フラグをたてる人






いつも俺の後頭部を柔らかな感触で支えてくれている低反発枕とは違う、やけに固い感触を後頭部に抱いた俺こと大久保敦は、すぐさま億劫ながらも身体を起こし、辺りを見渡す。

とりあえず俺はアメリカ縦断ツアーを企画中のバイカーもびっくりするようなハイウェイが辺りに広がっていた。

「……マジかよ」

どうやらあれは嘘ではないらしい。
もうすでに、マジに人殺しゲームが開催された。そう思うと背筋がゾッとする。
それに……

「…………チクショウ…やっぱいやがる」

デイパックから取り出した名前の書かれた紙。名簿を、懐中電灯と共に取り出して見ると、てめえの知り合いが、数人いた。

「アンナに…時村と時村妹に………」

少なくとも一通りこの場に呼び集められている。
参ったなぁ……何とか騙し騙しやってくれそうな時村は兎も角、女衆がどうも心配だ。
アンナは王女名乗ってその瞬間殺されそうだし、奈々ちゃんはまだちっさいから変なのに当たったら大変だ。

時村妹は……まあ心配ないか。
あいつの蹴りの威力は俺が一番知ってるから、アイツに当たった奴には心底同情するよ。


「……みんな無事でいてくれよー……」

さて、まあ自分の身も危険にさらされていると言うことには変わりはないだろう。
とりあえずこの場に誰かいないか…

あ、いた。


異国の王女、スポーツ万能少女、天才中学生、絡み辛い自己中な先輩、巫女服の詐欺師、喧嘩殺法メイド等に出会ってきた実績があるからもう誰が出てきても驚かない。
そこには褐色の肌に銀髪と言う俺の知り合いに負けず劣らず異質な少女が横たわっていた。
彼女の服は、凄まじくボロボロで、ところどころ布が破れている。
ひょっとして人型の何か、乃至死体でしたってオチが思い浮かんだりもしたが、それは本気で無しの方向にしてくれよな?

「うぅん……」

あ、よかった生きてるわ。まあそれはともかく……この娘をどうしよう…

「うぅん…………ザー……サイ」


……えっと、見知らぬ少女さん? 今のはひょっとして寝言ですか?

ん?

「…………」

その少女は、目を覚ましたようだ。そしてこちらを見ている。

「誰? アンタ」

彼女は寝惚け眼だったが、ややじとっとした視線でこちらを見つめ続ける。
それにしても随分日本語流暢にしゃべるな……アンナのSPか何かか?

「……悪いが二三質問させてくれないか?」

「………」

その少女は、相変わらず寝惚け眼のまま何も言わずに人差指に前髪を絡める仕草を取りながら相変わらずの視線。

「ひょっとしてジャップ?」
「いや、俺は敦だ。大久保敦。お前の知り合いのジャップさんとは違う。まあジャンプは毎朝5時に起きてコンビニで買うけどな」
「いや、日本人かって聞いてるんだけど」

「? いや、そうだが」
「だったら金出してよ。あるんでしょ?」

その少女は俺に銃を向けていた。

――

「ちょっと何だよいきなり」

銃を向けられる事は実を言うと初めてではなかったが、決して慣れはしないもんだ。

「別に身ぐるみ全部剥ぎ取ろうってんじゃないんだからさ。金出せばいいのよ」

この娘はひょっとして強盗か?
だとしたら不味いんじゃないか?
俺は丸腰。彼女は銃持ち。
正直言って、財布が抜き取られてることには気付いていたし、マジでどうしよう。

