三人寄れば






最悪のゲームの始まり。
僕が放り出された場所は風だけが吹き渡る草原の中心だった。
誰に見つかるともつかぬ場所でそのまま何もせず立ち竦んでいるはずもなく。
僕は適当な茂みを見つけるとその一角に気配を隠し身を潜めた。
もちろん漫画や小説の登場人物ような気配を消すなんて芸当ができるはずもなく、精々息を殺し身を縮める程度のものなのだが。

そして、その茂みからはこちらと同じくこの周辺に放り出されたでろう、一人の参加者の姿が確認できた。
ここから見えるのは白髪白髭の老人の背中。
身にまとっているのは甚平だろうか、かなり着古されているのか、ここからでもボロボロなのがよくわかる。
老人は開ききった草原の中心で身を隠すでもなく、なにやら一心不乱に手元を動かし何かをいじっているようだ。
ここからでは背を向けている老人の手元は見えないため、何をしているのかはいまいち不明瞭だ。

「何をしてるのお爺さん?」

老人に向かって声がかかる。
もちろん僕の声じゃない。
風にのって鼓膜に響いた凛とした声は女性のそれだ。
声の方向に視線を向けると、そこにいたのは声のイメージ通りの年頃の白人の女の子が立っていた。
目を引くのは左右の中央でまとめられた長い黒髪、いわゆるツインテールという奴だ。
身に纏う衣服はよく見れば老人と同じく古くうらぶれているが、適度に整えられた身なりと少女の笑顔の華やかさもあってか下品さは感じられない。

「あぁん? 見て分かんねえか嬢ちゃん、見たこともないモンが入ってたんでな、どういう仕組みなのかばらしてんだよ」

そう、ぶっきら棒な口調で返した老人の手元が見えた。
そこには何やら銃の一部らしきものが握られている。
どうやら、支給された銃を分解いていたらしい。

「うーん。それはわかるんだけど。
 こんなところでそんなことをしていたら危ないですよ。誰かに襲われちゃうかもしれないし」

少女は小首をかしげながら心配げに老人に話しかける。
それよりも気になるのは彼らの話す言語である。
英語、中国語、ドイツ語、ポルトガル語のいずれかならばある程度は理解できる。
そのどれで話されるのかと注意深く聴き耳を立てていたが、話されている言葉は日本語のようである。
老人はともかくとして、白人特有の白い肌からして、少女の方は日本人には見えない。
バイリンガルなのだろうか。それにしては、かなり流暢な発音である。
まあ、自分の学園にも日本を話す外国の王女などがいたりする訳だし、そう珍しいことでもないのだが。

「けっ。死ぬのが怖くて発明家がやってられっかってんだ。
 老い先短いこのジジイが怖えぇのは母ちゃんだけよ。
 そう言う嬢ちゃんこそ、こんなジジイに構ってていいのかい?
 どこで誰が狙ってるかもわからないんだぜ?」
「うーん。それは困ったわね。
 その時はお爺さんに守ってもらおうかしら?」
「カッカッカ。言うじゃねぇか。
 なかなか肝の据わった嬢ちゃんだ」

豪快に笑い飛ばす老人と穏やかに微笑む女の子。
この場に似つかわしくない見ようによっては親子のようなやり取りを見守りながら、僕は今後の行動を決めかねていた。

協力か殺害か。内容の違いこそあれど、どういったスタンスをとるにせよ参加者との接触は必須だ。
完全に誰とも触れ合わずこの場を逃げ回ることなど不可能だろう。

接触が避けられないのならば、なおのこと接触する相手は見極めねばならない。
目の前の二人はどうか。
やり取りを見る限り、いきなり襲いかかってくる可能性も低く、直接的な危険は少ないだろう。
分は悪くないと判断する。

力のない僕が生き残るためには誰かの力を頼るしかない事くらい理解している。
どの道、どこかで博打を打たねばならないのだ。
この程度の綱渡り渡りきれないようならば、生き残ることなど到底不可能だ。

