機械に詳しいトニオあたりに頼るしかない。

……エトセトラ、エトセトラ。
現状に対する最大限の状況把握……駆け出しの賞金稼ぎとしての、ラクリンがとった行動。
ノートにびっしりと書かれたそれは、彼女が民家に転送されてから、ただトーストを齧っていたわけではないと主張している。

彼女とて、何の変哲もない人生を生きていたわけではない。女ながらに賞金稼ぎなどという職についているのには十分な理由もある。
宇宙人と地球人のハーフ……それも自らを液体のように変化させる事が出来る珍しい種族の娘。
その数奇な生まれによって、彼女は幼い頃に両親から引き離された。
荒れ果て秩序の崩壊した世界にどこにでもいるような、人々売買の組織だった。
そして数年前まで……敬愛する賞金稼ぎ、ケイスケ・サカキに組織が潰されるまで、彼女は「見世物」として扱われ続けた。
ヒトとして生まれながら、モノとして見られる状況下。
結果彼女が手に入れたのは、犯罪者へ対する憎悪と、苦難にもへこたれない不屈の精神。
ケイスケに「それだけは、この職業に就く中で認めてやってもいい」と褒められた事だった。

「ケイスケなら、この状況でももっと色んなこと考えれるんだろうなぁ……
 早く会いたいなぁ……もふ」

もふ、というのは彼女がトーストに再び齧りついた音である。
リビングの窓から見える月夜に想いを馳せる。
会いたくても会えないもどかしさに、むしゃくしゃしてトーストを噛み千切る。

薄暗い夜の民家に、むしゃむしゃという音だけが聞こえていた。


【一日目・深夜/6-G 市街地】
【ラクリン@仮想SF+ロボット世界 】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、トースト(18/20)@現実、不明支給品0〜2(確認済み)、情報ノート(基本支給品)
【思考】
基本:殺し合いを止める。
1:とりあえず情報が足りない……
2:知り合いに会いたい。特にケイスケ。
※ルナ(名前は知らない)をアークの敵対者と考えています



【名前】ラクリン
【性別】女
【年齢】19
【職業】駆け出しの賞金稼ぎ
【身体的特徴】赤毛の長髪、青目
【性格】穏やかで人懐こいが、芯の強い性格
【趣味】ケーキ屋巡り
【特技】体術
【経歴】宇宙人と地球人のハーフ
【好きなもの・こと】甘い物、昼寝、ケイスケ
【苦手なもの・こと】悪人、水(カナヅチ)
【特殊能力】宇宙人の血の影響で、体の一部をゲル状に変化させられる
【出身世界】仮想SF世界
【備考】
宇宙人の父と地球人の母を持つ。父が珍しい宇宙人であった為、幼い頃誘拐されて見世物にされていた。
後にケイスケに助けられ、彼に恩返しとの名目で着いて回っている。
現在の目標は両親を探すこと。



【支給品名】トースト
【出身世界】少なくとも食パンが存在している世界全般
【外見】食パンをオーブントースターで程よく焼いたあの感じ
【効力】食べたら腹が膨れる。ジャムとかを付けると良い。
【備考】
「俺の名前はレイ・レーストだ、食べ物じゃない」



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