ああ…ちょっと待て。確か……

「ああ……今これだけしかないんだが……いいか?」

思った通り、俺のデイパックの中には財布が入っていた。
随分高級な代物と目されるそれを、彼女に譲り渡す。

「………結構入ってるわね?」
「さあな? たまたまこん中に入ってただけだし」

「まあいいわ。ありがと…………」

奪った財布と構えていた銃をデイパックの中に詰め込むと、その少女の表情は漸く綻びを見せ、先ほどのやや痛い視線も消え去った。

「じゃあね。アツシ」

「なあオイ。ちょっと待ってくれよ」

「アンタ名前何て言うんだ?」
「強盗に向かってわざわざ名前を聞くの? 酔狂な人ね。アンタ」

彼女からの言葉は尤もだ。
だが、流石に心配だったのだ。女の子が夜道を……それも人殺しが徘徊しているかもしれない滅茶苦茶危険な夜道を一人で歩くなんて…

「なあ。一緒に行動しないか? その方が安全だろうし」

「………やっぱジャップの考えはよく分かんないわ。アンタら未来に生き過ぎてんのよ」
「さっきのことなら気にしてねえよ。どうせアンタ撃たなかっただろ?」

「どうしてそう言い切れるの?」

彼女からのその言葉に、俺はすぐこう言い返す。

「アンタはいい人だよ。俺のダチの馬鹿共と同じ匂いがするかな……」
「誰が馬鹿だ!」

彼女の蹴りが俺の横腹に思いっきり命中した。


その瞬間俺は、言葉にもならないような叫びを上げて悶え、蹴りを喰らった左横腹を抑えて蹲った。

「うぉお……すげえ蹴りだな…」
「……死ね」

「まあアンタは…………銃ブッ放してホントに殺さないだけマシだわな」
「…………ホント…ああ言えばこう言う…」
「悪いな。俺はそう言う人間なんだ」
「ホント…ハタ迷惑」

憎まれ口を叩く俺に対し、彼女の言葉は相変わらずの態度だ。

「…………」

彼女の方を再び見てみると、彼女は再びデイパックを開け放ち何かを取り出したようだ。
銃が再び取り出されたか、と一瞬警戒もしたが、それは違う。
取り出されたのは財布だ。
先ほど強奪された俺の(たぶん違うが)財布。

その中から一枚の紙幣を取り出して、俺に向けて押しつけてくる。

「ヴィオラよ。ヴィオラ・メイフィールド」

「?」

何を言いたいのかよく分からないが、とりあえずその紙幣を受け取った。

「受け取ったわね!」

受け取ったその開口一番、彼女ことヴィオラが物凄くハイテンションに言い放った言葉がそれだ。

「これでアンタは私の奴隷よ! 気に食わないことばかり私の前で言いまくった罰!! この私ヴィオラ・メイフィールドに、今この場に置いて絶対服従しなさい!」

…………え?

こう言うのをこの場で言うのは何だけど今この場より、語り手は私! ヴィオラ・メイフィールドに移るわ!
このアツシって男……さっき私の奴隷となったばかりだってのに、その瞬間からだんまりを決め込み始めたわ………癪に障るような事ばかり言っときながら何だってのよ…

「…………プッ」
「な…何がおかしいのよぉ!」

「いや…さぁ。妙に俺の知り合いとデジャブしちまって…おかしくっておかしくって…………」

「…アンタがさっき言ってた馬鹿のこと?」

だとしたら癪に障るわ…

「いや、いい意味でだよ。そいつはホントにお前さんと同じ言葉を俺に向けて言ったのさ」
「そういやお前……アイツにちょっと似てるな」

「きゃっ!!」

アツシの顔が近づいて、思わず緊張してしまった。

「まあいいよ。何なりと私めにお申し付けください? ヴィオラ様?」

「…………悪い」

「気持ち悪い!! 様付けやめろ!!」

叫んで、そして再びアツシの左横腹に蹴りを喰らわせた。

「…………」

蹴りを喰らった左横腹を擦りながら、アツシは、先ほどの飄々とした表情とは違う、真剣な表情で

「少々遊びが過ぎたな……だが、俺は知り合いを救いたい。ヴィオラはどうなんだ?」

私にももちろんいる。
救いたい人。顔見知りの友人。
自分が信頼しているスラムの長クラウン・ハイドさん。
頼りになる人だけど…あの場にいた人をいとも簡単に斬り殺した男。
あんな人に当たったとしたらクラウンさんでも……