突然身を明かしては反射的に攻撃される恐れがあるため、わざと草むらをかき分け物音をたて自分の存在を明かす。
もう後戻りはできない。
その物音に気付いた二人は、突然の事態に慌てるでもなく、静かにこちらに視線を向けた。
人生経験の成熟した老人はともかく、少女の方もなかなか堂に入っている。
両腕を上げ敵意のないことをアピールしながら僕は二人の前に姿を見せた。

「はじめまして、僕は時村蒼といいます。
 こちらに敵意はありません。少しお話してもいいですか?」



その後、苦もなく僕は受け入れられた。

場所を移し、僕らは互いに簡単な自己紹介を済ませた。
確認できたのは二人とも殺し合いなど行うつもりはないということ。
まあ、実際殺し合いに応じていたとしても、自ら殺し合いに乗っていることを明かすわけもないのだが。

白人の少女はリディア・ベイティという名であり、年齢は僕よりも一つ上らしい。
それとなしにどこの国の人間であるのかを聞いてみたが、はぐらかされてしまった。
何か事情がありそうな雰囲気は感じ取れたし、深く突っ込むような話でもないのでそれ以上は聞かなかったが。

平賀源内と名乗った老人は、職業は発明家であるらしく、奇しくも歴史上の発明家と同姓同名である。
まさか同一人物ということもないだろうし、それに肖ったペンネームならぬ発明家ネームかもしれないが、関連性は不明だ。

「情報交換を行う前に確認しておきたいことがあります」

ある程度の自己紹介を終えた頃合いを見計らって、僕は二人に向かって切り出した。

「なんでぇ、藪から棒に?」
「いわゆる優勝を目指さないで生き残るために、クリアしなければならない幾つかの条件があります。
 共通認識を持つための、それの確認です」
「条件?」
「はい。一つは生き残ること。
 一つはこの首輪を取り外すこと。
 一つはこの場所から脱出して、それぞれ元いた場所に戻ること。
 この場で僕たちがこの場で行動するにあってこの三つを念頭に置いていただきたい」

言って、一つずつ指を立ててゆく。

「まず一つ目、全ての大前提として生き残ること。
 当然ながら、これをクリアしないことには何もかも始まりません」
「ま、当然だわな」

この意見にもちろん異論はないのか、源内さんが軽く相槌を打ち、リディアさんも素直に頷いた。

「ですが、現状はかなり厳しい。はっきりって僕ら三人はかなり弱いです。
 僕は喧嘩なんてしたことはないですし、先入観で判断するのは失礼かもしれませんが、女性のリディアさんや高齢の源内さんに戦闘能力を期待するのは酷でしょう。
 素人相手の喧嘩なら数の利で勝てるかもしれませんが、あの黒髪の男のようなプロが相手では三人がかりでも勝てないでしょう。
 そしてこの場にいる人間で僕らのような素人がどれほどいるかわかりませんが、いったん戦闘になれば僕らに勝ち目はないとみて間違いないでしょう」

その事実は二人ともうすうす理解していたのか、神妙な面持ちで無言のまま頷いた。

「ですので、極力戦闘は避けるとしても現状の戦力だけは確認しておきたいので、お二人に支給された武器を確認したいのですが」

この提案にどう応じるか二人の反応を伺う。
支給品を明かすということは、自分の生き残るための手の内を明かす行為だ、そう簡単に応じてくれるとは思っていない。
思っていなかったのだが、何の疑いもなくリディアさんはそれに応じ、源内さんも特に否定するでもなくそれに続いて同意した。
これを警戒心の欠如と受け取るべきか、信頼してくれたのだと受け取るべきなのかは判断に困るところだ。

まあ、状況がスムーズに進む分には問題ないだろう。

「俺の支給品はこの銃と、あとは酒と数珠だな」

そまず源内さんう言ってが取り出したのは、言葉のとおり銃と酒と数珠だった。
銃は先ほど構造を見るため一度バラバラにしていたみたいだが、今は見事に元通りになっている。
発明家という肩書は伊達ではないらしい。
技術者としてかなりの腕であるのは確かなようだ

