Don’t think. Feel!
とある夏の日を境に、日高恭の日常はおかしなことになってしまった。
妖怪退治に始まり、連続ビル爆破事件、奇妙な魔女との出会い、吸血鬼との追いかけっこ。
原因は考えるまでもなく一人の女との出会いによるものである。
そして今度は殺し合いときたもんだ。
まさか今回の件もあの女がらみじゃなかろうなと思わなくもないが、さすがにそれはないだろう。たぶん。
しかし今回の事態は何が起きたのかさっぱりだ。
いきなり殺しあえだのなんだの、言われてもはいそうですかとはいくはずもない。
とはいえ実際目の前で人が死んでる以上、冗談ではないことは確かなんだろうが。
「うーむ」
あんたはバカなんだから考えても分かんないことは考えるなとは姉の言。
いやはや全くその通りである。
さすが我が姉、言うことが違う。
何事も考える前にまず行動である。
というわけで早々に考えを放棄し、とりあえず配られたとおぼしき荷物の中身を確認をしてみる。
出てきたのは地図と時計に食糧と水、筆記用具にランタン。
そして、あの白髪のおっさんが言っていたランダムに配られるという武器なのか、使い古された一本のナイフと石っころだ。
ナイフはクラウン・ハイドとかいう奴のもので、石っころは衝撃を与えると爆発する炸裂鋼というものらしい。
とりあえず今は必要ないので、両方ともリュックの中にしまっておく。
そして最後に出てきたのは名前が羅列されているペラペラの本。
どうやら参加者名簿のようである。
名簿を開き上から順に目を通し知っている名があるかどうかを探してみるとしよう。
06.ヴァン・アルカード
これまでに俺が無茶な使い方をして破壊した魔道具の借金返済を名目に、ゆかりに引っ張りまわされながら追いかけた相手の名だ。
昼はダメダメだが、夜になると反則的に強くなるという半吸血鬼の青年である。
08.ウェルバー・フランソア・マツモト
バス停で往生しているところを助けたことをきっかけに出会った、ちょっと(かなり?)ずれた現代に生きる魔女だ。
魔女を名乗るだけあって魔法の腕はとんでもなかったが、何というか、性格的にかなり抜けてるので心配といえば心配だ。
14.木原豪
連続ビル爆破事件の犯人である超能力者。
初めに巻き込まれた妖怪退治の事情説明という名目で、たまたまゆかりと共に居合わせたビルを奴が爆破しようとしたため成り行き上ふん捕まえることとなったんだが。
「けど木原って、逮捕されたはずだよな……」
ふん縛った後、ゆかりが手配した”そういう相手”用の警察とやらに連行されたはずである。
あれほどの事件を引き起こした犯人だ、まさかもう釈放されたということもないだろう。
拘置所から直接拉致されたのだろうか?
