信じる神






いつだって……いつだってそうだ。
いつだって僕は虐げられる。
お母さんは何もしていないのに殺されたし、僕自身も言われなき迫害を受けた。
本当に腐ってる。
教会が世界をダメにしたんだ。
糞にも劣るような神を信仰し、傀儡と化している。

「そこのクソガキ。そこで何をしているこっちへ来い」

誰かに呼ばれたような気がした。
だが僕は別に答えたくはない。無視しよう…
僕は灰色の地面に横たわっていたが、別に気にすることなくそれを継続させた。
立ち上がり、目を開けることなど億劫でしかない。

「こっちに来いという命令も満足に護れんのかノロマなクズ野郎が!」

随分と口汚い。
仕方なく目を開き、立ち上がると灰色のマントを身にまとい、山高帽を被った五十代くらいの小男が、槍を右手に携えた状態で、すぐ近くにいた。
その体格からは想像できないほど大きな怒鳴り声を上げている。

「貴様怪しいぞ! 異教徒か」

「………………」

「黙ってないで何か言いやがれクズが!」
「そう言う貴方は、まだ神なんてクズを信じてるんですか?」

「…何だと?」

男は、その言葉に酷く憤ったようだった。
まず顔に拳が飛んでくる。

「異教徒か貴様! それならばクズにも劣る! 貴様のようなキ○○イは!」

そんな事を言いながら、倒れている僕を蹴り、踏み躙り続ける。

「貴様のようなクズは! 改宗なぞさせても無駄だろう! どうせ教会のシスターに欲情し、マスかく始末だろう! そんなクズは教会にはいらん!」

「こっちから願い下げですよ。そんな劣った神…」

一際強い蹴りが、腹に決まった直後、一時的に僕へのリンチは中断された。

「殺してやるぞ異教徒めが…」

その男が槍を構える瞬間だった。

ルトガー・リー・ハートマンは、もともとは屈強で厳格なもともとは槍の名手たる重歩兵だったが、現在では宣教師となっている。
この槍は見たこともないような変な形状のものだったが、これも何かの導きであると、彼は思う。

彼が信じる神の導きであると。


だが逆に、ケイネス・アネイルは、ハートマンの信ずる神を、心の底から憎んでいた。
信じる者しか救わない。
布施を投じる者しか救わない。
権力者しか救わない。

それが神であってなるか。そう考えたケイネスは、必死に逃げ道を模索し、そして見つけた。

邪神と言う存在。


―――


「…………」

聞いた事のないような言葉を突然詠唱し始めたケイネスに、ハートマンは驚愕した。
今から死のうと言う人間が、何故こいつはそこまでの余裕がある?

「僕には…………邪神様が付いてるんだ… 教会の信じるせこい神なんかより…………謙虚な神が……」

「これ以上神を愚弄することは許さ…………んん…?!」

目眩が、突然襲ってきた。
足元がふらつき、槍も地面に転げ落ちる。
立とうと思っても、立てない。全く足に力が入らない。

「クズ野郎め……貴様邪神だと!? そんなものを崇拝することを…教会が赦すとでも思っているのか!!」

「ちょっと動かないでくれませんかね? まあ、魔力を持たない貴方は、“動けない”でしょうけど」

「と、言うか別にアンタらの許可なんて取る気はないんですよね」

ケイネスは、ハートマンの手から零れおちた槍を手に取る。
槍は重く、ケイネスの力では持つのがやっとだったが、それでも動けないハートマンを、刺し殺すのはケイネスでも容易になし得る。

「ではさようなら」

「何がさようならだこのクズ異教徒め!
貴様のような無知なキ○○イがいるからこそ教会が必要であることが何故分からんのだ。その塵よりも軽い脳ミソでも少し考えれば分かるだろう!?」

ケイネスは、自分の発動した黒魔術式の呪縛が、本当に効いているのか疑問に思った。
ハートマンは動かないが、口数は全く減らない。どんどん罵詈雑言が量産されてゆく。

「……」

ハートマンから奪った槍を、ゆっくりとこの男の右目に突き立て、どんどん力を込めて押す。

「貴様のようなクズ異教徒と、この世の空気を共有していると言うだけでも腹立たしい!
呼吸をするな! 全うな信者にその穢れた息をかけるんじゃあない! そして速やかに死ね!
いや速やかなぞと言う生易しい死に方なぞさせんぞ! 貴様は磔刑だ!
100日間灼熱の大地で吊るし、死体を切り刻んでさらに火を通し、屠殺場の豚の餌にしてやる!
貴様が私をここで殺したとしても! 神は貴様に必ず神罰を下すだろう!
神の恐ろしさを後々貴様のようなクズが知ることになるのだ! 私が今受けている痛みよりも!
何十倍もの苦痛と責め苦を神はお与えになる! せいぜい苦しめクズガ……」