リディアの場合はさらに危ない。
彼女は人を疑う事を知らない。だからこそ危ないだろう。


ちょっと舞い上がり過ぎたかも知れない。
悔しいけどこのアツシとの会話…………ちょっとだけ楽しかったから…

「聞いてんのか? ヴィオラ」

「うっさいわね。聞いてるわよ!」

「………私にもいるわ。救いたい人…」

「だったら決まりだな。とりあえず探そうぜ。心配なら」
「そうねアツシ。そうだけど………」

「一つだけ…………いい…かな……?」

「市街地の店を回りたい?! ちょっとヴィオラさんアンタ何言ってんだよ!!」

「声が大きい! 誰かいたらどうすんのよ!」

私はとっさにアツシの口を塞いだ。

私たちがいたあの場から少しだけ歩くと市街地が見えているから、そこにちょっとだけ行きたかった。
それだけなのにアツシはこんなにも驚愕する。

「悪いが無理だ。近くにあるけどあそこには危ない奴が隠れ潜んでいるかもしれない……」

アツシの言う事は尤もだ。
だが……あそこにはスラムにはないような煌びやかな店がいくつもあるだろう。
行ってみたい。
そう言う気持ちがただただ募ってくる。
これはきっと我侭なんだろう。
でも……

「アツシ…お願い。ちょっとだけ見てみたいの…………」
「リスクはデカいぞ」

「アツシには迷惑を掛けないから! ……お願い………」

思わず涙が零れてきた。
リディアやクラウンさん。そして今この場にいるアツシ。そして自分自身の身を案じるなら私の我侭は決して許されるものではない。
でも……


「泣くなよヴィオラ! 分かった分かった!行ってやるから!」

「…………本当?」
「ああ。本当」


………………

「アツシー!! 早く来なさいよ!!」

ハイウェイから見えた市街地へ着くのに、それほど時間は掛からなかった。
久しぶりに石畳の地面を走る。ぼろぼろの靴からはダイレクトにほぼ近い形で地面の冷たさと凹凸が伝わってくる。

「ハァ………ハァ……速いなぁ…ちょっと待ってくれよ」

アツシは愚痴をこぼしながら息も切れ切れの状態で私についてくる。

「アツシ!! ここよここ! 私ここに行きたい!」

服がいっぱいショーウィンドウに並んでいる店が、商店街の石畳を少しだけ走ると見えてきた。
眼前に広がるワンピース! スカート! ジーンズ! 下着! ブーツ!

私の心は躍った。着てみたい…


「でも閉まってるんじゃねえか? ここだけじゃなくあらかたの店にはやっぱ誰も…」


私は、躊躇せずデイパックから取り出した銃でガラスの自動ドアを撃つ。
自動ドアは銃弾の命中と共に粉々に砕ける。

そして…


「あ……あうう…」

この銃……反動強過ぎる…………ちゃんと構えて撃ったのに手がジンジンする…

「大丈夫か!? ヴィオラ!」

アツシが漸く私に追いつき、駆け寄ってきた。

「……大丈夫よ。ちょっと反動が強かっただけ。もう慣れたから」

そうは言ったがこれだけの反動が続くのはキツいかも…
とりあえず銃はそのままデイパックに仕舞った。

「さ…さあ! 中に入ってみましょう!」

昔リディアと、クランたち子供衆が寝静まったあと、色々と話をした。
私は、ボーイフレンドもロクに作れないことやお洒落もロクにできないことを愚痴って愚痴って愚痴りまくった。
リディアにとっては耳に入れることが億劫でしかないような言葉だ。
でも彼女は聞いてくれた。
そして一言。