なんにせよ絶対に会いたくはない相手だ。
20.澤村ゆかり
やはりというかなんというか、その名はあった。
様々な事件を金で請け負う請負人にして霊能力者。
借金はできるは死にかけるわと、この女に関わってからロクなことがない。
こいつに関しては心配するだけ無駄、というよりハッキリ言って自分なんかよりも要領がよく荒事のプロであるゆかりの方がよっぽど生存率は高いだろう。
できればもう関わり合いになりたくないのだが、借金という弱み加えて姉貴を助けてもらった恩もあり、ほとんど逆らうことができない状況にある。
それに、この手の事態で頼りになるのも確かである。
まあなんだかんだで悪い奴ではないと思うし探してみるとするか。
そして、つらつらと並ぶ知らない名の中に、ついに並んでいる自分の名字を見つけた。
30.日高恭 31.日高未来
「姉貴だと!? 冗談じゃねえぞ!」
同時に予想外の名を見つけ思わず怒鳴りをあげていた。
他の奴らは荒事に慣れた奴らだが、姉は何も知らない一般人だ。
こんなことに巻き込まれていい人間じゃない。
今すぐにでも姉と合流せねばと、いてもたってもいられず駆け出そうとした次の瞬間だった。
「覚悟!」
「うぉ!?」
背後から突然、額に手拭を巻いた男が襲いかかってきたのは。
不意を打たれたものの、長年路地裏で培った経験が反射的に体を動かした。
体を反転させ相手へと向き直ると同時に、向かってきた男が放った上段蹴りを左腕を盾に受け止める。
「こ、のっ……」
予想以上に強い蹴りにビリビリと左腕が痺れるが、それを無視して相手を組み伏せようと右腕を突き出す。
だが、相手はヒラリと身を屈めその腕を華麗にかわした。
大振りによって体勢の崩れたところに、カウンター気味の鋭い蹴りが放たれ、鳩尾に突き刺さった。
「ッ…………舐ぁめんなああ!」
痛みを根性で捩じ伏せながら、鳩尾にめり込んでいる相手の足を左腕で強引に掴んで相手の動きを封じ込めた。
「なっ!?」
「おるぅぅらぁああああああ!!」
そのまま右腕を伸ばし相手の襟首を掴んで力任せに引っ張りこみ、バランスを崩した相手の足を払う。
そしてそのまま、グルンと勢いよく空中で回転する相手の体を、思いきり地面に叩きつける。
ドスンという音とともに、その勝負は決着した。
■
「申し訳ない! てっきり物の怪の類かと」
そして今、目の前には土下座する青年の姿があった。
もちろんそれは先ほど襲いかかってきた手拭男である。
はっ倒したとたん手拭男が平謝りを始めたため、ひとまず事情を聴きだしているところである。
「あー。物の怪ってのはあれか? たしか妖怪とかそういうのだよな。
なんでまた、そんなのと俺を見間違えんだよ」
「見慣れぬその金に輝く髪をみてまさか南蛮の人間がいるとは思わず早合点した、申し訳ない」
「……なん、難波って、何だ? まあ、髪は染めてっからな」
「? 髪の染物……?」
はて、と互いに首をかしげて見つめあう。
何か話が噛み合っていない気がする。
「まぁいいや。京介、だったっけ?
俺は人を捜してんだけど、お前ここにきて誰か見なかったか?」
「いや、悪いがここにきて初めてであったのがお前だから、他の人間は見ていない」
「ま、そうだよな。まだ始まって間もねぇし」
あまり期待はしていなかったが、やはりそう都合よくはいかないようだ。
「そうだ、お前は知り合いとかいないのか?」
ふと気になったので尋ねてみる。
「ああ、妹と親代わりの坊さんが参加させられてるみたいだ。
坊さんは俺なんかよりよっぽど強いから大丈夫だろうけど、妹は心配だな」
どうやら家族を巻き込まれたのは俺だけじゃないらしい。
なんとも胸糞悪い話だ。
「それよりもこの鬼姫っていうのには気をつけろ」
「そいつも知り合いか?」
「知り合いなんていう生易しい関係じゃないさ。
京で対魔を生業とするもので知らぬ者はいないというほどの大妖だ」
「大妖ってのは、ようはスゲー強い妖怪のことだよな?」
「ああ、鬼姫がいるということは他にも妖魔の類がいるんじゃないかと思って」
「俺に襲いかかったと」
その言葉に京介は気まずそうな顔で頷いた。
まあ、こちらとしてもこれ以上責めるつもりはないので、その件についての追及はこれで終いだ。
「よし、んじゃチンタラしてらんねぇな、行くか京介」
「え? 行くって」
「ぁん? 妹を探すんだろ?
俺もとっとと姉貴を探さねえと、ついでにゆかりとマツモトも捕まえれりゃいいんだが」
そう言いながら勢いよく立ちあがり、気合いを入れて拳を手のひらに打ち付ける。
「いや、そうじゃなくて。俺と一緒に行くってことか?」
「ああ、そのつもりだったけど、なんか問題あるのか?」
どうせ当てもないし、人探しという目的が同じなのだから、一緒に行動する流れだと思ったのだが違うのだろうか?