巨大なショットガンのような形をしたこの銃はなんでもカラドボルグというビーム兵器らしい。
大剣を振るう騎士が現れた時点で、ありえないことはあり得ないと思いなおしたが、何と言うか本当に漫画の世界だ。
まあ、健全な日本人男子としてビームという響きにロマンを感じずにはいられないのも確かだが。
威力と効果の確認するため、試し撃ちしてみたいところだが、源内さん曰く。

「一通り調べてみたが、その銃、とんでもなく反動がありそうだぜ」

とのことだ。
素人が撃てば肩が外れる可能性があるほどであるらしい。
なにより、この銃はかなりの重量である。
持ち上げるだけでかなりの体力を消耗しそうだ。
ましてそれを持ちながら走った跳んだの銃撃戦など僕では体力的に無理である。
扱いは控えたほうが無難なだろう。

続いて取り出した酒瓶には仰々しく黒龍と筆文字で書かれているが、中身は本当に何の変哲もない酒であるようだ。
これでどう殺しあえというのか。
確かにこれで思い切り殴れば、あるいは打ちどころが悪ければ死ぬかも知れないが、それなら素直に鈍器を支給したほうが早いだろう。
まあ、殺し合いという中で精神的緊張をほぐすための嗜好品だと解釈しておこう。僕は未成年であるため飲めないが。

そして、最後に取り出した数珠は1080もの珠が連なる、いわゆる百万遍念珠と呼ばれるものだ。
相手が幽霊や魑魅魍魎の類だというのならばありがたい代物なのだろうが、残念ながら人が相手の殺し合いでは役に立ちそうにない。

要するに、源内さんの支給品の中には使えそうなものは一つもないということだ。
ビーム兵器はいざと言うときの切り札として使えるだろうが、できれば避けたい。
反動で負傷する可能性もそうだが、誰かを撃つという行為自体もだ。

「私のはこれね」

続いて、リディアさんが取り出したのは天使の翼を模したアクセサリーだった。
たしか、学園近くのアクセ屋に同じものが売ってた記憶がある。
そのセンスはいまいち理解しがたいが、なんでも同じ羽の形が世界に1対しかなく、恋人同士でつけるといい雰囲気になれると評判の代物らしい。
ここにあるのはその片翼だけだ。
もう片方も別のだれかに支給されているのだろうか。

そして続いて取り出されたのは分厚いレンガのような本である。
見覚えのある表紙と形。
それは僕の愛読書でもある天上人というライトノベルだった。

「ちょっとその本を貸していただいてもいいですか?」

少し気になったので、まさかと思いリディアさんから本を受け取り見てみる。
快く受け渡してくれたリディアさんから本をを受け取り、ペラペラとページを読みながす。
そして、数ページごとに本の端に刻まれた折り目が目に留まった。
これは僕の本を読むときの癖のようなものである。
刻まれたページも記憶に一致する。
つまりこれは、僕の本であるということ。
そう言えばこの場に拉致られる直前持っていたカバンに入れていたはずだ。
武器没収の際に一緒に没収され再配布されたのだろうか?
というより、こんなものを配ってどうしろと?
確かに冗談の種として人を殴り殺せる分厚さと読者の間でささやかれているが、まさか本当にこれを鈍器に使えというのではないだろうな?
先ほどから、殺し合いには不相応なものが多々含まれているように思えるのは気のせいだろうか?
この本は僕のモノだったようだと告げると、リディアさんはじゃあお返ししますね、と言って支給品である本を譲ってくれた。
心づかいはありがたいのだが、こんな緊急事態に本など読んでいるわけにもいかないし、扱いに困るところである。