槍が目に刺さっても尚、罵詈雑言を際限なく量産し続けるハートマンに、いい加減嫌気が差したケイネスは、
槍の刃先を少しだけ上にずらし、ハートマンの罵詈雑言の中でも一度だけ出てきた脳味噌を穿りだし、顔に穴を空けた。
思った通り、罵詈雑言は止んだ。


ケイネス・アネイルは、ルトガー・リー・ハートマンの亡骸には目も暮れず、再びぶつぶつと愚痴を呟く。

「邪神様は……見ていてくれていたかな…………きっとこいつは教会関係者だから喜んでくれるだろうな……」

「それにしても…なんでこんなタチの悪い奴が僕に当たるんだ………全く不公平だ…」

愚痴を溢しながら、何もないハイウェイをケイネスはようやく歩き始めた。


いや、何もないと言うのは多少の語弊があるだろう。
そこには一体の死体があるのだから。



【一日目・深夜/6-E ハイウェイ】
【ケイネス・アネイル@近世西洋風異世界】
【状態】健康、全身殴打、鬱
【装備】正宗
【道具】支給品一式×2、不明支給品1
【思考】
基本:教会関係者は皆殺し。同時に賛同者も募る
1:この世は腐ってる……
2:どうして僕ばかり虐げられるんだ? 不公平だ……
※黒魔術で対象を攻撃することが可能ですが、使うたびに体力も消耗します
※黒魔術は魔力的な力を行使できる者には効きません

【ルトガー・リー・ハートマン@近世西洋風異世界 死亡】
【残り43人】



【名前】ケイネス・アネイル
【性別】男
【年齢】24歳
【職業】商人・黒魔術師
【身体的特徴】見るものにさわやかな印象を与える白人。首より下の肌を見せず、常に白い手袋をはめている
【性格】商売時は好青年を演じているが、恨み深く受けた屈辱を決して忘れない
【趣味】邪神への祈り
【特技】呪い
【経歴】近年頭角を現した商人。魔女裁判で母親を処刑され異端の子として迫害を受ける。そのとき救いを求め邪神を信仰し黒魔術にはまっていった。
【好きなもの・こと】母、邪神
【苦手なもの・こと】人間、教会
【特殊能力】黒魔術を扱える
【出身世界】近世西洋風異世界
【備考】
表向きは商人だが裏では邪神を信仰する狂信者。
服の下には迫害の跡が残っているため、人前で服を脱ぐことはない。
アーニャやロムルスとは商売上で何度か顔を合わせた程度の中。

【名前】ルトガー・リー・ハートマン
【性別】男
【年齢】43
【職業】宣教師
【身体的特徴】身長はそれほど高くない。顔は実年齢よりも10歳ほど老けて見える。
常に灰色のマントと山高帽を身につけている。
【性格】口が異常なほど悪く厳格な性格。性根の腐った最近の信仰者たちを、
猥語をふんだんに交えた罵詈雑言で叱咤するのが日課
【趣味】旅、布教
【特技】1秒間に10回の猥語を口にする。
【経歴】元は軍で重歩兵として戦果を挙げ続けてきたが、ある戦闘で負傷し、軍に捨てられたところを教会に拾われる。
その後は熱心な信仰者として、若者に信仰を説く宣教師となる。
【好きなもの・こと】肉体の鍛錬、旅
【苦手なもの・こと】性根の腐った若者、チャラい若者、スティレット
【特殊能力】元は重歩兵部隊出身なだけもあり、重い鎧や鎖帷子を身に纏っていても素早く動ける。
また、槍術にも優れている(もっとも、槍は10年近く使用していないため腕が落ちているかもしれない)
【出身世界】近世西洋風異世界
【備考】
国々を回り、ほぼ強引に近い形で若者たちを信仰者(信仰マシーン)に仕立て上げている。
その為、口の悪さや猥語は、協会公認のものとなっている。
ちなみに、錬金術や魔術の存在は信じていない。



【支給品名】正宗
【出身世界】スチームパンク江戸時代
【外見】穂先が三日月の様に弧を描いた十字槍
【効力】平常時は刃は上に閉じているが、スイッチ一つで十字槍に変形する、閉じることも可能
【備考】
伊達正宗が扱う特徴的な穂先を持った十字槍。
十字槍の左右の部分が蒸気で動く仕組みになっている。



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