Word Life
レイ・レーストは上流貴族の子であった。
全ての面で絶大な評価をされ、「次代の大物」と噂されていた。
だが民衆を嘲笑い、どんなに苦しく辛い思いをしていても手助けをしない、
そんな貴族社会を嫌い出奔。
以後十数年間知識と体力を鍛錬しながらすごし、
不自由と言う名の自由で生きている。
さて、そんな彼は今、訳の分からないことに巻き込まれている。
アーニャの仕事を手伝い、ロムルスと談笑をしていたりと、
有意義な時間をすごしていた彼にはあまり嬉しいものではなかった。
「殺し合いか……悪いがそんな命を弄ぶ事を感心できないんでな」
あんな反吐が出る悪党の言うことを聞く必要がない。
悪党を殲滅するために彼は当然のように殺し合いに乗らないことを決意する。
彼は不服だが悪党から支給されたバッグの中身を確かめる。
最初に取り出したのは参加者名簿、彼はとりあえずその名簿をに目を通してみると、
以下の二人の名があることに気がついた。
アーニャ・ピカレンティア
ロムルス・アイネアイス
この二人は前述した通りレイの友人達。
自分と同じようにこんなふざけた場所にいるとは、
あの二人は決して弱くはないが……無事でいてくれと願う。
そう言えば最初の集まりのときに殺されたあの男も何度か見たことがあったが、
まあそこまで親しい仲ではなかったので思うことはない。
レイはさらにバッグを物色する。
出てきたものは硬い物体。
丁寧にも説明書が付属していたのでそれを細かく眺める。
姿形から使用方法まで、彼の人生で初めて知るものであった。
そう言えばこの物体に以外にも色々と初見な出来事が確認できた。
レイの今いる場所──地図で表すなら3-I──にある建物群。
この建物らは自分のいる場所では一度も見たことがない造りをしていた。
またあの悪党がやった複数な技……武器を消したり首輪をつけたり……
「まるで本の中の世界だな」
思わず声に出して呟いてしまった。
訳の分からないところに拉致され、殺し合いをしろと魔法を使い強要され、
またどこかに飛ばされたと思ったら見た事も無い建造物が沢山ある。
元の場所に帰りこの出来事を本にしたらベストセラーになるのではないかと冗談交じりで考える。
彼はとりあえずここは現実とは違い、そんな冗談みたいなこと、
例えば獣人やからくりで動いているものがいたり、
あるいは怪物に変身したり炎や雷などの魔法を操る人間がいたりと、
とにかくレイは何が起こっても驚愕しないようにと覚悟を決めた。
支給品を確認し終え一先ずアーニャ、ロムルスと合流を目的に行動を起こそうとした矢先、
レイの目の先には美しいという言葉が、まるでその人物ために作られた用に感じさせる美女がいた。
彼は注意深く距離を取りながらその美女を眺める。
と同時に彼女もそんなレイに対して手で胸元ををちらつかせ微笑みを浮かべる。
「ねえ……こっちに来てくださる?」
思わずレイはニヤリとしてしまう。
こんな美女に積極的な動きをされたら、同性愛者以外の男ならホイホイと向ってしまうであろう。
けれどもそれは普段の場合。
この場に限ってそう旨い話はない、レイは足から頭までじっくりと直視し言葉を返す。
「ああ……一秒でも早くあんたに飛びつきたいが……その破廉恥な動きをしている手の中の厄介なものを離してからな」
「ッ……!」
美女は少し悔しそうな顔をしながら、胸元の手にくわえているナイフを投げつける。
だがレイは簡潔な動きて飛び掛るナイフを回避する。
「あんたはこの殺し合いに乗るのかい?」
「うるさいッ!私はどうしても生き残りたいんだ!!」
レイはその言葉を耳にし呆れる。
あんな輩の言うことを素直に聞く奴はそう多くあるまい。
そんなリスクを賭けるより、輩に反抗する仲間を集めた方が良い。
「生き残りたい? だったら徒党を組んであいつらに抵抗した方が確率はグンと上がると思うぞ?」
「抵抗って……あんな理不尽な力を見せ付けられてどうしてそう思えるわけ? あんな奴らに抵抗できるわけないでしょ!!」
美女はとてつもなく絶望しているが故の発言か、
たしかに理不尽すぎる力だ、その辺りはレイも同感だ。
しかしだ、そんな理不尽な力を持っていてもだ。
「悪いが俺は理不尽な輩の命令を聞いてまで生き残りたいとは思っていない、あんたはそれでいいのか?