「それと、あと一個あるんだけど……」

最後になって、リディアさんがわずかに歯切れ悪そうにそう言った。
表情を曇らせるその理由は、取り出されたものを見て、すぐ理解できた。

「これは…………」
「あの兄ちゃんの剣じゃねえか」

出てきたのは僕の身長ほどはあろうかという大剣。
先ほど僕らの目の前で人を殺した男が初めに持っていた大剣だ。
悪いイメージを抱いても仕方ないだろう。
というより、スルスルと出てきたが、リックのどこに入ってたんだコレ?
明らかにリュックより大きいのだけど。
まさか生きてるうちに四次元ポケットの実物を拝めるとは思わなかった。

そしてこれもまた、僕にはとても扱えそうにない。
というより、持ち上げることすら不可能だ。
敵兵を鎧ごと切り裂くほどの宝剣らしいが、まさしく宝の持ち腐れである。

「僕の支給品はこの三つです」

二人の支給品を確認し終え、最後に自分の支給品をその場に並べらてゆく。
僕の支給品も二人と同じく三つ。
一つは癒しの力を持ったケアウルフの目を加工した『ケアウルフの瞳』というアイテム。
動物の眼球を加工した、少々グロテスクな代物だが。何でもその効果は握りしめて念じるだけで傷が癒えるというRPGの回復アイテムのようなものらしい。
効果が本当だというのならば、非常に重宝する代物だろう。

そして十字架。
なんでも参加者名簿にも名のあるソフィー・パソフという修道女の十字架らしい。
先程の数珠といい、ここには妖怪や吸血鬼でもいるのだろうか?

最後に羅針盤。
找人の羅針盤という人探しを行うためのアイテムだ。
非常に便利な代物のように思えるが、対象の髪の毛などの体の一部が必要となるため。
当然、敦や葵の髪の毛など手元にあるはずもなく、これまた使えないという結論である。

「で。結局、まともにつかえそうなのは三人そろってねぇってことか」

全ての支給品を確認しおえ源内さんが総括する。
その言葉のとおり、数珠に十字架、酒や羅針盤、本にアクセサリーと、戦いではまったく使えない日用品ばかりである。
レーザービームや大剣は使いようによっては強力な武器なのだろうが、僕らにはとても使えない。
唯一有効そうなアイテム、ケアウルフの瞳はあくまで回復ようである、回復するでもなく即死したら目も当てられない。

「どうするの?」

この有様にはさすがに不安になったのか、リディアさんが困り顔で僕に問いかけてきた。

「そうですね。てっとり早い方法としては戦える人に協力を取り付けることですね。
 その人ならこの武器を扱えるかもしれませんし、僕らが使えそうな支給品を集めて自衛するよりはよっぽど現実的だ。
 そして、後ろから切られたらたまったものじゃありませんから、協力を取り付けるのはある程度信頼のおける直接的な知り合いが望ましい」

僕の言葉に、リディアさんが少し納得いか気な表情でうーんと唸った。

「それはそうだけど、初対面って意味なら、私たちだってそうじゃない?
 私は二人のこと結構信用してるし、この場にだって他に信頼できる人はいると思うけど?」

面と向かって信頼していると言わ、聊か面を喰らったが、それ以上にその警戒心のなさは心配だ。
僕だってこの二人が殺し合いに否定的であるということを疑っているわけではない。
だが、完全に信じきったわけではない。
こんな状況で誰でも信用する甘さは命取りだ。

いや、違うか。
こんな絶望的な状況だからこそ、彼女は人を信じたいのだろう。
そう思えばこれまでの行動も納得できなくもない。
それは尊い価値観であると思うし、その生き方を否定するつもりもないが。
この場においては最低限の警戒心は必要だ、お互いに。

「そうですね。そうかもしれません。
 ですが、言い方は悪いですが相手の内心なんて誰にもわからない。
 たとえば僕らの関係だってそうです。
 僕も内心ではお二人を殺すための隙を狙っているのかもしれないし、お二人が本当に殺し合いに乗っていないとは僕には言い切れない」