「ヴィオラちゃんなら彼氏くらいすぐにできるよ」

―――

「覗いたら殺すわよ!」

私は気に言った服を数枚持って、試着室のカーテンを閉めた。
カーテンの前でアツシを待たせてだ。


「じゃーん! どう」

自分が着ている服を見て、かなりアツシは面食らったようだった。

「お前………それはやめとけ。変な奴と誤解されるぞ」

「へ? 何で?」
「いや、そう言うのは何て言うんだ……? その…」

「でも私こう言うひらひらした可愛い服一度でいいから着てみたかったんだよねー」

「まあいいわ。私これにする!」

その服を着たまま試着室を出て、アツシの制止も聞かずに私はレジに向かった。
そうして、店員のいないレジにアツシから奪った財布の中の紙幣を置き、こう言った。

「おつりはいらないから」
「いや店員いねえって」

【一日目・深夜/5-D 市街地】
【大久保敦@日常+】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1〜4
【思考】:知り合いを見つける
1:アンナや時村たちは無事だろうか
2:ヴィオラを護る

【ヴィオラ・メイフィールド@近未来の荒廃世界】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、S&W M29(5/6)、予備弾丸(30/30)、ピーター・コルテスの財布
【思考】:知り合いを見つける
1:とりあえず最低でもリディアやクラウンさんと合流したい
2:アツシと…
※現在はゴスロリ系のファッションを身につけています
※銃の反動にあまり耐えられません



【名前】大久保淳(おおくぼ あつし)
【性別】男
【年齢】16歳
【職業】高校生
【身体的特徴】寝ぐせだらけの黒髪、中肉中背、とくに特徴のない顔
【性格】日和見主義だが、根本は熱血漢【趣味】特になし
【特技】家事全般、料理全般
【経歴】普通の家系の普通の高校生。
【好きなもの・こと】豚キムチ、ライトノベル
【苦手なもの・こと】勉強
【特殊能力】厄介事に巻き込まれることが非常に多い
【備考】
平たく言うと、彼の周りには何故かいろんなジャンルの美少女が集まる。
ようするに『それなんてエロゲ?』な日常を謳歌するうらやましい高校生。
無論、本人にはまったくそんな自覚は無い。

【名前】ヴィオラ・メイフィールド
【性別】女
【年齢】16
【職業】孤児
【身体的特徴】肌と瞳は褐色で、髪は銀髪。体型は痩せ型で、背もそんなに高くない
【性格】我が強く、傲慢な性格だが、面倒見はいい方
【趣味】仲間の孤児たちと遊ぶ
【特技】盗み
【経歴】元は軍事企業の社長令嬢だったが、今はスラムで数人の孤児たちと共に暮らしている
【好きなもの・こと】クラッカー、瓦礫から発掘したCDアルバム
【苦手なもの・こと】人死に
【特殊能力】特にないが、生への執着は異常なほどに強い
【備考】
前述の通り、元々は金持ちの家系の生まれである
戦争終結後に父が戦犯として逮捕されたと同時に全てを失い、スラム暮らしを始めている
住民の多くは、今でこそ彼女を信頼しているが、昔は嫌われていた



【支給品名】ピーター・コルテス三世の財布
【出身世界】近未来の荒廃世界
【外見】高級ブランド製の皮財布
【効力】何もなし。
【備考】中には、金の他、社内ID、免許証、ブラックカードなどが入っている。無論バトルロワイアルという場では糞の役にも立たない

【支給品名】S&W M29
【出身世界】少なくとも時代設定が20世紀〜21世紀までの世界(日常+、非日常的現代世界、近未来の荒廃世界)
【外見】他の銃に比べて、やや銃身が長く、重い。また、反動もなかなか強い。
【効力】装弾数6発。クマ猟用の拳銃弾である44マグナム弾を使うことができる。
【備考】
映画『ダーティ・ハリー』でクリント・イーストウッドが使っていた『最強の銃』として知られる拳銃。
今でこそ、その玉座を奪われているが、強い銃であることには変わりない



前話   目次   次話