「いや、自分で言うのもなんだけど、今襲いかかってきた相手だぞ?
そんなに簡単に信用していいのかよ、あのオヤジの言ってた通りこれは殺し合いなんだぞ?」
「んぁ? ぁあ……そういやそうだな」
深刻そうな京介の言葉。
まあはっきり言って深く考えていなかったというのが正直なところなんだが。
初対面の相手の身を案じている当たり十分こいつはお人よしっぽいし。
「けどまぁ、いいんじゃねえの?
お前が裏切るかどうこうなんて、どうせ考えてもわかんねえしな」
あんたはバカなんだから考えても分かんないことは考えるなとは姉の言。
いやはや全くその通りである。
さすが我が姉、言うことが違う。
【一日目・深夜/3-H 森の中】
【日高恭@非日常的現代世界】
【状態】鳩尾にダメージ(小)
【装備】なし
【道具】支給品一式、クラウンのナイフ、炸裂鋼
【思考】
1:最優先で姉を探す
2:ゆかりとマツモトも合流できそうなら合流する
【京介@陰陽魔道世界】
【状態】背中にダメージ(小)
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1〜3
【思考】
1:妹を探す
2:松伽宗禅も探す
3:鬼姫を警戒
【名前】日高 恭(ヒダカ キョウ)
【性別】男
【年齢】18歳
【職業】学生
【身体的特徴】 金の短髪、額に傷、目つきが悪い
【性格】粗暴、豪快、涙もろい、バカ
【趣味】喧嘩、犬の散歩
【特技】喧嘩、匂いで相手の体調がわかる
【経歴】一般学生、不良、落ちこぼれ
【好きなもの・こと】姉、ゴン(愛犬)
【苦手なもの・こと】姉、頭を使うこと、八方美人な女
【特殊能力】喧嘩最強
【備考】
裏のことなどないも知らない一般学生。
だったのだが最近、霊能力者と妖怪の戦いに巻き込まれた。
その時成り行きで霊能力者の協力のもと妖怪をボコり、その後もズルズルとおかしな世界へと巻き込まれていく。
【名前】京介
【性別】男
【年齢】18
【職業】妖怪退治屋
【身体的特徴】細身の長身、ハチマキ風に巻いた手拭いが特徴
【性格】勝気で喧嘩っ早いが、根は真っ直ぐ
【趣味】裏路地でごろつきを蹴散らすこと
【特技】体術
【経歴】元は陰陽師の一族。家族構成は巫女の妹、育ての親の和尚
【好きなもの・こと】焼き魚、おはぎ、下町の雰囲気
【苦手なもの・こと】高貴な人間、高所
【特殊能力】式紙(ただし下手)法術(ただし下手)
【備考】
陰陽師の家系だったが、妖怪に家族を殺され妹と共に孤児となった
その後とある寺の和尚に育てられ、家族の仇の妖怪を探して退治屋を始める
式紙の腕前は下手だが、何故か媒体を餅にすると立派に動くらしい
【支給品名】炸裂鋼
【出身世界】近世西洋風異世界
【外見】赤茶色の石
【効力】強い衝撃を加えると、派手な音と光を立てて爆発する特殊な鉱石
【備考】爆発自体の攻撃力は少なく、軽い火傷をする程度
【支給品名】クラウンのナイフ
【出身世界】近未来の荒廃世界
【外見】飾り気のないナイフ
【効力】通常のナイフと変わらない、切れ味はよい
【備考】
クラウン・ハイドが愛用しているナイフ。
何の変哲もないナイフだが、よく使い込まれている上に手入れが行き届いており、見る人が見れば感動の溜息を洩らす一品
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