「うーん。それはないと思うけどなぁ。
 蒼くんがその気ならとっくに私たちに襲いかかってるだろうし、私たちを疑ってるならわざわざ声をかけないでしょ?」

「それは、力関係が拮抗してるからですよ。
 僕がこの場で二人に襲い掛かったところで、源内さんとリディさんの二人がかりで抑えられてお終いでしょう。
 正直僕では二人がかりで抑えつけられたらどうしようもない。
 そして、それはこの場にいる三人全員に言えることです。いわゆる三竦みですね。
 お二人は元の知り合いではなさそうですし、結託してる可能性も少ない。まあそいう策である可能性もありますが。
 だから、どちらかが乗っていたとしても対処できる、そう思ったから僕はお二人に声をかけたんです」

今言った言葉は本当だ。
殺し合いに乗っていない可能性が高い相手であり、かつ例え乗っていたとしても対処できる相手。
彼らに声をかけた最大の判断基準はそこである。

「ですが、僕らがこれから協力を得ようとしている戦闘巧者が相手ならばそうはいかない。
 その人物が手のひらを返せば戦闘能力に乏しい僕らはあっという間に全滅です」

僕の言葉にリディアさんは納得いかなげな表情を浮かべていた。

「そうかもしれないけど、その人が裏切るとは限らないでしょ?
 私たちには力が足りない。情けないけど誰かの手を借りなければ生き残れない。
 それは私も本当だと思うし、蒼くんが慎重になるのもわかるわ。
 けど、そんな疑ってばかりじゃ誰とも手を取り合っていけないよ?」

「ええ、それも一理あるでしょうが、この場においてそれを見極めるのは非常に難しい。
 だったら、始めから信頼のおける相手を仲間にした方がはるかに効率がいいし安全だ。
 誰彼かまわず信用すること自体が悪いことだとは言いませんが、だけど、それはこの場では命取りになるということを肝に銘じておいた方がいい」

リディアさんのリアクションはかねがね予想通りだが、その調子を続けて死なれても寝覚めが悪い。
納得してもらわないと今後いろいろと困るのでこちらとしても譲れない。

「ま、何せよ知り合いと合流するってのは賛成だわな。
 嬢ちゃんも、知り合いが心配だろ?」

そんな僕らの様子を見かねてか、源内さんが声をあげた。
その相変わらずの調子の源内さんの声に、熱しかけた頭を冷ましたのか、リディアさんは一つ深呼吸をすると落着きを取り戻した声で言った。

「……うん。そうね。
 ごめんなさい。私のことを心配して言ってくれてるんだもんね。
 ありがとう、蒼くんの言ってることも正しいと思うわ」

改まられると少々照れくさいのだが。
というより、彼女を諭したのは巻き込まないとめの自分の都合だし。

「いえ、こちらこそ言いすぎました、すいません」
「うん。けど、信頼できるってわかれば問題ないってことよね?
 大丈夫、きっと信じられるってわかる人もいるはずだから」

意志の強い女性は嫌いではないが、思った以上にリディアさんは意固地だ。
これ以上もめても面倒なのでひとまずは置いておこう。

「わかりました。人選の是非はひとまず置いておいて、知り合いの情報を交換しましょう。
 まず僕から、と言っても言い出しっぺがなんなんですが、僕に頼りになりそうな知り合いはいませんね」

敦はいざという時に頼りになる男だが、今回は事態が例外的すぎる。さすがに頼りにするのは難しいだろう。
妹は運動神経はそこそこいい(らしい)が一般人に毛の生えたようなものだ。
軍人や武道家のような玄人相手にはなにもできないだろう。

「けど、その口ぶりだと知り合いがいないってわけじゃねぇんだろ?」
「ええ、妹と友人が一人。
 あとは、顔と名前は知っているけどそれほど親しい仲じゃないのが二人ほど。
 全員が僕と同じ一般人ですので、身を守る頼りにはならないと思いますが、とりあえず特徴だけは伝えておきます」

