Break Down The Walls







「兄上……! どうして!?」
ルナ・ノーグ・ブランズウィックは思わず声を荒げる。
仇敵であるアークの手によってわけもわからない境遇に巻き込まれ困惑し、
右往左往しかけていたとき、自分の仲間であり兄であるエバンス・ブランズウィックと遭遇した。
ルナはとても嬉しかった、だがその感情は解けた氷のように無意味なものであった。
あろうことかエバンスは実の妹であるルナに向って発砲したのである。
最初は理解できなかった、無論ルナのいた時代には鉄砲は無い、
だが兄がそれを構えた瞬間おびただしい程の殺気が彼女を襲った。
そして放たれる激鉄、幸いにも弾は彼女に掠ることはなかったが。
「クックック……説明を読んだだけじゃあいまいち理解できなかったが……簡単だったな」
「どうしてです兄上!? なぜあいつらの指示に従うのですか?」
ルナが叫ぶ、それに嫌味な笑顔を浮かべるエバンス。
「馬鹿な、私が奴らの指示に従うと思うか?」
「では何故です!? なぜ私を殺そうとするのです?」
「邪魔だからだ」
その言葉を聞いたときルナはまるでこの世に最後を目撃したかのように目を見開く。
「邪魔なんだよ! ルナもラウニーも! 私は今まで誰も評価しようとしなかった!
 どいつもこいつもお前の心配か、ラウニーを推称しているかだ!
 奴らは憎い存在だ! だがお前達も同様に憎い! いや、それ以上にな!」
激情と侮蔑を混じった口調でエバンスは吠える。
「そんな……私も姉上も兄上のことを……」
「黙れ! 戯言に耳を貸す気にはならない! お前達をこの武器でぶっ殺した後、
 ゆっくり奴らを打倒するさ!」
そう言いエバンスは鉄砲をルナに銃口を向ける。
ルナはどうしようもない感じに襲われた。
どうしてこんな風になってしまったのか、
あるいは兄がこんなにも情けない人物だったのかと。
だけれどももうそんなことを考えることも無いだろう、
なぜなら自分は兄の持っている物体が私を貫くのであろうから。
ルナは自分を殺す兄の姿を見たくないと目を瞑った。
「私はルナなんかよりも遥かに優秀だ! お前みたいなくだらない奴より先には死なないんだよ!!」

「俺もそう思う」

銃声がとどろく、大きな音を立てて倒れる人間、飛び散る血潮。
そうして倒れ伏した人物は……武器を構えていたはずであったエバンスだった。

「んっん〜…… 優秀な奴は死なないか、正論だな。
 だけど残念ながらどうやら俺のほうが優秀だったようだな」

ルナはそっと目を開ける、彼女の目に映った光景は、
恐らく自分の兄、エバンスであったであろう物体が地面と接吻をしている姿。
そして兄の所持していた物体と──やや小さいが──同じようなものを構えている、
整った顔の形をした男が目の前にいた。

男はエバンスの持っていた物体とバッグを手にする。
マシンガンには愛嬌がねえなあとわけのわからぬ事を語りながら、
音を立ててバッグを探る。
しばらくすると男は残念そうな顔を浮かべて呟きだす。
「なんだなんだ、こいつに支給されていたのはサブマシンガンとその予備弾だけ、
 もうちょっと面白いものが入っていてもよかったのになあ
 折角こんな面白い場所に招待されたんだから」
「面白い……だと?」
それを耳にしてルナがやっと口を開く。

男はそれに気づきニイと悪意の無い笑顔を浮かべる。
「おや、やっと話せるようになったのかい? ああ悪いけど謝らないぜ、
 なんたって殺してやると叫んでいた奴をほっとくのはどうかと思ったんでな。
 それに、親兄弟が敵になるって言うことは十分にありえることだ、あんたも戦人だからわかるだろう?」
「私が言いたいのはそのことではない!」
男の発言は確かに正論だった。
たしかに兄を目の前で殺されたことは気にかけていた。
だが今彼女が浮かべている感情はそれとはまったく違ったことであった。
「何が面白い? どこが面白い? あんな悪魔のような男の娯楽に付き合うつもりなのか!?」
「ああ、そうだ」
ルナは若干声を荒げながら彼の発言に噛み付く。
だが彼は何のためらいも無く即答する。
「面白いじゃないか! 権力も富も名声も関係なく殺し合えだって? 
 過去現在未来において今まで神をも不可能だと思われたイベントを、一国の帝がやるんだぞ?
 そんな奇跡に近いことを楽しまなくてどうするんだ?」

何かが違った。
ルナは思わず絶句した。
この男は狂っている。
もちろん彼と自分は境遇は違う、
自分にとっては奴は仇敵、男にとってはただの主催者としかないであろう。
だけども、この考え方は狂っているとしか思えない。