俺たちの殺し合いや死を酒の肴として見物し優雅に過ごしている奴らのために殺しあえだと? 冗談じゃない」
「あんたの意見なんて聞いていない!! 私は絶対に生き残りたいの!!」
レイは自分の意見を放つ、が美女も同じように自分の意見を話す。
(一種の錯乱か……それとも……)
いくつか彼女のことを考えていた折のことであった。
「伝衝烈波!!」
「なっ……!?」
美女が叫ぶと同時にレイに地を這う衝撃波が差し迫る。
一瞬息をのんだが、すぐさま物陰に飛び込み衝撃波をやり過ごす。
「悪いけど……あんたにはここで死んでもらうよ」
物陰にいるレイに向って美女が言いのける。
美女にとっては彼のような乗らない人物はいち早く殺しておきたいところか。
レイはこの状況をどう対処するか考える。
まず初めに浮かんだのは彼女を始末する考えだ。
だが彼女は決して快楽殺人者などの殺人に味を覚える人間ではない、
とにかく生き残りこの理不尽の悪夢から脱出したい、
だから殺し合いに乗っている。
言わば必死なのだ、そんな人物を殺すという考えにはなれなかった。
次にこの場で説得だが……これも厳しい、
彼女は一種の錯乱状態、この場の言葉などすぐ流してしまうだろう。
では何をするのが一番良いか?
殺さずに相手が絶対に自分の話を聞かなければならい状況にする。
そのためにレイは声を張り上げる。
「悪いが……あんたがその態度なら、俺も本気にさせてもらうぜ!!」
「無駄よ!!」
レイが陰から顔を出し叫ぶと同時に彼女も幾多の衝撃波をとばす。
近づくまでには衝撃波が彼を襲い、彼女に接近した後はナイフで攻撃してくる。
レイが得意とするのは打撃や投げ技等の近接攻撃、遠距離攻撃を主体とする彼女とはかなり相性が悪い。
しかも彼に支給された道具は上記の物体ただ一つ。
それも人を傷つける道具ではなく、どう見ても詰みであった。
だがレイはその道具を取り出し相手から見えないように持ち、飛び出すタイミングを計る。
彼女の攻撃が一時止む、それを把握し即座に物陰から飛び出す。
当然彼女も衝撃波を放つ準備をするが、
それよりも早くレイ隠してあったそれを口にあて──
「ウオォォォォォォォ!!!!!!!」
「ッ!?」
──吠える。
レイに唯一支給された物体、
それは自分の声量は遥かに上昇させる電子メガホン。
人間は突拍子もなく大きな音が聞こえる、
あるいは犬やライオンが吠えられるなどされると思わず竦んでしまう。
音は人間に安らぎや癒しを与えるときもある、だが驚きや恐怖も与える。
レイはそれを利用したのだ。
美女は鳥肌が立つような大きな声を聞き思わず体が竦むが。
すぐに体制を整え衝撃波を放とうとする。
「伝承烈……」
「遅いッ!」
だが先駆けて美女に攻撃を与えられる範囲内にレイは存在した。
それならばと今度はナイフでの一撃を試みる、
しかしそれよりも早くレイの拳が美女の腹部に突き刺さる。
「ウッ……」
彼女は思わず自分の意思と反して息を漏らす。
と同時に彼女の意識が吹き飛び前のめり倒れる。
「っと……一発で気絶してくれたか、こちらとしては美女を殴るなんて真似はもう勘弁だな」
レイは倒れふした美女のバッグを回収し彼女を肩に担ぐ。
とりあえず彼女を無力化することに成功した。
あとは逃げる場所がない室内にでもいき彼女が目覚めるのを待つだけだ。
彼女には色々と聴きたいことが山ほどある
名前は何か、どこから来たのか、なぜ衝撃波を放てるのか……
そういえば自分も名前すら名乗っていなかったからこちらか色々と挨拶するべきか。
「やれやれ……しかし本当に本の世界だな」