そう言って僕は知り合いの特徴を伝えていった。
リディアさんと源内さんは僕が伝える知り合いの特徴を真剣な眼差しで聞いている。
わざわざ伝えずとも僕がともに行動をしていれば面識に問題はないのだろうが、何があるとも限らないので伝えるに越したことはない。
一通り伝え終わったところで、続いて源内さんが口を開いた。

「じゃあ次は俺だな。
 そうだな、名簿を見る限りでは俺の知り合いは、笠置獣兵衛ってのがいるな。
 獣兵衛の奴は腕は立つぜ、あの黒髪のあんちゃんにも負けないくらいにな、さっきの剣も使えるんじゃねぇか?。
 あとは道四郎の野郎がいるみてぇだが、まあこいつは役に立つには立つんだろうが、ほっといてもかまわねぇや」
「それはなぜ?」
「とんでもねぇ変人だから」
「なるほど」

そして源内さんからは獣兵衛という男の特徴と、取り合えず道四郎という男の特徴も聞いておいた。
知っておいて損になることはないだろう。

「じゃあ次は私ね。
 私の知り合ってる人はクラウンさんにヴィオラにピーターさんの三人ね。いるみたいだけど、みんな殺し合いに応じるような人たちじゃないわ。
 その中で一番頼りになるのはクラウンさんかしら?
 私たちの住んでる地域を取り仕切ってる人なんだけど、頭もいいし、仲間を裏切るような人じゃないわ。
 あとはヴィオラっていうのは、私と同じ年くらいの女の子で、面倒見のいいとってもいい子よ。
 ピーターさんは…………うーん。頼りになるとは言えないけど、悪い人ではないわね」

リディアさんから外見的な特徴を聞き終え、一通りの知り合いの情報を頭の中で整理し、僕は結論を出す。

「では、クラウン・ハイドと笠置獣兵衛、この二人を優先して探しましょう」
「お友達や妹さんはいいの?」

リディアさんが心配じゃないのか、という疑問の目でこちらを見ている。
確かに今あげた名の中に僕の知り合いは含まれていない。

「構いません。優先するといっても、別に他の人間を探さないわけじゃありませんから。
 東と西に探し人がいるとして、優先すべき人物がいるのならそちらに向かう、その程度のものです」

それが、致命的な喪失につながる可能性もあるだろうが。
もし本当にそんな状況に陥ったとしても僕は自分の決断に従うつもりだ。

「さて、一通りの現状の確認と互いの情報を交換できたところで、二つ目」

そう言って僕は自分の首に光る輪っかを指さす。

「この首輪がある限り、僕らは主催者に命を握られ続けることになる。
 これれの解除は生存には必須となります」
「それなら任せときな!」

声を荒げて胸を張ったのは源内老人だった。

「俺なら、道具さえありゃこんな首輪チョチョイで外してやるぜ!」

源内さんはそう自信満々に言い切った。
首輪の構造がどういったものなのかは不明だが、専門家がそいう言っている以上、任せてみるしかない。
技術者である彼の方が僕のような素人なんかよりもよっぽど適任だろう。

「では源内さん、首輪の解除に関してお任せしても構いませんね」
「おうよ。任せときな!」

ドン、と胸を叩き、すごーいとリディアさんは源内さんを称えている。
だが、その方法を嫌悪してか、源内さんは口には出さなかったが。研究するにしても、首輪のサンプルは確実に必要だろう。
その過程は考えたくはないところだが、殺して奪うのは論外としても、適当な死体を解体するしか入手方法はないだろう。

「最後に三つ目。この場からの脱出手段ですが、これに関しては今のところあてはないですね。
 もちろん探していきますが、配られた支給品や会場内の道具に期待するしかないですね」
「でもそんな都合のいいものがあるかしら?」