「ま、これはあくまで俺の意見さ
 ルナちゃんが俺のことを狂っていると思っても俺は俺らしくやらせてもらうさ」
「……人の心を読むな、と言うかそれ以前になぜ私の名前を知っている?」
「んっん〜、ルナちゃんは本当に右往左往していただけなんだ、 
 ちゃんと自分の荷物を確認していなきゃ駄目よ」
まったくもっておかしい男だと改めて認識する。

男が言うことには、このバッグは中身には飲食類に会場の地図や参加者名簿など、
全員に均等に配られているであろうと物、
加えて男が言うに一番最初に確認しておきたいランダムに配られた支給品が入っているそうだ。
ちなみにいまさらいう必要もないが男が名前を知っていた理由は
名簿と直前の出来事によってだった。

「そういえば俺の自己紹介はまだだったな、
 俺の名はハーディー・ハーディー、趣味は戦いと女遊びだ」
男はふと思い出したように自分を明かした。
ルナは女遊びと言う言葉に少し引っかかったが、
特に触れてやるようなことはしなかった。
「んっん〜どうやらルナちゃんは結構冷たいようだねえ。
 まあいいさ、そのうち心も体も開かせて見せるさ」
ハーディーはなぜか苦笑しながらセクハラ発言をする。
ルナは何かを話すべきかと思うがどうもこの男はあまり良い印象をもてない。
一応ルナも自分に姉がいるということを伏せて軽く自分のことを話し、
とりあえず『ちゃん』付けで呼ぶなと言うことを告げた。
もっとも姉がいることに関しては名簿を見ている彼ならとっくに気づいているであろうし、
『ちゃん』の方はわざわざ返答に、
「わかったよ、ルナちゃん」
と言っていたため特に意味はないのであろうが。

それに答えるためなのか、ハーディーはさらに自分のことを語りだす。
雇い主であるハイマンという中年と、
あの広場にいた憎きテイルの両名に戦人として興味があるそうだ。
つまり早い話が彼らと戦ってみたいと言う事だった。

この発言をした後、
ハーディーは少しだけ真剣な顔つきでルナに対して口を開く。
「さて、俺はルナちゃんと違いやつらに対して積極的な反逆はとらない、
 よって進んでチームを作ることもない。
 それ以前に俺は人を一人殺している、他にも色々と印象を悪くしているだろう。
 しかし俺はそれなりに腕っ節がある。知識もあるだろう。
 さてそこで質問だ、ルナちゃんは俺と一緒の時を過ごすか?
 俺はとっても嬉しいだけだけど、ルナちゃんにとっては良い事ばかりじゃない、
 むしろ都合の悪いことが多いかもな。
 だから自分にとってどちらの方が得が多いのかよく考えてから答えてくれな」

ハーディーは危険だ。
ルナにとっての第一印象はそれであった。
容赦なく自分の兄を殺し、あまつさえ殺し合いを楽しむと言っている。

一緒の時を過ごす……即ち一緒に行動するということは、
自分にとって得なのか?
彼にはかなりの実力があるであろう。
一緒に行動すれば『乗っている』人物相手に有利な行動をとることができ、
結果姉や同じ志を持った仲間と出会う確立も増えるだろう。
けれども彼は殺し合いに対抗する人間であっても容赦なく戦いを求めるであろう。
それにテイルのような十中八九『乗っている』人物にも容赦なく接触を考えるはず。
すなわち致命傷を受ける可能性は低くなっても、危険な状況に陥ることが増えてしまうということだ。
結局、どちらが良しか悪しかは分からない。

月夜が滞る街中で彼女のだした決断は……

【エバンス・ブランズウィック 死亡】
【残り42人】


【一日目・深夜/6-A 街中】

【ハーディー・ハーディー@近未来の荒廃世界】
【状態】健康
【装備】ジェリコ941(15/16)
【道具】基本支給品一式、ジェリコ941の予備弾(80/80)イングラムM10(5/30)、イングラムM10の予備弾(150/150)
【思考】
基本:強い奴と戦いたい、美女にもあいたい。
1:強者であるテイルとハイマンには必ず会いたい。
2:殺し合いだろうがなんだろうが俺は俺いさせてもらうぜ。
3:ルナちゃんと一緒に行動したいな。

【ルナ・ノーグ・ブランズウィック@ファンタジー的異世界】
【状態】動揺、戸惑い
【装備】
【道具】基本支給品一式、不明支給品(1〜3個)
【思考】
基本:仲間を集めアークを打倒する。
1:ハーディーと共に行動するか否か……
2:仲間を集める。
3:兄さん……