レイは痛切にそう感じながら歩みを進める。
その歩みは、幼い子供がスリルを求め山へ探検に出かけるようであった。
【一日目・深夜/3-I 街中】
【レイ・レースト@近世西洋風異世界】
【状態】健康 疲労(極小)
【装備】澤村ゆかり(肩に担いでいる)
【道具】支給品一式×2、木原豪のナイフコレクション、電子メガホン、不明支給品(0〜2)
【思考】
基本:命を弄ぶなんて関心できないな。
1:室内に移動して美女が起きたら情報交換。
2:アーニャとロムルスと合流したい。
3:まるで本の中の世界だな。
【澤村ゆかり@非日常的現代世界】
【状態】気絶中
【装備】
【道具】
【思考】
基本:絶対生き残る。
1:…………
【名前】レイ・レースト
【性別】男
【年齢】25歳
【職業】放浪の格闘家
【身体的特徴】高身長(190cm) 美形
【性格】正義や弱者に優しく、悪党に厳しい。言うなれば紳士。
【趣味】鍛錬、博打、静かな場所で読書
【特技】拳法、博打、嘘
【経歴】上流貴族の子であったが、親の経歴を嫌い13歳の時に家出、それ以後放浪の格闘家に。
【好きなもの・こと】清純な女性、綺麗な心を持つ人、実は優しい人。
【苦手なもの・こと】悪党、鬱陶しい女、トースト。
【特殊能力】投げ技のキレは大陸随一と言われる。また打撃もちょっとした相手なら数発で失神させる力を持つ。
【出身世界】近世西洋風異世界
【備考】
幼いころは親やその他の貴族から『次代の大物』と言われるほど聡明で将来を期待されていたが、
その聡明さゆえに貴族社会を嫌い13歳の時に家出する。
それから約10年間、各地を放浪し自分の武力と知力を鍛錬している内に、
いつのまにか世界に名を知られる放浪の格闘家になっていた。
現在はアーニャやロムレスのいる町に滞在中、彼らの仕事を手伝ったりもする(主にボディーガード)。
宗教には好きでも嫌いでもなく、彼からしてみれば「勝手にやっていろ」と言う感じ。
なおロムレスの人の良さに気づいており、彼が少しだけ特別にアーニャに対して優しい事も知っている。
ちなみに何故『トースト』が嫌いなのかは、自己紹介するときに毎回
「レイ・トースト?」「俺は食べ物じゃない」という流れがあるためである。
【名前】澤村ゆかり(サワムラ ユカリ)
【性別】女
【年齢】20歳
【職業】霊媒師
【身体的特徴】黒のロングヘア、スタイルはよく愛らしい顔立ち
【性格】八方美人、守銭奴
【趣味】貯金、ウィンドウショッピング
【特技】料理
【経歴】妖怪退治を請け負う霊媒師、幼少のころ借金が原因で一家離散した経験を持ちそれ以来お金に執着するようになる。
【好きなもの・こと】お金
【苦手なもの・こと】自分、バカな男、家族愛
【特殊能力】霊能力者としての能力は中の下だが、魔具や術式の扱いに長け、魔法もほんの少しだけだが使える。
【出身世界】非日常的現代世界
【備考】
日高を巻き込んだ張本人。
多感な時期に一家離散という経験をしているためか、家族愛というものが理解できない。
そしてその生い立ち故か、一見人付き合いが得意な社交的な性格に見えるが人間不信なところがあり、他人に対して決して本心を明かさない。
自分の容姿が他人より優れていることを自覚しており、これを利用することを厭わない。
【支給品名】木原豪のナイフコレクション
【出身世界】非日常的現代世界
【外見】さまざまナイフ
【効力】いろんなナイフ
【備考】機能美を求めたものもあれば造形美を求めたものもある。
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