当然の疑問だ。
わざわざ自らの舞台を壊すような仕掛けを主催者たちが用意するはずもない。

「ええ、わざわざ用意してくれているとは思いません。
 だが、絶対に穴がないとも思えません。例えばこれ」

そう言って僕はレンガのような本を取り出す。
先ほどリディアさんに譲り受けた天上人である。

「それがどうかしたの?」
「これは僕の本です」
「ええ、そうみたいね」

僕がなにを言いたいのか理解できないのか、リディアさんが首をかしげる。

「いいですか、これはみんなが集められたあの場所で僕が持っていた本なんです。
 僕の記憶が確かなら、他の人も所持品を奪われ、再配布されているはずです。
 主催者側が用意した道具ならともかく、あの場で用意した道具になら、主催者にも思いもよらぬ付け入る隙はあるはずです」

ほー、と感嘆の声を上げる二人に、可能性は薄いですがと付け加え釘を刺しておく。

ひとまず、一通りの方針は決まった。
内心で方針を確認する。

身を守る手段としては、極力戦闘は避けること。
そして、源内さんの知り合いである獣兵衛さんとリディアさんの知り合いであるハイドさんの協力を得ること。
首輪の解除に関しては源内さんに一任する。
サンプルもできるなら入手する。
脱出手段に関しては、主催者の想定しない没収品に期待する。
そして、その他方法があるかどうかも模索する。
とりあえずはこれでいいだろう。

「あまりじっとしても危ないですし。方針も決まりましたところでそろそろ行きましょうか」

僕がそう切り出すと二人は荷をまとめ立ち上がる。

「よーし、それじゃあがんばろー」

すこし間の抜けたリディアさんの掛声とともに、僕らは行動を開始した。


【一日目・深夜/6-C 草原】
【時村蒼@日常+】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、天上人、找人の羅針盤、ソフィーの十字架、ケアウルフの瞳
【思考】
基本:生き残る、戦闘は極力避ける
1:知り合いとの合流(クラウン・ハイドと笠置獣兵衛を優先)
2:脱出集団を探す

【リディア・ベイティ@近未来の荒廃世界】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、堕天使の欠片、ファルフード
【思考】
1:知り合いと合流したい
2:疑うことはしたくない

【平賀源内@スチームパンク江戸時代】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、カラドボルグ、黒龍、百万遍念珠
【思考】
1:首輪を調べる



【名前】時村蒼(ときむら そう)
【性別】男
【年齢】17
【職業】高校生
【身体的特徴】かなり低身長(160くらい)なこと以外は平均以上のルックス
【性格】マイペースで基本的に本以外のことには関心が無い
【趣味】読書
【特技】語学(五ヶ国語を読める)・速読
【経歴】ごく普通の家庭の長男 体育会系の妹がいる
【好きなもの・こと】読書 得意科目:現代文・古典・英語・世界史
【苦手なもの・こと】運動 苦手科目:家庭科・体育
【特殊能力】一週間の読書量は平均50冊
【備考】
典型的な文化系男子高校生。普通でないのはその読書量で、何をしている時も本を読んでいる。
基本的に真面目でしっかりした性格のツッコミ役だが、本が関わるときのみはその限りでない。
高校一年生の前期は学級委員長だったが、その後は本人の希望で図書委員を続けている。

【名前】リディア・ベイティ
【性別】女
【年齢】18
【職業】孤児
【身体的特徴】白人。黒髪のツインテール、背は低いがかなり胸は大きい
【性格】楽観的な性格で、何事にも動じない
【趣味】料理(ひどく不味い)
【特技】特になし
【経歴】その性格からは想像できないかもしれないが、戦前から孤児だったらしく、壮絶に不幸な半生を送っている。
【好きなもの・こと】スラム街のみんな
【苦手なもの・こと】人の心が荒むこと
【特殊能力】特になし
【出身世界】近未来の荒廃世界
【備考】
スラムのみんながヴィオラに警戒している最初のうちから、彼女に何のためらいもなく接していた。
スラムの住民にも一目置かれており、スラム内でも比較的高いヒエラルキーに立っている。
また、その過去のわりには、誰を恨むこともしようとはしない。
クラウンをして、『できた人間』と言われていた。

