知らなすぎた男
ピーター・コルテス三世は、世界の広さを知らない。
子供のころから完璧に保護された、無菌室のような場所で過ごし、大人になったあとも親が予め敷いていたレールを歩むだけの人生。
だが彼が外への好奇心を抱くことはなかった。
潔く己が運命を受け入れ、その望みが如何に強欲かを…普通でありたいと思う心が普通の人々の心をどれだけ踏み躙るかを知ったのか?
答えは否だ。
彼は純粋に、疑問に思わなかっただけ。
その幸せな脳故に。
―――――
「………」
ホテルの一室。
床の上で覚醒したピーターは、身につけている時計を見つめる。
何故床に寝かされているのか。と言う事は疑問に思わなかった。
未だ部屋の電気を点けていない。ようするに部屋が真っ暗で時計が見えないわけだ。
「……参ったな。変な夢見たから起きちまったよ」
どうやらピーターは、先ほど起きた惨劇と狂ったゲームを、夢として受け止めているようだ。
彼はすぐさま立ち上がり、3歩前に歩を進めたところで、右足の小指に激痛を覚え、声にならない叫びを上げる。
「何だァ!? 僕の部屋と家具の配置が違うぞ!!?」
ここで漸く、自分が自室で寝ていない事に気付いた彼は、自分が足の小指をぶつけた家具が何か、触って確かめる。何かが置かれていることはぶつかった時の音で分かった。
そしてピーターは推測する。
これは『ランプの置かれた小棚』だ。
と、言う事は、その側面にはベッドがある確率が高いと言うことになる。
ピーターは右側面に、ベッドがあると言うことを大前提としたうえで、そこに腰かける。
「ふぃ〜。よっこらしょういち―――?!」
そこにベッドはなかった。
ピーターが激痛に悶えるのは、既に2回。
未だ十分も経っていないのにだ。
「う…うぉおお」
ピーターの推測は、あらかた正解だが、ベッドの位置は全く違った。ピーターとは逆。つまり左に配置されていたのだ。
ランプを点灯して初めて、部屋の全容が見えてきた。
自分的にはやや物足りなく、狭い部屋だ。テレビのサイズもかなり小さいし、ルームサービスを呼ぶ電話もない。
「……参ったな。また変な女に騙されたようだ」
時刻は現在0時を少し回ったところ。
女に騙されたにしては若干起床が早すぎるとも思ったが、それよりも何よりも財布と重要な書類の入ったスーツケースがない。
特注の純金製携帯電話もない始末。
「困ったな。随分と悪い女に引っかけられたようだ」
ピーターは馬鹿だが、顔はいいためにモテる。
このゲームに参加させられる前にも、事実心当たりはあった。
朝は、友人のハリウッドスターと朝食を摂り、撮影も見学。彼が主演するアクション映画にノーギャラでカメオ出演した。その際に友人と共演していた女優に誘われて少し話をする。
その後は予定をすべてキャンセル。そして夕刻には、彼らと共にもう既にバーで酒を飲み、その女優を含めた女を数人侍らせていた。そのうちの誰かだろう。
「ああ参ったな………どうしよう… だが顔が思い出せないぞ」
おまけにどうだろう。足元には自分の持っていたスーツケースとは別の鞄が。
中を開けると、そこには食料などを含めたいろんなものが入っていた。
だが、ピーターが取り出したのは水だけ。
それを口に流し込み、口を濯いたいと思っていたからだ。
やはり家の水より不味い。
「……さて…これからどうしようか?」
この馬鹿な男も、ようやく危機的な状況に自分が立たされていることに気付いたのか?
と思われたが実際には違う。
彼はベッドにもぐりこみ、ランプを消した。
「毛布が薄いな…」
ハッキリ言って、危機感はゼロだ。
【一日目・深夜/6-H ホテルの一室】
【ピーター・コルテス三世@近未来の荒廃世界】
【状態】健康、ケツ痛い
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1〜3
【思考】
基本:さてこれからどうしよう……
1:そもそもここどこだ?
2:財布どうしよう…
3:まあいいか。寝よう
【名前】ピーター・コルテス三世
【性別】男
【年齢】25歳
【職業】財閥の総帥
【身体的特徴】白人。水色の髪のオールバック。喋らなければ絶世の美男子
【性格】凄まじくバカ
【趣味】女遊び、金を湯水のように使った豪遊
【特技】金を湯水のように使った豪遊
【経歴】戦時中は、経済特区として栄え戦争を回避していた日本にいた為、戦争の悲惨さを全く知らない。
【好きなもの・こと】この世の全ての女性
【苦手なもの・こと】頭を使うこと
【特殊能力】バカだがIQと記憶能力は高い
【出身世界】近未来の荒廃世界
【備考】
ヴィオラたちが住むスラムで、よく講演会や炊き出しを行っているが、金持ちを嫌う彼らには心底嫌われている(それでもバカなピーターは彼らに好かれてると思い込んでいる)
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