【名前】エバンス・ブランズウィック
【性別】男
【年齢】18
【職業】反乱軍の魔術師
【身体的特徴】やや小柄で、醜いとも形容できるような顔付きの猫族
【性格】計算高く、姑息
【趣味】文学
【特技】策略、人を欺くこと
【経歴】かつて存在した王国の第一王子
【好きなもの・こと】権力
【苦手なもの・こと】運動、姉、妹
【特殊能力】熟練した精霊魔法(元素の精霊に働き掛けて自然現象を意図的に発現する魔法)
【出身世界】ファンタジー的異世界
【備考】
ラウニーの弟。
ラウニーが王位継承者になっているのが気に入らず、帝国を倒した後にラウニーを暗殺することを画策している。
しかし実際には姉に対するうらやましさと言う感情もいくらか混じっている。
身体は弱い。

【名前】ハーディー・ハーディー
【性別】男
【年齢】27歳
【職業】自由人(現在はボディーガード)
【身体的特徴】身長180cm 若干筋肉質 短髪、ハンサム
【性格】自由奔放 気分屋 少しナルシスト
【趣味】喧嘩、死合、美女と遊ぶ、適当な慈善活動。
【特技】何でも一時間ほどで完璧にマスターできるから特筆するものは無し。
【経歴】世紀末を自由奔放に生きる超人。
【好きなもの・こと】喧嘩、美女、酒、強い奴と戦うこと。
【苦手なもの・こと】強いて言うなら人の上に立って指示すること。
【特殊能力】何でも一時間ほどで完璧にマスター出来ること。強運。
【出身世界】近未来の荒廃世界
【備考】
大戦中の最も活躍した兵士。
拳銃や戦車など新時代の武器や兵器から弓や刀などの旧時代の武器まで操れ、
学問、政治、人身掌握術、軍略、芸術、電子機器の扱いなどにも心得ており、
おまけに初めて知ったものや触ったものでも一時間程度で完璧にマスターできるという、
なんと言うかチートというレベルではなく存在自体がバグである。
本人がその気になれば世界征服など糸も簡単に出来るが、
面倒なのと彼自身上に立つのがあまり好きではないのでやっていない。
ちなみにヴィオラやクラウン、リディアらが住んでいるスラム街をつくり最初に統治していたのは彼であった。
理由は特にないらしい。この辺が気分屋らしいところか。
現在はハイマンの雇われて彼の家族(美人の妻とかわいい娘)の身辺警護をしている。
もちろん美女が大好きな彼はおいしく頂いてる。母子共々親子丼で。
これが発覚し激怒したハイマン(とその企業)と戦うのが現在の夢なのだが、
残念ながら露呈されていない。
なお名前は自分で勝手につけた物であり、本名は知らなく興味がない。
愛称は『ハーディー』『ダブル・ハーディー』など。

【名前】ルナ・ノーグ・ブランズウィック
【性別】女
【年齢】17
【職業】反乱軍の騎士
【身体的特徴】普通の体格の猫族。毛皮は白く聡明な顔付き。
【性格】冷静を装っているその実、非常に熱い性格でよく暴走する。
【趣味】お菓子作り
【特技】突きを主体とした剣技
【経歴】かつて存在した王国の第二王女。姉のラウニーと兄のエバンス、そしてそれぞれの国から追放された王族達や兵士達や民達と、
    追っ手の来ない辺境の大陸で反撃の機会を待っていた。
【好きなもの・こと】お菓子、姉
【苦手なもの・こと】雨、血
【特殊能力】初歩〜中級的な神聖呪文(主に攻撃系)
【備考】
姉の率いる反乱軍に参加している。
反乱を始めた時点での実戦経験は無いが、一般兵にはひけをとらない程の戦闘能力は一応ある。
覚悟は決めているが、心の何処かで人を殺めることには強い抵抗を持っている。

【支給品説明】
【支給品名】イングラムM10
【出身世界】拳銃が生産されていた世界全般
【外見】いかにもサブマシンガンという外見
【効力】フルオート射撃で連射速度が非常に速い
【備考】
原作バトルロワイアルで桐山和雄が使用していたサブマシンガン。
説明不要、ぱららで有名。

予備弾と共にエバンスに支給された

【支給品名】ジェリコ941
【出身世界】拳銃が生産されていた世界全般
【外見】自動拳銃
【効力】9mm弾を使うため良くも悪くもな殺傷力
【備考】
イスラエルの兵器製造コンツェルンであるイスラエル・ミリタリー・インダストリーズ社
(IMI社:現イスラエル・ウェポン・インダストリーズ社(IWI社))によって開発された自動拳銃。
1990年より登場した。通称「ベビーイーグル」。



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