【名前】平賀源内
【性別】男
【年齢】69歳
【職業】発明家
【身体的特徴】白髪白ひげ
【性格】研究のためなら相手が将軍だろうとなんだろうと喰ってかかる豪気で豪快な爺さん
【趣味】研究、発明
【特技】機械弄り
【経歴】この世界の蒸気機関の発展に大きく貢献した研究者
【好きなもの・こと】蒸気機関、研究
【苦手なもの・こと】嫁
【特殊能力】蒸気機関の開発
【出身世界】スチームパンク江戸時代
【備考】
この世界に蒸気機関を発展させた第一人者。
開発にのめりこむと三日三晩食事や睡眠をとらないこともよくある程の根っからの研究者。
恐妻家。



【支給品名】天上人
【出身世界】日常+
【外見】700ページ超のライトじゃないノベル
【効力】軽く鈍器になるくらいに重く厚い本。
【備考】
時村蒼の愛読書。
ある男があの世で俳優になり、夢を叶えるみたいな感じの話だが、かなり長いため敬遠されがち。

【支給品名】找人の羅針盤
【出身世界】非日常的現代世界
【外見】中央に窪みのある羅針盤
【効力】人探し用の羅針盤
【備考】
澤村ゆかりの仕事道具の一つ。
捜索対象の体毛や皮膚などの体の一部を中央にある窪みに入れると対象の現在位置を指し示す羅針盤。
効果範囲は2〜3Km程度だがジャミングに弱い。

【支給品名】ソフィーの十字架
【出身世界】近世西洋風異世界
【外見】十五センチ程度の十字架
【効力】何の変哲もない十字架
【備考】
教会に普及している一般的な十字架。
気休め程度の魔除けの効果はある。
迷信通り吸血鬼に効果があるかもしれない。

【支給品名】ケアウルフの瞳
【出身世界】ファンタジー的異世界
【外見】拳大の目玉
【効力】癒しの力を持ったケアウルフの目を加工したもの。
    握りしめて念じれば外側から身体を回復することができ、軽度の症状なら十分程度念じていれば完治する。
    重度の症状は相当長い間念じないと癒やせない。
【備考】魔法的処理が施されており、何度が分けて使用できる。秘められた力を失うと破損する。

【支給品名】堕天使の欠片
【出身世界】近世西洋風異世界
【外見】片翼の形に造られた銀のアクセサリー
【効力】黒魔術の力が込められている。
【備考】
とある黒魔術士が造りあげた、世界に一対しかない魔具。2つ揃えると邪神をその身に宿すことが出来るという言い伝えがある。

【支給品名】ファルフード
【出身世界】ファンタジー的異世界
【外見】刃渡り150センチ程度の大剣
【効力】龍に特効
【備考】
帝国将軍テイル・D・ブラドーの愛剣。
鉄ではなく龍の背骨を加工して作られた一品物。
常人では振るうことすら困難な一刀であるが切れ味は抜群である。

【支給品名】カラドボルグ
【出身世界】仮想SF+ロボット世界
【外見】かなり大きいサイズのショットガン型の銃
【効力】太いレーザー光線を散弾の如くばらまくように撃ち出す
【備考】
神話の聖剣の名前を冠した強力な個人用レーザー兵器。
緊急時にテロリスト、レイト・ブランドが扱う。
威力が強力だが異様に重かったり反動があまりにも強すぎたりと扱いにくい。
一応バレル部分の一部が取り外せたりしてばらまく範囲を調整できる。
装弾数は四発。

【支給品名】黒龍
【出身世界】日常系
【外見】一升瓶
【効力】お酒は20になってから
【備考】
仰々しい名前だがただの酒である。
辛口の純米酒。アルコール度数は高い。

【支給品名】百万遍念珠
【出身世界】陰陽魔道世界
【外見】1080の珠が連なる百万遍念珠
【効力】法力などの効力を強化する
【備考】
松伽宗禅の持つ数珠。
法力などの術式の効果を高める。
魔除けの効果も持つ。



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